69.散策と修羅場/リオン視点
村のギルドで、畑を荒らしに来るというゴブリンの討伐依頼を受けた。
一日中、宿屋に籠っていても暇だし、クロスと顔を合わせているのも息が詰まる。
あいつは宿にいる間、ほぼ魔法書を読んでいるだけだから、会話がない。食事も適当なものでいいと言う。何が楽しくて生きているのか、よくわからない。
アリアちゃんと猫くんの傍に居るのもいいけれど、看病に三人も必要はないだろう。
(というか、部屋が狭いっ)
もう少しいい宿に泊まれれば良かったのだが、この村には生憎、素泊まりの狭い宿しかなかったのだ。
というわけで俺は、村をブラブラするついでに小銭を稼ごうと、簡単な討伐依頼を請け負って畑に向かった。
(簡単な討伐依頼――っていうか、簡単な依頼しかないんだよな)
田舎ゆえ、冒険者もあまり立ち寄らない。行商人の護衛として同行する冒険者が、ときどき訪れる程度で、ギルドは閑散としていた。
ギルドというより、もはや村役場を兼ねた公共施設だった。
聞いた話によると、ギルドに討伐依頼を出しはするものの、基本的には村人が総出でなんとかしているらしい。
村の猟師を中心に、複数人で猪や熊を狩る覚悟で挑めば、素人でもゴブリンの一、二匹なら退治することができる。なるべく、増える前に小まめに退治するのがコツだという。
巣が見つかった場合は、厳重警戒の上、大きい町のギルドへ緊急依頼をするしかないようだった。
青空の下、依頼にあった五匹のゴブリンを倒して、証明部位である耳を切り取り、袋に入れて魔法鞄に放り込む。簡単な仕事だった。
剣士の俺には、オオカミの姿をした魔獣より、人の形をしていて武器を使う魔物のほうが相手取りやすい。
俺はゴブリンの死骸を一か所に集めて火を放った。
(クロスがいれば、火魔法か土魔法で一発なんだけどなー)
面倒だが、死骸は火属性の魔石を消費して焼くしかない。穴を掘って埋めるという手もあるが、土魔法を使わずに人力で掘るなど、魔法を使えない傭兵連中くらいしかやらない手法だ。
(ちょっと火力が弱いかな……?)
魔石を使って焼却の火魔法を放ったが、ゴブリンの死骸は炭にはならず、生焼けになった。
(ま、いいっか。後始末は村人に任せよう)
魔獣や魔物を倒した後は、素材の剥ぎ取りや魔石の回収が欠かせない。解体して売れる分は売り、食べられる部位は食材として確保する。
残った不要な部位は、他の魔獣の餌になる。
森の中なら放置で構わないが、人里が近い場合には、他の魔獣を呼び集めてしまう原因になるので、焼くか埋めるかして後始末をせざるを得ない。
自力での解体が困難な場合には、村や町まで持ち帰って専門業者に頼むこともあるが、冒険者は基本的に自分で解体することを好む。
(手数料かかるしな)
俺も最初のころこそは業者に頼んでいたが、金の無駄だとクロスに怒られてからは自分でやっている。
上手く解体できれば買取金額も上がる。そういうところも冒険者の醍醐味だろう。
依頼料と、副産物の素材、討伐対象から採れる魔石、ちょっとした珍しい食材や鉱物、常に駆除対象とされている低級の魔物や魔獣、たまに普通の獣の毛皮や肉。そういったものが冒険者の主な収入源である。
猟師や商人とどこが違うのかと言えば、魔物や魔獣を相手に戦えるという一点に尽きる。
さらには冒険者の中にも色々いて、協力な魔物を倒して名を上げたいという者や、未踏のダンジョンを攻略して換金性の高いアイテムを手に入れたいという即物的な者、傭兵や便利屋のように護衛や雑用を中心にこなす者など、レベルやランクによっても違いがある。
討伐依頼を中心に受ける者の中でも、危険度と依頼料で選ぶ者から、剥ぎ取れる素材で選ぶ者まで三者三様だし、ほとんど商人のような仕事振りの者もいる。自分で戦える者は護衛を雇う必要がない分、商才さえあればかなり儲かるらしい。
だいたい、初級ランクを卒業するまで生き残り、中堅ともなると方向性が定まってくるものだ。
俺たちの場合は、旅とダンジョン探索がメインと言えるかもしれない。
難敵は上級冒険者に任せておけばいいし、名を上げることにも興味がない。旅をして見聞を広げ、ギルドの依頼を受け、行く先々で地元の人と交流したり、名物を食べ歩いたりと気楽にやっている。
(親類縁者や友人知人からの個人的な依頼を受けている分、他の冒険者よりは収入が多いからな……)
はっきり言ってしまうが、依頼主が高位の貴族だから報酬がいい。
それに、ダンジョンで魔法書を見つけると、クロスが教鞭を執っている学院が高く買い取ってくれることもある。
別に勘当されたわけでも、家出してきたわけでもない。きちんと家長の許可を得て冒険者をやっているから、実家のバックアップもそこそこある。家格が高いと不自由も多いが、融通も利く分、他の冒険者より暮らし向きに余裕があることは否定しない。
この辺りのゴブリンは基本的に森の奥から出てこないが、たまに何かの理由で村の近くまで来ることがあるという。
村人はただただ迷惑そうに言っていたが、魔物にも行動原理はある。たいがいが獲物を求めての徘徊だ。
(ということは、)
近くにゴブリンが好んで狩りそうな魔獣がいるのかもしれない——と周囲を探索した結果、よく太った魔鳥を一羽見つけた。
大きな鳥の姿をした魔獣だ。
怪我をしていて、動きが鈍い。
ゴブリン手製の矢が刺さっているから、俺が倒したゴブリンたちが追っていた獲物だろう。
茶色で足が短くずんぐりしたこのブラウン魔鳥は、食用の地鶏が進化したものと言われていて、煮ても焼いても美味いことに定評がある。
ゴブリンにも人間にも狩りやすく、可食部も多いサイズだが、魔獣と言われるだけあって攻撃力が高い。上位の個体はたまに魔法を吐くやつもいる。
が、慣れれば鶏を絞めるのと変わらない。
俺は仕留めた魔鳥を魔法鞄に詰め込んだ。
開口部より大きな物でも収納できるのが売りの魔法鞄だが、それにしたってコツがいる。
帰りにギルドに寄って討伐依頼を完了したことを報告し、ゴブリンの耳袋を取り出そうとしたが——ブラウン魔鳥が引っかかって取り出せなかった。
(またか!)
高性能なはずの魔法鞄だが、たまにこういうことが起きる。
使い手の技量によるとも言われているが、要は整理整頓の得手不得手に起因するらしい。
俺は魔鳥を引っ張り出してギルドの床に放り出し、それから耳袋を取り出して受付のおばちゃんに渡した。ついでに、ゴブリンの死骸の後始末を頼む。
村のギルドの受付には、年配のご婦人しかいなかったので、ちょっと残念だった。ギルドの受付嬢というには語弊が激しい。……まあ、田舎だから仕方がない。
でも、こういう田舎のおばちゃんはいい人が多い。
魔鳥を今日の夕食だと話すと、野菜を分けてくれると言って裏の畑に取りに行った。
ゴブリンから採れる素材はないため、たいした稼ぎにはならない。報酬は依頼料のみだ。魔石も小さいから、労力が買取金額に見合わない。
そのため、ゴブリン討伐は敬遠される依頼の1つだが、暇に飽かせて討伐を引き受けた俺に、皆が大仰に感謝してくれた。
さらには、役場側の窓口に座っていたおやじさんが、調理するなら広場のかまどを使っていいとも言ってくれた。村で祭りや集会などの催しを行うときに使う、大きなかまどや調理器具が揃った設備があるらしい。
「大きめの焼き網はあるかな? 魔鳥、焼き鳥にしようと思うんだ」
「ああ、あるとも。炭とかも自由に使ってくれていいぞ」
「ありがとう、ギルマス」
「よせやい、ギルマスなんて。ここじゃ、そんな呼び方する奴ぁいねえよ」
げらげら笑ってギルマス呼びを拒否したおやじさんは、首に手ぬぐいを巻き、畑から帰って来たばかりのような格好をしているが、この村のギルドマスターだった。
ちなみに、野菜を分けてくれた受付のおばちゃんも、ギルマスも、このギルドというか村役場のほぼ全員が、俺の仲間が体調を崩して一週間近く寝込んでいることを知っていた。
(宿屋の夫婦と、聞き込みに来た自警団の二人組くらいにしか、事情は話していないはずなんだが……)
王都では考えられない、恐ろしいほどの情報伝達速度だった。
魔鳥と野菜を手土産に、今日は焼き鳥パーティーだと意気揚々と宿屋に帰った。
アリアちゃんもクロスも、猫くんが寝ているほうの部屋に集まっていることが多いから、俺は自然とそちら側の部屋を訪ねてノックした。
「ただいま〜、今日はお土産があるよ」
扉を開けると、そこには何とも言えない不可解な光景が広がっていた。
「え……?」
アリアちゃんが猫くんに縋り付いて泣いていて、それをクロスが必死に慰めていて、そのクロスをレッドが毛を逆立てた猫のように(猫だけど)威嚇していて、アリアちゃんは泣きながらもレッドを制し、クロスを庇っている。
(これ、なんていう修羅場……?)
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