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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第1章

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85.かみ合わない二人②

「ちょっと、レッド、やめてよ」

「なんでだよ」

「わたしは別に、何とも思ってないわ。そんなに怒るようなことではないでしょう」

「……」

 今度はレッドがむすっと黙り込んでしまった。

(なんなのよ、難しい人たちね……!)


「……だってアリア、ずっと泣いてたじゃないか」

 レッドが、ポツリとこぼす。

「あれは……その……」

「少しくらい言い返せばよかったんだよ。……オレは、アリアがちゃんと努力してきたことを知ってる。無知だの無力だのと、何も知らねえ奴に好き勝手言われる筋合いはねえ。ああいう奴は、ほうっておいたら旅の間中、嫌味言ってくるに決まってるぜ」

 レッドが食べかけのパンを置いた。臨戦態勢に入るつもりだ。

「アリアが許可してくれたら、オレが黙らせる」

「許可しません。早くそれ食べちゃいなさい」

「ちぇっ」


 どちらを向いても、微妙に話の通じない人たちがいる。

 対処に困ってリオンのほうを見ると、我関せずといった様子で、レッドと話しながら、和気あいあいとサンドイッチもどきを作っていた。

 レッドは、リオンに対しては別に怒っている様子もなく、普通に接している。

(いったい何だというのだろう?)


 クロスは、まだその場から動かずにいた。

「教会で行っている鑑定魔法の相場は金貨四枚からだ。中流層の平民を基準に設定してある。――が、そういう話ではないんだろう?」

 金貨四枚と言えば、駆け出しの冒険者にとっては、1か月の生活費の半分近くを占める額だ。中流層ならば、常にそれくらいの蓄えはあるだろう。

 けれど、実際は中流以下の暮らしをしている冒険者のほうが多い。

「さて、どうやら許してもらえそうにないので、」

「だからっ、それは誤解で……」

 クロスは立ち上がると、近くから何かの木箱を持ってきて、わたしの傍に座り直した。向かいのベンチ席だと込み入った話をするには遠いらしい。


「アリアちゃん、そいつ(クロス)によーく説教しておいて!」

 卓の向こう側からこちらの様子を見ていたリオンが、激励のような野次のような、よくわからない声援を飛ばしてくる。

「いっつも女の子泣かせるし、男にはケンカ売ってるとしか思えない口調で話すし、」

「リオン、それは今言わなければならないことか?」

「もちろん! またアリアちゃんが泣かされたら困るからね」

 続けて軽口を叩くリオンと、決まりが悪そうなクロスと、卓に突っ伏して笑いをこらえているレッド。


「……まあ、リオンの言うことにも一理ある」

「ふぅん……」

「関心なさそうだな。自分も泣いてたくせに」

「あれはクロスのせいじゃないわ、私は今さら、他人の言葉くらいで泣いたりしないもの」

 今度はクロスが、ふぅんと興味なさそうに鼻を鳴らした。


「確かにオレは、リオンにも師匠にも養父母にも、言葉の選び方がなってない(・・・・・)とよく言われる。喋るのは苦手なんだ」

「大丈夫よ。クロスの話はわかりやすいわ」

 貴族のように、遠回しな言い方をしない。

 かといって、平民のように空気を読むことを強要もしない。

「言い訳をさせてもらえるなら、魔法を(たしな)む者には多かれ少なかれ、そういうところがある。呪文とそれによって起こる事象に齟齬(そご)があってはならないから、口から出る言葉と現実の整合性には常に気を配る必要がある」

「うん」


 つまり、嘘が吐けなくなるというか、お世辞や社交辞令のような美辞麗句が言い(にく)くなるということだ。

 本来、口にするなら真綿に包まなければならない事実を、包まずに言ってしまうタイプなのだろう。

 賞賛し、嘘でもいいから誉めそやさなければならない局面で、確信犯的に本音を言えば――甘やかされて育った御令嬢は泣き出すでしょうし、プライドを傷つけられた御令息は怒って決闘を持ちかけることもあるだろう。

(でもこの人は、そんな争い事にも余裕で勝利するのでしょうね……)

 そして余計に反感を買うところまでがワンセットなのだろう。

 絶対に社交界では大成できないタイプだ。


 また、古代語で書かれた古い魔法学の書物には、高位の魔法使いほど己が吐く言葉には気をつけるものだと書かれている。

 魔法を発現させるための理論としても、まずは体内で魔力を練らねばならないから、あらゆる思念を言葉として体外へ放出してしまっている者は、魔法使いとしては二流である、とも。

 古い説では、魔法使いは寡黙であることが美徳とされていたくらいだ。

 極論すると魔法使いという者は、歯に絹着せずにものを言い過ぎるか、逆に言葉が足りなくて誤解されるかのどちらかになる。


 たぶん、この人を“いい人”だと思ってしまったわたしは、かなりおかしいのだろう。

(だって、ただの不器用な人だ)

 それがわかるということは、少なくとも、わたしはもう社交界には戻れない程度には、貴族としての規範や常識が歪んでしまっている。


「だから、オレは人好きのする話し方はできない。オレのことは嫌いで構わないが、提案だけは聞いてほしい」

「……」

 別に、嫌ってもいないし怒ってもいないのだけれど、訂正する機会がなかっただけです。

「鑑定結果のことは、本当にすまなかった。泣かせるつもりじゃなかった。それだけは信じてほしい」


 そして、黙っていればいいのに、この人は言ってしまうのだ。

 “泣かせる気なら、最初からもっと徹底的にやるさ。人格やら存在価値やらを全否定してやれば一発だ”――なんて、さも実践したことがありそうな台詞を。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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