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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第1章

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91.提案を蹴るということ②

「振られちゃったねえ、クロス」

 そこまでにしておけ、と割って入ってくれたのはやはりリオンだった。

「うるさい。振られてない。条件がかみ合わないだけだ」


 しつこいなあ、この人。

 なんか、近所のお姉さんがこういうタイプの勘違い男に付きまとわれて困っていたことを思い出す。

 お姉さんは結局、職場の人が仲裁に入ってくれて助かったみたいだけれど、だから他人はうっかり信用できないと思うのだ。


「よく考えろ、辺境の片隅で一生を終えるつもりか? あそこの常駐討伐部隊は、ギルドランクA並みの猛者が揃っていると言えば聞こえはいいが、ようは体裁のいい左遷者集団だ。王都や、近隣都市が厄介者を送り込む場所だ」

 そういうことなら、わたしも厄介者だから、辺境に行くのが正しいのだろう。


「天属性のお前なら、師匠(メルローズ)の後継者にだってなれるかもしれないんだぞ!」

 肩を掴まれ、揺さぶられる。

「ハーフエルフには、無理だよ」

 わたしは観念して、右側の前髪を上げて、紅玉色の右目をさらして見せた。

「気にするな。あそこは実力主義だ。編入テストで相応の成績を収めれば、誰も文句は言えない。異国の血が入った孤児だろうと、邪教徒に攫われて玩具にされてた傷物のガキだろうと、誰にも遠慮する必要なんかないんだ!」

 クロスは、前髪をかき上げたわたしの手に触れ、わたしの両目を真っ直ぐに見つめて言う。

 後半は、多分に自分の経験からの発言だろう。

 彼も苦労して今の地位を得たのだ。


(やめてよ……。そんな、哀れな生き物を見るような目で見ないで……)


「学費の問題なら、アリアなら十分に奨学金を獲得できるから問題ない。それでも足りないなら、親父に言ってなんとかさせる。後見人が必要なら、それもなんとかする。奴隷も連れて入れるよう取り計らってやる。だから、」


 たくさんの調子のいい言葉を並べているけれど――全部が全部、嘘とは言えそうにないところがまた、恐ろしい――わたしが学園に行けない理由は、ハーフエルフのような容姿をしているからだけではない。

 気持ちはありがたいけれど、無理なものは無理だった。


「ごめんなさい」

 ああ、もう、とても気まずい。さっきまでとは別の意味で気まずい。この調子で勧誘され続けながら辺境まで同行してもらうのかと思うと……とても気が重い。

(早く次の町に行って、新しい仲間を増やそう!)

 そして、辺境に着くまで巧妙に話を逸らし続けるしかない。

「本当にごめんなさい」

 それまでは、頭を下げ続けるしかない。


(そう言えば、似たような物語を読んだことがあったなぁ……)

 ローランド寄宿学校の図書室で、暇潰しに読んだ恋愛小説。

 王子に求婚された令嬢が、本当に好きな男性と結ばれるために、あの手この手で求愛を断り、なおかつ家名を汚さないよう奔走しながら、真実の愛を貫く話だ。

(あの物語の結末、どうなるのだったかしら……?)

 暇潰しだったから、最後まで読んでいない。

 長かったこともあり、途中で飽きた。


「いい加減にしておけ、クロス。しつこい男は嫌われるぞ」

「……」

 リオンがクロスの肩を叩く。

 さすがに、普段は軽薄な調子の相棒から、二度も真剣な口調で止められれば、聞く耳を持つしかないようだった。

「そうそう。クロスの兄さん、アリアに何回謝らせたら気が済むんだよ。いい加減にしないとオレも怒るぜ」


 レッドが傍に来て、クロスの手を引き剥がしてくれた。

 それから、いつもの調子で言う。

「アリアは、自分の思った通りにすればいいんだよ。オレはどこにでも付いて行くから」

「学園に行ったら、レッドと逢えなくなっちゃうかもしれないんだよ! 学園の中には、獣人は入れないかもしれないんだよ!」

「だったら、門の外で待ってる。絶対、アリアがオレのこと買い取ってくれるって信じてるから、アリアが卒業するまで、ずっと待ってる。——それにさ、オレの本職(ジョブ)を何だと思ってるんだよ」

 本職は盗賊だ。必要なら学園の警備くらい、いつでも掻い潜って潜入してみせるぜ。レッドはそう言って不敵に笑った。


 リオンはさらに、レッドが引き剥がしたクロスを向かいのベンチ席まで連れていって座らせた。わたしに近付けないようにと、椅子代わりにしていた木箱も片付けてしまった。

「盛り上がってるところ悪いけど、学園の中にも獣人はいるよ。魔法適性がないから、生徒として在籍していたことはないはずだけど、下働きとしてなら前例はあるよ」

 リオンは言う。

「国政の一環で、亜人種の雇用を拡充する動きがあるから、これから先も獣人の雇用は増えるはずだよ。リリアーナ貴族学院でも、下働きとして採用してたし」

「……雇用されるのは、自由市民の亜人種だけだ。奴隷身分の者は、安全上、敷地内への立ち入りを禁じられている」

 卓に頬杖をついたクロスが言った。不服そうというか、不機嫌そうというか、つまらなそうな顔をしていた。

「従者として連れて入った前例もねえよ。リリアーナ貴族学院でも、ねえだろうが」

「クロス、地金が出てるよ。気をつけて」

「どーでもいい」

 傍にあったカップの中身を(あお)ると、そのまま卓に突っ伏してしまった。


 いくら投げやりとはいえ、クロス、口調変わりすぎじゃない?

(養子と言っていたし、生粋の貴族の生まれではないのだろうけれど……)

 どちらかと言うと、レッドに近い口調だった。

 貴族の青年でも、粗野な口をきくことはある。冒険者稼業をしているともなれば、尚更だろう。むしろ、リオンのような爽やか好青年風の冒険者のほうが少ない。

 でも、妙に板に付いていて、貴族青年が付け焼き刃で身につけた話し方には思えなかった。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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