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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第1章

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92.提案を蹴るということ③

「それじゃあ、アリアちゃんはオレと一緒に辺境に行こうね」

 リオンの言葉にわたしはうなずく。


「よろしくお願いします。アレスニーアには、Aランク冒険者を探しに寄るだけです。学園に行くつもりはないし、クロスのお師匠様にお会いすることもありません」

「わかった。――そのほうがいい。魔法使いの師匠には、用もないのに会うものじゃない。どんな厄介事に巻き込まれるかわからないから」

 リオンは、そこでちらりとクロスを見やった。


「こいつは落ち込んでるだけだから、気にしなくていい。後は俺が面倒見るから、アリアちゃんとレッドは先に帰っていいよ。明日は一日、旅の準備と休息に当てて、明後日の早朝に出発するつもりだから」

「あ、わたし、後片付け手伝います」

 ただで食べさせてもらっては、申し訳ない。


 わたしが手伝いをするということは、自動的にレッドにも手伝わせることになるけれど——レッドを見ると、気にするなと手を振ってくれた。

「もう、一生分くらい寝たからな。これ以上じっとしてたら、身体がなまっちまう。片付けでも何でもやらせてもらうぜ」


「大丈夫。洗い物は得意だから」

 たかが四人分の食事の片付けだ。実家の晩餐会や、食堂の裏方と比べればワケはない。

「レッド、水を用意して食器を一箇所に集めてちょうだい」

「あいよ!」


 そこに、洗浄(・・)の生活魔法をかければ一瞬で終わる。

 浄化魔法の中でも、洗うことに特化した機能が強い魔法だ。わたしは洗浄魔法と呼んでいる。

 ちょっと、食器の並べ方にコツがいるし、水の量も調整が必要だけれど、それは百人、二百人分の食器を(さば)くときの話だ。四人分くらいなら、適当にやっても問題はない。


 こういう生活魔法だけは得意で、地道に練習してきたから、実家でのメイド達からのイジメにも耐えられたし、冒険者としての採取の仕事以外にも、下町で短期の下働きの依頼もこなせた。

 生活魔法のささやかなチートがあったおかげで、今まで生き抜いてこられたのだ。


「これ、この調理設備の備え付けの食器でしょう? 戻す場所がわからないから、それだけ頼みます」

 一瞬で洗浄された食器をリオンに手渡す。

「あ、ああ。——アリアちゃん、凄いね。こんな生活魔法、見たことないよ。実家(うち)のメイドも、誰一人として使えない」


 リオンが見たことがないというのは、当然だろう。

 洗浄特化の生活魔法など、厨房専任のメイドや料理人の中でも、一部の者にしか使えないはずだ。生活魔法とはいえ、業務用として使いこなすには、それなりの魔力量が必要になる。

 そもそも、人目につく場所で披露されるような魔法でもない。厨房に出入りすることのない貴族のお坊っちゃんには、目にする機会そのものがないだろう。


 わたしは貴族の生まれだけれど、必要に駆られて生活魔法の大半を独習した。

 厨房で料理人が使う魔法を盗み見て真似たり、洗濯屋の仕事を見学に行ったり、半端ない仕事量を押し付けてくるメイドたちを見返したいがために、とにかく数をこなして限界まで生活魔法のレベルを上げたのだ。


 リオンが誉めてくれたら、なぜかレッドが「そうだ、凄いだろう」と自慢気に胸を張った。

 嬉しそうにしているけれど、従者としてそれで大丈夫なのだろうか?

 自分の主人が、平民のように下働きが得意だと自慢することは、そんな主人に使えている自分の格も下がるということだ。

(後で注意しておいたほうがいいのかな……?)

 でも、なんだか微笑ましいので、そのままでいいような気もした。


 治癒魔法と無属性魔法だけは、失敗したことがない。もちろん、無属性魔法の一種である生活魔法全般も。

 それがわたしの、ささやかな誇りだ。

 凄いね、と無邪気に誉めてもらえるのは、素直に嬉しかった。


 洗浄の生活魔法を発動させた瞬間、クロスが起き上がってこちらを見ていたのは、気づかなかったことにしておこう。

 また、魔法学園に勧誘されることになっては面倒だ。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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