如月の回想 その5 ~ 阿東藩訪問の理由 ~
私が、ぼそりと優さんのことを「すごく綺麗」と言ったことに、拓也さんの他のお嫁さん達は、誇らしげでもあり、また、少しだけ妬いているような、そんな雰囲気を感じ取りました。
当の優さんは、きょとんとしていましたが……。
そして優さんが来たことにより、これまでの経緯を、簡単に凜さんが説明してくださいました。
そしてそれを全て聞いた優さんは、
「拓也さんらしいですね……でも、それだけ正直におっしゃってくれる如月さんも、皐月さんも、本当にいい人なんですね」
と笑顔で応えてくださいました。
その様子を見た私は、
「優さんを見て、拓也さんがお嫁さん達のこと、大事にされている理由がよく分かりました……本当に素敵な方……」
と正直に言葉にしました。
凜さんをはじめとするお嫁さん達は少し苦笑いしていましたが、彼女たちのなかでも、やはり優さんは拓也さんにとって、特別な存在なのだと感じました。
もちろん、拓也さんの性格からすれば、みんな平等に接して、とても大事に思っているのでしょうが……どこか優さんに対してだけ特別な感情を抱いていることが、なんとなく読み取れてしまいました。
「……そういえば、如月は、なんとなく優の若い頃に似ているな……」
ナツさんが、私と優さんの二人を見比べながらそう話しました。
優さんが最初に拓也さんと出会ったのは、今の私と同じぐらいの歳の頃だった、とも聞いていました。
「そう言われてみれば、そうね……拓也さん、よく我慢しましたわね……」
凜さんが感心したように言いました。
「だ……だから、我慢とか、そういうんじゃないからっ!」
顔を赤く染めながらそう弁明する拓也さんを見て、またみんな笑っていました。
その後、雑談で打ち解けたところで、拓也さんが私に、松丸藩からこの阿東藩までやってきた理由を尋ねてきました。
一応、表向きは拓也さんへのお礼の旅、ということでしたが、本当のところは
「せっかくなので阿東藩において、前田拓也という人物がどのような地位にいて、どのような活動をしているのか見学に行った方がいいだろう」
という、東元安親様の配慮によるものでした。
通行手形も、安親様が直々に発行してくださったおかげで、すんなりと関所を通過して来られたのです。
また、礼儀作法を教えてくださったその人が、松丸城内にて道案内までしてくださったのに驚き、さらに松丸藩でも相当な重鎮の方だと聞いて、もっとびっくりしたのですよ、ともお話しました。
それに対して拓也さんは、
「うん、まあ……最初っから身分を明かしていると、緊張して教わるどころじゃなくなると思ったから」
と話してくださいました。
「でも、練習中に無礼があったら、捕まるぐらいにえらい方だったのでしょう?」
妹の皐月が、そんなふうに拓也さんに尋ねました。
「いや、そんなに怖い人じゃないから紹介したんだよ。それにあの人は、俺にとって『盟友』でもあるしね」
「そうなんですか……でも、お殿様のすぐ側にいらっしゃって、まるで右腕っていう感じでしたから……そんな凄い人と『盟友』だなんて……やっぱり拓也さんも凄い方なんですね……」
私は素直に本音を話しました。
すると、拓也さんはその言葉に意外な反応を示されました。
「お殿様って……松丸藩主様と会えたのかい?」
「はい、会ってくださいました。ほんの少しの時間でしたが……とても威厳のあるお方でした」
それを聞いて、拓也さんは少し驚いた表情をしていました。
拓也さんにしてみれば、私たちが松丸藩主様にまで会うことになるとは思っていなかったようです。
そして、
「松丸藩の今の藩主様は、山奥の小さな村にまで気をかけることができる、立派な人物なのかもしれない」
と、認識を新たにされたようでした。
そし私たちは、安親様の
「阿東藩に着いたら、前田拓也について見学してこい」
という言いつけを守らなければなりません。
すると、拓也さんはそれを察したようで、
「せっかくだから、それはある程度、俺が案内するよ」
とおっしゃってくださったのですが……。
まさにそのとき、ぐぐぅ、という、おなかの鳴る音が聞こえてきました。
直後、妹の皐月が真っ赤になっておなかを押さえていたので、誰がその音を出したのかが分かってしまいました。
「あの……ひょっとして皐月ちゃん……いえ、如月さんも、朝ご飯、食べてないの?」
凜さんが、少し呆れたように聞いてきました。
「はい、あの……昨日は、木賃宿に泊まっていたので……」
木賃宿とは、つまり素泊まりの旅館のことで、食事は出ません。
詳しく事情を聞かれましたので、
「阿東藩までの旅のお金は、藩主様が城まで挨拶に来たことのご褒美として渡してくださったのですが、それを使うのが恐れ多くて、なるべく節約しようと考えたのです……」
と打ち明けました。
「そんなの、ご褒美だったら遠慮することなかったのに……じゃあ、ちょっと早いけど、『うな丼』でも食べてもらおうかな」
拓也さんがそうおっしゃいましたが、聞き慣れない言葉だったので、
「え……うなどん?」
と聞き返してしまいました。
皐月も、「うなどん」が何か分からず、きょとんとしていました。
そしてこの後、鰻料理専門店、『前田屋』さんを紹介してもらうことになりました。
さらにその後、前田拓也さんの阿東藩でのお立場や、商人としてとてつもない大成功を収めていることを、すべて見せていただくことになったのです。





