88.提案②
「わたしをアレスニーアの学園に連れて行ったら、クロスにはどんなメリットがあるの?」
ただで特待生として編入できるだなんて、そんな都合のいい話があるわけがない。
「アレスに籍を置く職員として、義務を果たせる」
「義務っていうか、ぶっちゃけノルマだよな」
説明してくれたのはリオンだった。
「魔学都市の質が下がらないよう、毎年、見込みのある若者を勧誘するのも教職員の仕事の内だ。――けど、クロスは奉職以来、誰もスカウトしていない。いい加減、職務怠慢と言われ始めた、ってところだろ」
「推薦入学させたいほど優れた人材がいなかっただけだ。下手な奴を推薦すれば、オレが師匠に殺される」
「その点、アリアちゃんなら間違いなくエリンさんを納得させられると?」
もちろんだ、とクロスが強くうなずいた。
(わたし、提案に乗るとは一言も言ってないんですけど……)
「それもいいね。辺境に行かないなら、俺たちも楽できるし」
サンドワームとも戦わなくて済む、とリオンは言った。
「ダンジョン探しはいいの?」
「あれは期限とかないから大丈夫。それより、クロスがアリアちゃんを推薦した後、学園内の勢力図がどう書き換わるか……のほうが面白そうかな。
あ、もちろん、アリアちゃんが辺境に行くっていうなら付いて行くよ? 協力してくれる冒険者も、一緒に探そうね」
「冒険者を探すにしても、アレスのような大都市に行ったほうが得策だ。辺境に行く前に、一度、研究塔に寄って師匠に会ってくれ。
サンドワームから採れる魔石は、研究素材としても価値がある。アレスなら、腕試しをしたいという魔法使いも大勢いる。――何なら、魔法騎士団に送迎させるという手もあるな」
「クロスって、アレスの魔法騎士団に護衛とか送迎とか、そんな雑用頼める権限持ってたっけ?」
「馬鹿言うな。親父のコネでごり押しするに決まってるだろう」
この際、使えるものは何でも使うぞと豪語するクロスに「それ、堂々と言うことか?」とリオンが突っ込んだ。
「仕方ないだろ。号令一つで騎士団を動かせる身分のお前とは違うんだ」
「ふーん」
「なんだ?」
「今まで散々、貴族の養子にされたことを愚痴ってたくせに、アリアちゃんのためには実家の権力も親のコネも使っちゃうんだ? 今まで、教職にも人材育成にも、毛ほども興味なかったくせに」
「何かおかしいか? アリアにはそれだけの価値と才能がある。問題ない」
「無自覚って怖いなー」
「やけに絡むな。リオンこそ酔ってるのか?」
「そんなわけないだろ。最後のワインは、半分以上クロスが飲んじゃったんだから」
酔うほど飲んでない、とリオンは相棒を小突く。クロスはそれを受けて「酔っ払いほど、酔ってないと言い張ると言ったのはお前のほうだろう」と、鬱陶しそうに振り払ったり小突き返したりしている。
楽しそうで何よりである。
――けど、ちょっと面倒なことになったかもしれない。
二人は何の気なしに話しているけれど、騙されてはいけない。
クロスは魔法騎士団に送迎させると言った。
辺境まで送らせる、ではなく「送り」と「迎え」と言ったのだ。
(絶対、辺境には留まらせないつもりね……)
確かに、魔法の勉強をすることには興味がある。
道中の魔獣からは助けてもらったし、自警団の事情聴取からも庇ってもらった。病床のレッドの面倒も看てくれたし、十分に親切にしてもらった。
すでに、辺境行きのための好条件まで提示してもらっている。
純然たる厚意なのだろう。
(あとは、好奇心か暇つぶし、ってところかな……?)
レッドも、最初は胡散臭いなんて言っていたけれど、今では然して警戒していない。
辺境へ行くためにリオンが出した条件も、謝罪という名目で出されたクロスの提案も、裏があるようには思えない。
本当にノルマのためだけに勧誘するのなら、最初からノルマであるとは言わないだろう。
逆に、本当にノルマのための勧誘だとしたら、それはそれで納得できる。
目的があるから親切にするというのは、当然のことだ。
せっかくの心遣いを無駄にしたくはない。
できるなら提案を蹴りたくないとは思ったけれど、今のわたしには不都合があり過ぎた。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
よろしければ、下の方の☆☆☆☆☆☆を使った評価や、ブックマークをしていただけると幸いです。




