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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第1章

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95.旅の準備③屋台と食生活

 屋台の食べ物がどんなに美味しそうな匂いを放っていても、お金がなければ食べることができない。

 わたしとレッドは、買えないことがわかっている食べ物には、できるだけ近づかないようにして生きてきた。

(だって、惨めになるから)


 買えない菓子や惣菜を横目で見ながら、空腹を我慢して通り過ぎるのは、とてもつらいものである。

 時には物乞いの孤児たちが、恥も外聞もなく捨てられた食べ残しを(あさ)っているのを見て、(うらや)ましいとさえ思ったこともある。

 屋台で買うものは、いつも一番安いサンドと惣菜パンと決まっていた。それ以外は、何が流行っているのかも、値段も材料もよくわからない。


(市場の野菜や果物なら、まだ原形を留めているからわかるのだけれど……)

 加工されている菓子や調理済みの惣菜などは、何が使われているか一見しただけでは見当がつかない。


 可愛らしい装飾が目立つ屋台で売られている、彩りがキレイなゼリー菓子は、どう見てもスライムが原料としか思えなかった。王都では見たことのない、知らないデザートだ。

(でもスライムが美味しいという話は聞いたことがないし……)

 見知った焼き菓子は、上にかかっている明るい色のトッピングが未知のものだ。

 ベリーか木の実だと思ったものは、よく見たら何かの卵のようだった。

 さらには、普通に飛虫(バッタ)の佃煮を量り売りしている屋台もある。王都では、市場でも飛虫の佃煮は見たことがなかった。


 煙を上げて調理中なのは、何かの肉だ。よく見る串焼きの屋台だけれど、大きさからして普通の獣肉ではないと思う。

 食べたことがあるか否かという以前に、食文化が王都とはだいぶ違うようだった。

 どれも村人にとっては馴染みのある食材だろうし、魔物だろうと虫だろうと、今さら食べられないと言うつもりはない。ちゃんと食べ物として調理して提供されているわけだし、傷んでいたり、毒が入っていない保証があるだけで十分だ。

 けれど、今ここであえて虫の佃煮やスライムゼリーを選ぶつもりはなかった。

(それ以外だと……)

 わたしは、通りに並んだ屋台をもう一度見回した。


「この先しばらく、美味い汁物は食えなくなる。スープ系かシチュー系がいいんじゃないか?」

 見かねてクロスが助け舟を出してくれた。

 というか、自分が汁物を魔法鞄に入れるなと言った手前、今のうちに食べておきたいだけかもしれない。

「アリアちゃんもそれでいい?」

「ええ。それなら、みんなで座って食べられる席があるところがいいわ。テラス席がある屋台なんて、初めて見るもの」

 わたしがそう言うと、リオンとクロスが「あれはテラス席と呼ぶようなものじゃないよ」と苦笑していた。


 *


 結局わたしたちは、村の若い人が多く群がっていた赤ナス味のスープの店を選んだ。

 村の屋台の中でも新興で、ちょっと都会っぽい味がするところが人気らしい。――とは、リオンが聞き込みして調べてきてくれた結果だ。


(都会っぽい味ってなんだろう……?)

 わたしは具沢山の野菜スープを見つめて考えた。

 確かにわたしたちは王都で暮らしていたけれど、食べていたものは周辺の農村にもある粗末なものだ。

 カビていないパンが手に入れば御の字。

 屋台で、小さな鳥の串焼きや揚げ物を買うことが唯一の贅沢。

 他は野山で採ったり狩ったりして賄った。

 “アイリス”のおかげで、調合した薬を卸せる場所が増えたから、途中から暮らし向きは大分楽になったけれど、実家ではカビパンと具のないスープが主食だった。時には羽虫が浮いていたこともある。

 ローランド寄宿学校には学食があったけれど、それだってお金がなければ食べられない。

 王都で有名な食べ物や料理店が何だったか、わたしは知らない。


「どうしたの? アリアちゃん。何か苦手なものでも入ってた?」

「ううん」

 わたしは慌てて首を振った。

「具が入ってるなあ、と思って……」

 リオンが怪訝な顔をした。

「わかる! それな! しかも、まだ薄まってないし!」

 向かいの席のレッドだけが、大きく同意してくれた。


 大きな野菜が沢山入っていて、かさ増しされた残り汁ではないから、スープ部分も味が濃くて美味しい。

(それに塩漬け肉が入っているから、ちょうどいい塩味だわ……)

 追加で茹で麦をトッピングすれば、お腹にたまる一品となる。サイドメニューにパンや芋なども用意されているところは、さすがは労働者の村である。

 野菜は畑で収穫できるだろうし、塩漬け肉は家畜の肉だろう。

 麦は農村だけあって種類が豊富だ。

 王都にいたわたしたちより、この村の人たちはずっと豊かな暮らしをしているようだ。


「お前ら、恥ずかしいから黙って食え」

 わたしとレッドが、いちいち具が入っていることや肉が入っていることに感動して騒いでいると、クロスが言った。

「気持ちはわかるが、絶対に後で恥ずかしい思いをすることになるから、今のうちに慣れろ」


 あれ? と思った。

 どうやら、レッドだけでなくクロスも理解してくれるらしい。

 リオンは未だによくわかっていない様子で「気に入ってくれたなら何より」と苦笑気味だ。

 成長過程でこの二人が、明らかに違う食生活を送ってきたと確信した瞬間だった。少しだけ、二人の関係に興味がわいた。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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