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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第1章

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90.提案を蹴るということ①

「ごめんなさい」

 わたしは謝り、クロスの提案を却下した。

「なぜだ」

 ぐい、と詰め寄ってくるクロス。

「わたしは辺境に行きます」

 お祖父様に会って、様子を確かめなければならない。


 信頼できそうならば、協力を仰ぐ。

 そうでないなら、利用する。

 お父様は、お祖父様のことを異端者と言っていたけれど、辺境伯というからには、何らかの権力や人脈を持っているはずだ。

 冒険者崩れであるとも聞いた。

 ならば、お父様ほど酷い差別主義者ではない可能性もある。

 それに、お祖母様はどうしているのだろう。

 わたしの右目には、いったい何が起きたのだろう。

 変質してしまった右目のせいで、辛いことも、命拾いしたことも、たくさんあった。

(幼いころ、大病から救ってくださったお祖母様には、必ずお礼を伝えたい。そして、フィレーナお母様の訃報を伝えなければ……)


 馬鹿みたいだけれど、わたしはまだ見ぬ祖父母に期待していたのだ。

(ほんの少しでいいから、孫として認めてもらいたかった)

 もう誰も信じない。――そう心に言い聞かせながら、期待することを諦め切れないわたしは愚か者だ。

 リオンとクロスとの辺境行きは、利害関係が一致したから、話に乗っても損はないと判断しただけのこと。

 わたしは、裏切られるほど深くは他人を信用しない。


 特待生推薦や奨学金のことも、クロスとしては嘘を吐くつもりはないのだろう。

 アレスニーアの学園職員として、将来有望な人材を勧誘する義務があるというのは筋が通った話であり、理解できる。

 けれど、見通しが甘すぎる。とても全面的に信用するわけにはいかない。


 特待生の話は、ローランド寄宿学校の卒業後(脱出後)の進路を調べていたときに、見聞きした記憶がある。

 同時に、奨学金とは名前だけで、実態は低利率の借金だということも知った。

 支給される金額はピンキリだけれど、生活費と学費の金額を計算すると、どう考えても奨学金だけでは暮らしていけない。

 働きながら勉学しなければならない上に、卒業と同時に借金を負わされる仕組みだ。

 しかも恐ろしいことに、奨学金というのは成績が下がれば打ち切られることもある。


 さらには魔法学校ともなれば、授業で使用する器具や素材の費用が別にかかる。

 必要分は支給されるだろうけれど、それだけでは自主学習ができない。

 適切に予習・復習ができなければ、当然、成績も上がらない。品質の良い材料を揃えられなければ、それだけで実験結果――成績に差が付く。

 ローランドの通り一遍の座学と違って、丸暗記だけで乗り切れるような授業ではないだろう。


 クロスは“学費”や“生活費”と呼ばれるものの内訳を知らないか、奨学金を過大評価し過ぎである。

 なけなしの財産を全部売って、当面の費用を作ったとしても、学生生活というのは必要最低限の予算だけでは絶対に収まらない。

 交友関係を維持するためには、さらに別途の費用が必要になる。

 友人とお茶しに行くだけでも、授業で使う諸々の学用品以上のお金がかかるのだ。

 そしてそれを蹴れば、交友関係は成立しない。

 学内で有効な交友関係を成立させられないとなると、学生生活は悲惨なものとなる。

 ちょっとしたお菓子の交換や、誕生日プレゼントのやり取り、付き合いでの無駄な遊興。

 女の子なら、化粧品や服飾品への投資も外せない。――そういった費用は、学費とも生活費ともまた別のところから捻出しなければならない。

 捻出できなかったの者の末路が、ローランド寄宿学校でのわたしだ。


 クロスだって、クロスのお師匠様だって、どうせ自分が推薦した特待生のことなどすぐに忘れる。

 人間とはそういう生き物だ。

 悪気はなくても、忙しさにかまけて疎遠になることなど、いくらでもある。


 魔法に関する警戒がザルだったローランドとは違って、魔学都市なら魔法を駆使して好き勝手するにも限度があるだろう。

(――ローランドの時は上手く抜け出せたけれど、今度も上手くいくとは限らない)

 下手をすると、レッドに逢えなくなるかもしれない。

 放課後に寄宿舎を抜け出せば、アトリエでレッドと過ごせたにローランド時代とは違って、何の心の支えもなく、わたしはまた一人ぼっちで学生(監獄)生活を送らなければならなくなるのだ。


 とにかく、学園に入るのはリスクが高すぎた。


「せっかくのご提案なのに、ごめんなさい」

「なぜだ。何が駄目なんだ?」

 クロスは繰り返す。提案を蹴られるとは思いもしなかったのだろう。信じられないという面持ちで食い下がってくる。

「オレの言葉が信用できないか? それなら冒険者カードを――」

 胸元からプレートを引っ張り出して、首から外すと、わたしの手を取って握らせる。

 体温で温かくなっている冒険者カードには、確かにアレスニーアの客員教授であることが記されている。属性も、四属性全てが明記されていた。

「あとは、あの石版でオレを鑑定してみろ。師匠(メルローズ)に弟子と認められた日も、実家の家名も爵位も、養子になった経緯も、全部書いてある」

「いえ、信じるとか信じないとかそういう話ではなく……」


 ああ、面倒くさいことになった。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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