番外編16-3 ナツとの絆(後編)
「私は……どう接したらいいのか分からなかったから……だから、ユキやハルを大事にしたいっていうのもあって、つい、拓也殿にケンカ腰で接してしまったんだ……」
「……そうか? 俺は、ケンカ腰だとは思わなかったけどな……」
「……えっ?」
「だって、本当にケンカになったことなんかほとんどなかっただろう?」
「……それは、拓也殿が優しいから……優しすぎるから……」
「そうじゃないよ。俺だって、理不尽な言いがかりをつけられたら怒るさ……ナツに対して嫌な感情を持たなかったのは、なんていうか……うん、奥に秘める優しさというか、そういうのを感じ取っていたからだろうな……本当にいつも怒っていた訳じゃないんだろう? それが伝わってきたんだ」
俺がそう本音を言うと、彼女は、俺の手を握ってきた。
「………でも、私の事、そんなに好きじゃなかったんだろう? さっきも言ったけど、私は凜さんや優みたいに女らしくもないし、ガサツだし……けど、本音ではもっと拓也殿に、なんていうか……甘えたいっていうんだろうか? ユキやハルはそういうのが得意なんだろうけど、私は、不器用で……」
甘えるのに得意とか、不得意とかあるんだろうか。
まあ、苦手そうではあるが……。
「……それでいいんじゃないかな。俺は、ナツは無理に他の子と同じようにする必要はないと思う」
「……えっ?」
「ナツには、他の子にない魅力があるんだ。ツンデレ……ちょっと説明しにくいけど、いつもは俺にちょっと厳しいナツが、今みたいに心を開いて寄り添ってくれると、それだけで満たされるっていうか、他の女の子にはない魅力と、嬉しさを感じるんだ……」
「……他の子には、ない?」
「ああ……だから、今、とても幸せな気分になっている」
「……そうか、そんな風に思ってくれているのか……」
褒められて? ちょっと嬉しそうだ。
「それに、ナツにしかできない事だってある」
「……私にしか? 何かあるのか?」
「ああ、ナツにしかできない。俺が、何か間違いをしてしまいそうなとき、本気で叱って欲しいんだ」
「……叱る?」
「ああ……優じゃあそれはできない。凜さんでも、せいぜいお小言だ。ユキとハルでも無理だろう? 例えば、俺が悪事をはたらいてしまいそうになったりしたら……」
「……なるほど、そんなときに天誅を下せるのは、私ぐらいだな……」
「痛いのは嫌だけど……ま、ナツにならそうされても仕方ないのかな……」
そう言うと、彼女は苦笑していた。
「あははっ、ま、そういうことなら確かに私の出番になるな……」
「そう。夫が間違ったことをしそうになったときに、それを本気で叱って止めるのだって、立派な女房の役目だよ」
「……それはそうかもしれないが、でもそれって、何て言うか、大切だけど、嫁の嫌なところのような気がするな……。ま、でも、仕方がない。その役目、私が引き受けるよ」
「嫌々っぽく言うなあ……でも、あともう一つ、ナツに頼みたいことがあるんだ」
「まだあるのか……ああ、分かったよ。鬼嫁と言われようが、私は私にしかできない事をするよ」
……なんか、ヤケになっているような気がするが……ここは俺の本音を言おう。
「美味いメシを、いつも食べさせて欲しい」
「……メシ?」
「ああ。ナツは一番料理が上手だ。その腕をふるって、俺に美味いメシを作って欲しいんだ。本当の意味で嫁になってくれるなら、ぜひそうして欲しい……それって、わがままかな?」
「……いや、旦那なら、嫁に対してそう言って当然だ……確かに、拓也殿は仙界とこの地を往復しているから、いつ、腹を空かせてやって来るか分からないし……よし、分かった。少なくとも店では、いつ拓也殿が来ても腹一杯上手いメシを食べさせてあげられるように、私も腕を磨いて、常に下ごしらえを欠かさないようにしておくよ。それがお客に対しての心遣いにもなるし……うん、美味いメシか……やっと嫁らしいこと、できそうだな……」
ナツはそう言って、ようやく笑顔になった。
これで緊張が解けたのか、ナツはその後、俺に寄り添ったまますやすやと眠ってしまった。
そして俺は約束通り、彼女に手を出すことなく、一夜を過ごしたのだった。
そして数日後、ふたたびナツが嫁の日となった。
この時は、前田邸にて、他の四人の嫁達が驚くほど豪勢な料理が山盛りになった。
ナツ曰く、
「一番美味いメシを作ってくれと言われたから」
ということだったが、ちょっと張り切りすぎだ。
それでも、みんな喜んでくれたし、確かにどの料理も手が込んでいて、今まで食べた中で最も満足できた。
その夜。
俺とナツは、一つの布団にくるまって、前回よりさらに打ち解けて会話をしていた。
そして、
「確かに今日はちょっと張り切りすぎた」
と反省する彼女に対して、俺は真剣に、
「……だったら、今日はそういう記念日にしたい。俺とナツにとって、一生の思い出に残るように……」
その言葉の意味を理解したようで、ナツは赤くなりながら頷いて、俺に抱きついてきた。
俺は彼女の頭を一度、優しく撫でて、唇を重ねる。彼女も、それを受け入れてくれた。
そっと、彼女が纏っていた薄い襦袢を取り、お互い生まれたままの姿になり……そして俺は、ナツの引き締まったその美しい体を、きつく抱き締めた――。
ナツとは、最初はギクシャクしたところがあったのですが、最終的には心が通じ合い、彼女とも本当の意味で夫婦となれたようです。
次回は、小説の上では少し期間が空いて、六番目に嫁となった現阿東藩主の娘、涼姫との関係を書きたいと思います。





