第281話 茂吉の証言③
茂吉の話を、実際に見ているナツと、『仙廻船』に乗ったことのある薰は、決して大げさ過ぎる表現でないことを理解していた。
「俺は、海に出ちゃいけねえって役人に言われてたが、こう言い返してやった。『もしあの船が沈められたら、誰が助けるんだ!』ってな。そしたら、その若い役人、何も言い返してやこなかった。あの人達がたった一艘で敵陣に乗り込んでいるんだ、なんかあったときのために助け船の一艘ぐらい出して当たり前だろう? 俺はそう思って、櫓を漕いで必死に追いかけたんだ」
実際は、もっと近くで拓也達が何をするのか見てみたいという好奇心の方が勝っていたのだが、実際に何かあったら本当に助けるつもりだったので、これは説得力があった。
「それで、半刻近く必死に漕いで、それで俺が沖で見たのは、旦那の信じられねえ姿だった……五町(約550メートル)ぐらい離れた所から見ていたけど、なにやら、印を結ぶような仕草をする度に、海賊共の小船から火の手が上がるんだ……あんな、離れた場所から船に火を付けるなんて仙術、初めて見た……何か、鳥のようなものを操っているようにも見えたけど、その儀式の意味はさっぱりわからねえ。その鳥から雷を落としたのかも知れねえが、とにかく、次々と海賊共の船は炎に包まれていった」
この茂吉の考察は、当たらずとも遠からず、と言ったところだった。
実際には雷ではなく、ビニール袋に入ったガソリンと、小さな火縄だったのだが、それらは彼の位置からは、はっきりとは見えなかったのだろう。
「……けど、それすらも旦那の温情だったのかもしれねえ。だって、海賊にしてみれば、船から海に飛び込む余裕があったんだからな……俺が唖然としている内に、船から一斉に立ち上る黒い煙で、海の上はとんでもねえ事になっていった。それを見て、ついに恐れをなしたのか、足羽島からこっちに攻めて来るんじゃなくて、向こう側に逃げ出そうとする船が現れた……ところが、そいつらは旦那のもっとすごい仙術で、轟音と共に次々と木っ端みじんに吹き飛んだ。俺もさすがにあれには驚いたが……そしてとうとう、敵の親玉、例の黒い船が、足羽島の向こう側から出てきた。そいつにも、拓也殿は術を食らわそうとしていたみたいだけど、敵もさるもの引っ掻くもの、ぱっと赤い炎と煙が上がるものの、燃え上がるほどにはいたらなかった。けれど、黒い船が助けようとしていた小さい方の海賊船は、やっぱり木っ端みじんに吹き飛んだ」
これは茂吉の認識違いで、実際には黒い船、つまり『黒鯱』が海賊団の船を大砲で破壊していたのだ。小型の船に対しても、助けようとして追いかけていたのではなく、破壊しようとして追っていたにすぎない。
「……こうして、海賊団の小さい方の船は全滅、親玉の、でっかい黒い船は尻尾を巻いて逃げ出したってわけだ……いやあ、改めて前田拓也という人は、凄いお方だと思ったよ」
なぜか茂吉は、自分がドヤ顔でそう語った。
「……すごいお話だけど、すぐには信じられない……ナツさん、今茂吉さんが話した事って、本当なんですか?」
お里が、半信半疑で尋ねる。
「さあ、どうだかな……さっきも言ったように、あの人は、私にさえその手の話はしてくれないからな……」
ナツがそうはぐらかしたが、
「本当です……」
と、さっきまでじっと聞いていた薰が言葉にした。
「本当に、拓也さんは、凄い人なんです……凄い仙術使いで、それで、無茶をして……私を、助けてくれたときもそうだったけど……本気になったら、本当に凄い人なんです!」
薰は、なぜか涙ぐみながら、何度も『凄い人』と強調した。
それを聞いたナツは、フッと微笑みながら、
「……だそうだよ」
と、あっけにとられている茂吉とお里に言ったのだった。





