番外編16-2 ナツとの絆(前編)
この日は、温泉旅行から帰って来た後、初めてナツと二人っきりで前田邸にて彼女と過ごす『嫁の日』となった。
彼女との混浴もその温泉旅行で経験済みだったし、日中の明るい日差しのもとで裸も見ていた。
女子ながら武道で鍛え、引き締まったその裸体は、他の娘にはない美しいものだった。
それでいて、形の良い綺麗な胸は芸術的にすら思っていたが、その時は他の嫁達もいたし、特別視はしていなかったのだが……二人っきりで混浴となると、話は変わってくる。
そんなナツだが、俺に対してはどんな接し方かというと、
「私の事は煮るなり焼くなり好きなようにして構わない」
という、かえってどうしたらいいのか分からなくなるものだった。
ナツらしい、といえばそうなのだが。
混浴中も結構大胆で、あまり隠さない。
彼女は常に俺の側にいて、自分の体を洗うときもすぐ隣だった。
自然と彼女の裸を見てしまうことになるのだが……引き締まった細身の体に、意外と大きくて形のいい胸で、綺麗だ。
「……ばかっ、じろじろ見過ぎだ……」
俺の視線に気づいたナツが赤くなりながらちょっと怒っていたが、やはりあまり隠したりもしなかった。
俺の背中も、意外と丁寧に流してくれる。
その事を伝えると、
「料理でも、下ごしらえは丁寧にしないといけないから」
と言われて、
「ひょっとして、俺、料理されるのか?」
と冗談っぽく話すと、
「ばか……準備は大事だって言う意味で……」
みたいなことを言って、なぜかそこで口ごもってしまっていた。
そして風呂から出て、彼女は襦袢を、俺は浴衣を纏い、一番奥の部屋に行き、二つ並べた布団に、もぞもぞと入り込む。
……五分ほど、無言の時間が続いた。
なんか、気まずい。
ひょっとしたらナツの方から何か話しかけてくるか、と思っていたのだが、彼女は凜さんのように積極的なわけでもないし、優ほど自然に打ち解けている訳でもない。
ここは、俺がリードしなければ。
「……ナツ……もう寝たか?」
と、小声で話しかけると、
「……ふぁいっ!? い、いや、まだ起きている……」
と、なんか焦ったような返事が返ってきた。
どうやら、さっきまでは平然としていたが、今はガチガチに緊張していたようだった。
その様子に、俺はなぜか、ちょっと安心した。
「……そんなに驚かなくても大丈夫だよ……別に今夜、ナツに対して、何かしようとしているわけじゃないから」
「えっ……あっ……そ、そうか、やっぱり、私じゃ……」
ナツの声は、困惑したような、悲しそうなものに聞こえて……それで心が揺らいだ。
正直、俺は相当迷っていたのだ。
ひょっとしたら、ナツは本心では、俺のことをそこまで好きではないんじゃないだろうか。
だったら、手を出してしまうのは、なにか悪い事をしているように思ってしまう。
かといって、嫁として扱うと言っているのに何もしないのは、それはそれでナツを傷つけてしまうんじゃないだろうか……。
ただ、彼女の場合、ひとつだけ妥協点というか、そういうものを考えていた。
受け入れられるかどうか分からないが、俺の本音を言ってみることにした。
「……ナツは、俺の嫁だよ。だから、そういう関係になりたいと思っている。でも、今日のところは、何にも手を出したりはしないよ。理由は二つある」
「……二つ?」
「そう。一つは、俺は夜、一緒に過ごすからと言って、そういうのが目的だけじゃないってことだ。たとえば、ユキやハルとは、少なくとも彼女たちが十七歳の春までは、何にもしないつもりだよ」
ここで言う十七歳とは、数え年のことだ。
あの双子は、満年齢で言えばまだ十四歳。来年の春になってやっと十六歳になる。
「ああ……そういえば言ってたな……仙界では、その歳にならないと結婚できないって」
「そう。それに、まだやっぱり子供っぽいところがあるしな」
「……でも、それなら私はもうその歳にはなっているが……」
「そうだけど、あの二人の実の姉だろう? 心配していると思ったんだ。だから、俺が欲にまかせて、その誓いを破って手を出したりしない、っていうことを分かってもらおうと思って。だから、今日はそう決めたから、ナツにも手を出さない」
「……自分一人でそんな決まりを作るなんて……拓也殿らしいといえば、そうだけどな……うん、でも、あの二人の事、大事に考えてくれているのならうれしい。まあ、私はもう、タクヤ殿にならあの二人も任せられると思っているけど」
ナツは、苦笑混じりでそう話した。
今日、俺が手を出さない、と言ったことに、少し安心したようだ。
「……それで、もう一つの理由は?」
「……もう少し、ナツと打ち解けたいって思っただけだよ」
「……打ち解ける?」
「もっといろいろ話、したいんだ……さっきの双子の話とか、料理の話とか、俺のこと、本音ではどう思っているのか、とか……」
「……拓也殿こそ、私の事、どう思っているんだ? やっぱり、優や凜さんみたいな、女らしい娘の方がいいんじゃないのか?」
そういうことを言うということは、ナツは、自分は女らしくない、と思っているということだ。
「そんなことはないさ……ナツにはナツの魅力があって……うまく言えないけど」
「……けど、その、今日だって何もしないわけで……」
それを聞いて、俺は、ちょっとだけ、勇気を出してみることにした。
肩が触れあうぐらいにナツのすぐ隣に詰め寄って、彼女の背中側から腕を回し、その肩を抱き寄せた。
「……このぐらいなら、手を出したことにはならないよな……本音で言うなら、こうやってナツの事、抱き寄せたいと思ってた……」
俺は自分の気持ちを、正直に打ち明けた。
……しばらくの沈黙の後、ナツは、
「……今日は、手を出されることはないんだったな……」
と確認してきたので、
「ああ。安心だろう?」
と、精一杯優しく言うと、彼女は体を横にして、俺に抱きついてきた。
「……私も、ずっとこうしたかった……優や凜さんの手前、できなかったが……」
俺の心臓が早鐘を打つ。
ナツは、俺が思っていた以上に、俺のことを慕ってくれている……。
俺は、彼女を抱いている右腕に、少し力を込めた。
すると、ナツの方も、よりきつく、俺に抱きついて来た。
さらに鼓動は大きくなった。
今夜は手を出さない、と言ったことで、ナツは安心して、初めて俺に甘えるような仕草をとった。
そのことで、俺も一層、彼女の事が愛おしく思えてしまった。
……たぶん次の嫁の日は、俺はこの娘の事を……。
「……最初会った時は、信用できなかった……でも、すぐに拓也殿は、他の人とは違うって気付いた……それでも、私は……父親以外の男の人に、どう接していいのか、分からなかった……」
ナツが、今まで隠していた本音を語り始めた――。
※次回に続きます。ナツとの仲は、より親密になりそうです。





