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身売りっ娘 俺がまとめて面倒見ますっ!  作者: エール
第18章 幻の桃源郷

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如月の回想 その1 ~ 一夜を共にする意味~

 私と睦月兄さん、皐月の三人は、拓也さんに誘われたお店で、こんなにもたくさんのご馳走を食べることができたことに感謝して、その料理屋を後にしました。


 みんなで散歩しました……兄も一緒に、さっきの料理の素晴らしさを話しながらです。

 この後、松丸藩の偉いお侍様に挨拶することになっていました。

 贅沢な料理を食べたことを申し訳なく思っていたのですが、拓也さんは、


「おいしい料理を食べた、という経験を、今後に利用すればいいんだよ。たとえば……そうだな、藩の偉い人に挨拶をするときに、この町は料理がとてもおいしかった、と褒めれば、それだけで喜んでくれるだろう。あと、村に帰ったときに、この感動を伝えてもいいだろう。俺がおごってあげた事も強調すればいい。なにしろ、俺は今回の仕事を成功させたことによって、松丸藩から褒美がもらえることになっているんだ。それで機嫌が良くなった俺が、無理におごってあげると言われたってことにすれば、納得してくれるさ……いや、そもそも、君たちは女性の身でありながら、山道を数日かけて歩くっていう、結構大変な旅をしてきたんだ。野宿もあっただろうし……ちょっとおいしい物を食べたからって、誰からも批難されたりしないだろう」


 とおっしゃってくださいました。

 また、


「南雲さんの作る刀剣の取引の許可をもらえたことが、俺に対する報酬だから気にしなくても良い」


 とも話してくださいました。

 その言葉を聞いて、私たちはもう一度、お辞儀をしてお礼を言いました。

 でも兄は、


「……そういうことなら、もう少し食べておいてもよかったか……注意する必要も無かったな」


 と失礼なことを言ったので、ちょっと私は怒ってしまいましたが、兄はおどけて、拓也さんは笑って許してくださいました。


「……それにしても、城下町って、こんなにも豊かだったのですね……私たち、お昼にもちゃんとした食事をするなんて、考えたこともなかった……」


 私たちの村では、朝と晩しか食事を摂る習慣がありません。

 昼に食べるのは、どうしてもおなかが空いたときに、せいぜいおやつ程度の何か……例えば、豆を煎った物とか、ドングリを茹でた物とかを口にする程度でした。


「まあ、さすがに城下町の住人全てが、今日のように海賊焼きが食べられる訳じゃあないだろうけど、普通に昼飯は食べているよ。そのあたりは、習慣の違いって事もあるとは思うけど……食べる物に関しては、こっちの方が多少は贅沢ができるかな。塩も使い放題だしね」


 その言葉を聞いて、さっき海の水を飲んでむせてしまった妹の皐月は、苦笑いを浮かべていました。


「……でも、それだけでも、村の女の子はここに住みたいって思ってしまうかもしれないです。着ている物も、すごく綺麗だし……」


 拓也さんから借りた着物は、本当に綺麗でした。

 最初それを見せたときは、こんな派手で贅沢なもの……と尻込みしていましたが、それを着てもなお、今の町中では地味な方みたいだったのです。

 翌日はもっと着込むときいて、さらに緊張したのを覚えています。


「たしかに奥宇奈谷にいた頃と比べればそう見えるかもしれないけど、それはこの町中だけだとも言えるよ。普通に農村部では、あんまり食事も格好も、変わらなかったと思うけど……ただし、同じ村でも宿で出される料理は別だ。あれはお客様向けだからね……まあ、なんにせよ、城下町は、藩に仕えるお侍様も利用する店もあるんだ。無礼がないように、多少無理をしてでも着飾って、豪華な料理を出している、っていうのはあるよ。だから、見た目の良さだけで、この町の暮らしが楽だとか、楽しそうだとか、そういう風には見ない方がいい」


 拓也さんのその言葉に、私たちは納得しました。


「……それで、如月……俺に話したいことっていうのは……」


 拓也さんがそう話しかけてきました。

 事前にそのことは、兄にも、皐月にも相談していたので、二人と目を合わせて頷き合いました。


「さっきも言ったように、できれば二人だけで話したいのですが……他の人には聞かれたくない話ですので……」


「そうか……だったら静かなところに行こう……そうだ、あそこなんかどうかな?」


 拓也さんが指さした方向には、ちょっとした林があって、そして赤い鳥居が見えました。

 どうやら、小さな神社のようで、あまり人影は見えません。


「……そうですね。奥宇奈谷に安全な道ができたこと、神様に報告とお礼もしなければいけませんしね」


 私の言葉に、兄も皐月も同意してくれました。

 鳥居をくぐると、そこには奥宇奈谷の普通の家より少し小さいぐらいの社が見えました。

 自分たち以外は誰もいません。


 もう季節は夏の終わりで、ヒグラシの鳴き声が、少し寂しげに聞こえていました。

 私たち四人は、銭……お賽銭というらしいのですが、それを入れて、鈴を鳴らし、お参りをしました。


 そしてその場に兄と皐月を残して、私と拓也さんは神社の裏手に回りました。

 そこも、誰もいません。

 耳が良い兄でも、社を挟んでいるので、私と拓也さんの小声での会話は聞こえないはずです。

 これで、二人だけで話したい、という条件が整いました。


「……それで、俺に話って言うのは……」


 拓也さんが、優しくそう声をかけてくださいました。


「はい、あの……実は、私……川上村で、弥生姉さんに会ったんです」


「えっ……弥生、と? ……そっか、君と彼女は、従兄弟同士だっていう話だったな」


「ご存じでしたか……その通り、正確には実の姉ではないのですが、奥宇奈谷ではあんまり関係なくて……村全体が、家族のようでもありますから」


「……そっか。えっと……ひょっとして、そこで俺の話、出た?」


「ええ。とても誠実で、優しい方だったと言ってました。それと……あと、一晩一緒に過ごしたけど、その……話をしただけで、あの……そういうことは、何もされなかったと……」


 私は、顔が熱くなるのを感じました。


「……ま、まあ、それが目的じゃなかったから……って、その……そういうことっていうのは、何か理解できたのかい?」


「はい……弥生姉さんが、詳細に……春画まで見せて、教えてくれまして……」


「しゅ、春画!? ……そうか、じゃあ、やっとどういうことか分かったんだな……」


「は、はい……一夜を共にするって、そういうことだったんですね……」


 私がモジモジす様子を見て、拓也さんまでが赤くなっていました。


「えっと、それで……それを知った上で、お伺いしたいことがあって……今、弥生姉さんがしている『仕事』っていうのは……拓也さんから見て、どういう風に思われるんでしょうか。いえ……拓也さんは優しいので、あまり悪いようには言わないかもしれませんが……奥宇奈谷の人が知ったら、どのように思われるのでしょうか……」


 私の、すがるような問いに、拓也さんは少し困った様子でした――。

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