第299話 特殊能力
「これほどの量の塩を……あの少しの時間、姿を消している間に……あなたは本当に仙人様なのですね……」
如月が、驚きと、若干の恐れを含んだ目で見ながらそう話しかけて来た。
怖がられたり、下手をすると化け物扱いされるかもしれない……そう思いながらも、俺がこの能力を持つことを信じてもらえないと、物事は始まらないと考えていた。
そして、なぜか、それを受け入れてもらえるであろう事も確信していた。
「……驚いただろうけど、これが『仙界』と呼ばれているところの技術なんだ。でも、俺自体は仙人でも何でもなくて、その技術を使わせてもらっているだけなんだけどね」
「えっと……じゃあ、ひょっとっして『仙界に選ばれた人』っていう事ですか?」
如月が、意外と好奇心旺盛に核心を突いたことを聞いてくる。
「……えっと、まあ、それに近いような感じかな」
「じゃあ、他にもそんなふうに自由に仙界と行き来できる人がいるのですか?」
「いや、今のところ、俺だけだよ」
正確には優もそうなのだが、それを言っても仕方がないことだし、また、説明が面倒でもあったのでそう答えた。
「……今、ウソつきましたね?」
「……へっ?」
如月が、俺の瞳をのぞき込むような視線でそう言葉をかけてきた。
「あなたの他にも、同じような能力の人がいるのですね?」
「……なんでそう思ったんだ?」
俺が驚いてそう口にすると、如月は少し、悲しそうな顔になった。
「……私は、小さいときから、どういうわけかある程度、人の心が読めるというか、考えていることが分かってしまうのです。特に、ウソをついているかどうかはよく分かります。お爺さんもそうなんですけど……私の家系には、そういう力を持っている人が多く生まれてくるみたいなんです」
驚愕の事実だ。
いや、そういう力がある人がいるっていうのは、特に昔話なんかで聞いたことがあるけど……実際に目の当たりにすると、うろたえてしまう。
「いや、儂よりも数段、この娘の方が優れておる。歴代の家系の中でも、この娘と、もう一人……いや、それは言うまい。とにかく、人の心を読むのがうまいのですじゃ」
長老が、何かを隠しながらも、如月の事を説明してくれた。
「私は、まるで駄目ですけどね!」
皐月はあっけらかんと笑顔で打ち明けてくれた。
「……すごいんだな……確かに、もう一人だけ俺と同じような能力……いや、荷物を運べるっていう意味では、俺より優れた能力を持っている者もいる。その正体は明かせないけど……」
実は俺の嫁です、っというのは、それこそ余計な情報だ。迂闊に広まってしまうと、優の身に危険が迫ってしまう可能性もある。
「いえ、ウソといっても、私たちを騙そうとしたり、陥れようとするような、悪意のようなものは感じられていませんから。なので、それ以上の事はお話してもらわなくても大丈夫ですよ」
と、彼女は優しい笑みを浮かべてくれた。
「驚いたな、そんなことまで分かるんだな……でも、だったら俺が、ごく普通の男で、単に便利な道具を使っているだけだってことも分かるんじゃないかな」
「いえ、それは違うと思いますよ。確かに、拓也さん自身はそう思っているかもしれませんが、私たちから見ればずいぶん立派なお方だと思います。人間としての器が大きいというか、意志の強さとか、誰かを助けようとする志とか……そういうのが、凄く感じ取れるのです。その『仙界の道具』も、悪用しようとは思っていないようですし……やっぱり私からすれば、仙人様です」
「うむ、儂も一目見て、ただ者ではないということは分かった……ぜひ如月の婿になってもらえませんかのう」
長老が、冗談とも、本気ともとれる笑顔を浮かべながら、とんでもないことを言ってきた。
「いえ、俺には正式な嫁がいますので……」
「いやいや、そういう意味ではなく、この村における嫁、という意味ですじゃ。まあ、簡単に言えば、如月に子供を授けてやって欲しいのですじゃ」
すまし顔で、とんでもないことを言ってくる。
「なっ……ちょ、ちょっと、話が急すぎますっ!」
事前に、あの宿屋の弥生からそういう話は聞いていたが……さっき出会ったばっかりなのに、いきなりそんな事を言われて、俺は狼狽してしまった!
そんな俺の様子を、長老はもちろん、由吉さんも与作さんも、当の如月も、さらには皐月までもが、微笑ましいものを見るような目で見ているではないかっ!
「だいたい、そんな事を言われたら、如月も困るでしょう!」
慌ててそう抗議するが、
「あの……私はこの村で生まれ育った以上、いつかはこういう日が来ると思っていましたので……私の相手は、お爺さんが決めることになっていましたし……確かに急ではありますが、私に異存などあろうはずもありません。拓也さんは、その……私が相手ではお嫌ですか?」
少しウルウルした瞳で、めったに見かけぬほどの美少女にそんな風に言われると、自然と鼓動が早まり、顔が赤くなってしまう。
「いや、君のことが嫌だとか、そんなことはないけど……」
と、思わず本音が出てしまった。
「……奥さんへの気遣い、ですね……本当に優しいお方ですね。私は、拓也さんの意志に従います……でも、私が嫌と思われていないのであれば、それだけで嬉しいです……」
そうだった、如月は俺の心がある程度読めるのだった。
彼女に対して抱いてしまった感情を悟られてしまったのではないかと、俺はますます顔が熱くなってしまうのを感じた――。





