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身売りっ娘 俺がまとめて面倒見ますっ!  作者: エール
第18章 幻の桃源郷

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第310話 「幻の」という枕詞

 話が終わった俺と南雲さんは、屋敷の玄関から外に出た。

 そこには、不安そうな表情で待つ、如月と八雲の姿があった。


「あっ、拓也さん、お話終わったんですね……大きな声が聞こえたので、ちょっと心配しましたが」


 如月が、気難しそうな顔をしている南雲をチラリと見てそう言った。


「……いや、ちょっと意外な話をされたから驚いただけだよ」


 俺は笑顔でそう返したのだが、


「如月……前田殿は、睦月に出会ったそうだ」


「えっ、睦月兄さんに……じゃあ、その話も?」


「ああ、全部話した」


「そうですか……えっと、それじゃあ……あの、兄は無事でしたか?」


「ああ、仲間と一緒に、元気そうにしていたよ」


 俺がそう伝えると、彼女は一瞬笑顔を浮かべたが、すぐにまた怯えたような表情になった。


「……その、拓也さんは、南雲様の話を聞いて、どう思いましたか?」


 如月は、恐る恐る、といった感じで俺の表情をのぞき込んだ。


「どうって言われても……まあ、何百人も居る山賊団と戦うなんて、ちょっと無茶しすぎなんじゃないかなとは思ったけど」


「……えっと、それだけ、ですか? 」


「それだけ、と言うと?」


「その……兄のこと、どうにかしようとは思わなかったですか?」


「どうにか、とは?」


「あの、その……盗賊の一味と考えているとか……兄は、そうじゃないんですっ!」


 結構、真剣な表情でそんなふうに訴えてきた。


「……なるほど、それで俺には、君の兄さんのことを何にも話さなかったのか。さっきから言っているように、俺は役人じゃないし、君の兄さんのことを山賊だなんて思ってもいない。そんな風な疑いをかけるつもりもない。そもそも、俺の仕事ではないしね」


 俺が笑ってそう言うと、彼女はようやく満面の笑みを浮かべた。


「でしたら、良かったです! ずっと兄のこと、気になっていたので……」


 少し涙ぐんでいるようにも見えた。


「まあ、そういうことだ。それから、数多く刀剣を作成している理由も説明した。だが、他の者達には秘密にしておいてくれ」


 俺と同じく、作業小屋の中を覗いてしまった如月にも、そう言って念を押した。


「はい、決して他言はしません……それで、もう拓也さんにはご用件はありませんか?」


「うむ、そうだな……今日は顔見せ程度で良いだろう。今は売れるほど程度の良い刀剣は手元にない。後日また商談とすればいい」


「……それでは、取引して頂けるのですね!?」


 南雲さんから出た意外な言葉に、俺の声は弾んだ。


「まあ、いいだろう。一蓮托生だ。もしこれで藩から『刀剣を造りすぎだ』と言われたならば、おまえにそそのかされたことにすればいい」


「ま、またまた……ご冗談がお好きで……」


 俺はそう取り繕ったのだが、南雲さんの目が一切笑っていなかったことが気がかりだった。


 その後、俺は南雲さん、八雲師弟と別れ、また如月に村内を案内してもらった。

 俺としては、もう見たいところ、行きたいところには行っていたので、あとは彼女におまかせ状態だった。


 この村で一番大きな、由緒正しい神社では、年配の神主さんと、年頃の可愛いい巫女さん二人を紹介してもらった。


 歳は、二人とも如月と同じぐらい。

 彼女たちも、俺が気に入れば「しきたり」の対象になるという……そんな「よりどりみどり」みたいなのでいいのだろうか。


 一応、本人達の希望も聞くらしいのだが、二人とも顔を赤らめて照れていたので、如月と違って「夜伽」の意味は知っているのだろう。


 時刻はもう、昼を過ぎているようだった。

 俺と如月は、高台となっているところに登り、木陰に腰を下ろして休憩することにした。


 眼下には、白い花を咲かせた蕎麦畑が一面に広がっている。

 俺は腹が減っていたのだが、どうやらこの村には「昼飯」という概念はないらしく、その代わりに何かの焼き菓子のような物を食べた。


 蕎麦の香りが口の中に広がり、わずかに甘みもあって、おいしい。

 砂糖なんかないはずなので、この甘みは何なのか聞いてみると、蜂蜜なのだという。


 そば粉をこねて、それに蜂蜜を加えて焼き菓子にしたのだろう。

 俺がこの素朴な味わいのお菓子を絶賛すると、


「そう言って頂けるととても嬉しいです。あまり量は作れない物なので、ほんの少ししか食べて頂けないのですが……」


 と、申し訳なさそうに言ってきた。

 どうやら、俺のために特別に持ってきてくれた物のようだった。


 目の前に広がる、美しくものどかな光景。

 年頃の美少女と肩を並べるようにして腰を下ろし、一緒に焼き菓子を食べている。

 そして彼女は、俺が望めば、一晩の妻として相手をしてくれるのだという。


 桃源郷、という言葉が、俺の頭をよぎった。


 以前、阿東藩の前田邸が花で彩られたときも、同じようなことを思った。

 しかし、そう簡単に来られず、村全体が閉鎖された空間であるという意味においては、こちらの方が本来の意味に近いのかもしれないと考えた。


 そう、「幻の」という枕詞が似合うほどに――。

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