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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第1章

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77.もしも属性魔法が使えたなら……

 そしてわたしは、そのまま夕食時まで泣き続けた。


 ない、と思っていた属性があったのだから、喜ぶべきだったのかもしれない。

 でも、素直には喜べなかった。

 ないままで構わなかった——とは言えないけれど、今さら属性が見つかったところで、何もできない。

(どうしようも、ない……)


 属性はあっても、亜人種(エルフ)にしか存在しない属性だ。

 変わってしまった右目の色が元に戻ったわけでもない。

 化け物のような体質もそのまま。


 ()属性という属性があってもなくても、お父様が嫌う亜人種の特性を備えたアリア(わたし)であることに、何ら変わりはない。

 帰ったところで受け入れてもらえるとは思えない。

(それにあの家には、イーリースお継母(かあ)様とシャーリーンがいる)

 あの人たちと同じ屋根の下では暮らせない。暮らしたくない。

 ローランド寄宿学校に復学するのも遠慮したい。

(あそこには何もいい思い出なんかない)

 戻ったところで、もう一度会いたい級友がいるわけでもない。魔法の勉強ができるわけでもない。


 何事もなく成長していれば、わたしは伯爵家の娘として、 王都リリアーナ貴族学院へ入学していたはずだった。学院(そこ)で花嫁修業をしたり、魔法の勉強をしたり——普通の貴族令嬢として、ありきたりな日々を送っていたはずだったのだ。

 お父様が事業の一つとして奴隷商会に出資していることも、知らないままで終わったかもしれない。気づいたとしても、何も考えずに過ごしていたかもしれない。


 たとえお父様が、イーリースお継母(かあ)様とシャーリーンを屋敷に招いたとしても、(れっき)とした伯爵家の長女であるわたしならば、彼女らは無下にはできなかったはずだ。

 フィレーナお母様のメイドたちも、解雇させたりはしなかった。


 それでもイーリースお継母(かあ)様がわたしに毒を盛ったり、シャーリーンがわたしを刺したりしたならば、わたしはすぐに死んでしまっていただろう。

 大病を患うことのなかったわたしは、お祖母様から恩寵をいただいていないはずだから、化け物と呼ばれるような特殊体質も持ち得ていない。毒耐性もなく、治癒力も人並みならば、一度できれいに(・・・・)死ねたことだろう。

 少なくとも、何年も刺客に狙われるような生活を送らなくても済んだはずだ。


 普通の貴族令嬢として生きていたら、きっと冒険者登録なんてしなかっただろう。

(そして、レッドにも出会わなかった)

 アイリスも存在しなかった。

 ダンジョンに置き去りにされて、死にそうな目に遭うこともなかった。


 冒険者登録をしていたとしても、属性魔法が使えたなら、役立たずと(ののし)られるようなこともなかったはずだ。

 魔力回復薬を持ち歩いていなくても、強い属性魔法――攻撃魔法が打てれば、ささいな欠点として見逃してもらえたかもしれない。

(違う……属性が使えたなら、もっとちゃんと稼げていたはずだから、たとえ自分で使わなくても、魔力回復薬の一つや二つ、常備していた……)


 亜人種(エルフ)の特性を持っているからという理由で、お父様に嫌われることも、家を追い出されることも仕方がない。けれど、属性魔法が使えたなら、もっとマシな冒険者生活が送れたはずなのだ。

 泊まるところもなくて、浮浪者や流民のように野宿したり、徹夜でギルドの仕事を手伝ったり、常にお腹を空かせていたせいで、異常に山野草に詳しくなることもなかった。


 図鑑で調べられなくて、食べられるかどうかわからなかった植物は、全て食べてから判定した。

(毒耐性があるから、どうせ死なないし)


 ハーフエルフ特有の容姿を隠していても、攻撃魔法が使えなければ、パーティーには入れてもらえない。回復の専門職としてパーティーに入れてもらった場合、ろくでもないことになるのは実証済みだ。

 回復役として歓迎されるのは、結局のところ可愛いくて愛想の良い(マスコットのような)聖職者だけだ。

 レベルが低くて攻撃魔法が弱くても、聖女や女司祭なら許される。

 ジョブが確定する前の新人で、初級の攻撃魔法も使えない亜人種の小娘など、誰も必要とはしない。

 新人が回復役としてやっていきたければ、まずはマスコットを抱えていられるような実績のある冒険者パーティーと、懇意になるための容姿や愛嬌(スキル)が必要なのだ。

(この世は欺瞞に満ちている――クロスの言ったことは本当だ)


 パーティーを組んでの普通の依頼は受けられなかったから、採取依頼ばかりこなしていた。

 採取だけでは生活できなかったから、飲食店のお手伝い依頼を受けたこともある。

 裏方の下働きなら、多少、容姿が(まず)くても雇ってもらえた。そのときだけは、生活魔法が得意でよかった素直に思えた。

 洗い場の仕事は大変だったけれど、実家の手伝いと違って、賃金がもらえるから苦ではなかった。あかぎれだらけになった手も、治癒魔法と手製の軟膏ですぐに治った。

 一緒に働いていたおばさんに、あかぎれ用の軟膏を分けてあげたら、よく効くと言ってとても喜んでくれて嬉しかった。

 お礼にお菓子をもらったことよりも、ありがとうと言ってもらえたことが、何より一番嬉しかった。


 新人の小娘が一人でギルドに出入りしていれば、荒くれのベテラン冒険者からは(あなど)られ、押し退けられて掲示板にも近づけず、野卑な男たちからは下品な揶揄(からか)いを受け、下手をすると商売女のように扱われる。

 そういう嫌がらせも、仲間と一緒に行動していれば避けられる。

 貴族社会とは違って、庶民の――特に冒険者の間には、無条件で女性を尊重するような文化はない。よく言えば平等。悪く言えば、あからさまな男尊女卑がまかり通っている。

 新人でレベルが低くても、男性冒険者が仲間にいるのといないのでは、周りの視線も違うものだ。


 ソロで活動している女性冒険者は、高レベルの騎士や魔法使いくらいだったけれど、それでも常に一人で行動しているわけではない。

 ギルドで見かけた彼女たちは、次に見たときには男性冒険者とパーティーを組んで、依頼を受けて出て行った。

 とても格好良くて憧れたものだ。

 属性魔法さえ使えたら、わたしも一人前の魔法使いとして、あんな風に頼りにされる存在になれたかもしれない。……ハーフエルフだとしても。


 属性魔法さえ使えたら、馬車が襲撃されたときだって、レッドにだけ戦わせるような真似はしなかった。

 怪我の何割かは、わたしが引き受けられたはずだ。獣人ほど頑強はないけれど、攻撃は逸らせたはずである。

(そもそも、わたしの命を狙った襲撃だったのだから……)

 レッドに掛ける治癒魔法の回数も、もっと少なく抑えられたはずで、結果的にレッドを魔素中毒に陥らせることもなかったはずだ。

 動けなくなるまで一人で戦わせて、挙げ句、変な呪いを発動させることになって、病みつかせて苦しめることもなかったはずだ。

(最初から、わたしがもっと戦えていたら……)


 もっと、ちゃんとした普通の冒険者だったなら。

(でもそうすると、わたしは治癒魔法を極めなかったかもしれない)

 そうすると、レッドの脚を再生してあげることはできなかった。

 そもそも、今とは違う運命を歩んでいただろうから、レッドとは出会わなかったかもしれない。“アイリス”も存在しなかったかもしれないのだ。

(そうすると……)


 駄目だ。考えが堂々巡りして、頭が働かない。

 一つだけわかっているのは、わたしが無知で愚かな子供だったということだ。

 お父様が言ったことを、疑いもなく信じて、ずっと自分には属性がないものだと思い込んでいた。

 もしかしたら“鑑定の儀”は間違いで、ひょっとしたら属性はあったのかもしれない。もう一度、鑑定魔法を受けさせてもらえるように頼んでみよう――などとは、一度も考えなかったのだ。

 わたしの怠慢だ。

 クロスに罵られても仕方がなかった。

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