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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第1章

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63.昼食と猫③三つ目の条件

「三つ目の条件は、ちょっとした嘘を吐いてほしいということかな」

「嘘……?」

「そう。あの駅馬車強盗事件、ちょっと大事(おおごと)になりそうなんだよね」

 まあ、誰が考えてもそうだろう。

 乗客が殺され、金品が奪われただけなら、よくある駅馬車強盗だ。

 けれど今回は、それに加えて盗賊全員が横死している。しかも盗賊の一部は、一見、原因不明の死を遂げているのだ。


 剣の傷ならわかりやすい。攻撃魔法の場合は、もっと派手でわかりやすい痕跡が残る。

 けれど、無属性魔法による攻撃は――攻撃とは呼べない種類のものがほとんどのため、戦闘後の痕跡が残りにくい。

 デバフで動きが鈍ったところを刺されたとして、それが本人が弱かったからなのか、敵が強かったからなのか、デバフのせいだったのかは、後から死体を見ただけではわからないのだ。


 特に鈍化や睡魔の魔法ならば、効果が切れた後には何も残らない。

(でも、毒の場合は鑑定魔法を使えばわかってしまうかも……)

 ちょっと(まず)いことになったかもしれない。


 一瞬で人を殺せるほどの強い毒魔法を使える者は、多くない。

(恐らく“アイリス”は容疑者の一人に数えられるだろう)

 わたしが化けた“アイリス”が強力な毒魔法を操る毒薬使いだということは、知っている人は知っている。

(アイリスの姿では色々やらかしてるからなぁ……)


 盗賊が毒で死んだことが判明す(わか)れば、いずれ暗殺者ギルド経由で“アイリス”のもとまでたどり着くだろう。

 毒薬使いと、毒魔法を使う魔法使いというのは、ジョブ的には全く別のものだけれど、どちらも強力な毒という点では共通している。

 物的証拠などなくても、人は結びつけて考えるだろう。毒薬そのものと、毒魔法の区別がついていない者も多い。


 そして、アイリスは毒蜘蛛の魔女(ブラック・ウィドウ)と呼ばれるに相応しく、暗殺者(アサシン)ギルドをお得意様にしている。

 威力を落として扱いやすくした蜘蛛毒を、汎用品としてギルドに(おろ)しているのだ。


 暗殺される危険に常に(さら)されている貴人・要人などは、主な毒物には免疫を持っている場合が多いので、珍しい毒は珍しいというだけで価値がある。

 多少、威力を落としたところで、ギルド所属の暗殺者(アサシン)たちは、基本的に毒だけで目標(ターゲット)を殺すことはない。刃に塗って、致死性を高めるための保険くらいにしか考えていないため、解毒され難いというだけで十分に役目を果たしていた。


 アイリスの汎用蜘蛛毒を特に愛用していたのは、女の暗殺者だった。外用薬として使っても十分な効き目だが、飲食物に混ぜても効果が落ちないと評判だった。

 実際、購入者から直接お礼を言われたことがある。

 昏睡強盗に便利な、おやすみ三秒の強力睡眠薬も人気だった。


 特製の麻痺毒はギルドには卸していなかったものの、アイリスの姿では何度も使ってしまっている。

 まず“アイリス”に寄ってきた性質の悪いナンパは全部、麻痺毒で脅して断っている。実際に麻痺毒をお見舞いして、三日ほど寝たきりになってもらった者もいる。

 同じ麻痺毒を“アリア”の姿でも使っているから、調べられれば、いずれアイリスとアリアに繋がりがあることがバレるだろう。


 ほかには“アイリス”として訪れた村で、魔物のスタンピードが起きたときに、毒魔法で魔物を一掃している。村人は絶対、そのときのことを覚えているに違いない。


「それで……?」

「アリアちゃんと猫くんは、あの馬車には乗っていなかった。王都からずっと、俺たちと一緒だったということにしてほしいんだ」

 なんですって?

「誰に何を聞かれても、そう言ってしらを切り通してほしい。自警団はすぐに村に出入りした余所者を調べて回る――当然、この宿にも来るだろう」

「……」

「俺たちは、辺境のダンジョン探索に行く途中。アリアちゃんは、回復役としてパーティーに加わったばかり。――あ、猫くんもね。剣士と魔法使いと盗賊(シーフ)と回復役なら、なかなかバランスのいいパーティーだと思うよ」

「ダンジョンに潜るなら、盗賊シーフは必要不可欠だ。こいつ(レッド)がいることは、俺たちがパーティーである事実と目的を裏付けることになる」

「そうだね。でも猫くんがダウンしちゃったから、この村で休んでいる……と」

「ああ、それでいいと思う。存在証明(アリバイ)としても問題ない。オレたちは馬を持っているから、王都を出てからここまで、馬車と同程度の日数で到達していても不自然ではない。オレたちは交代で馬を使ったとして、獣人は歩きだったから疲労が蓄積した。そういうことにすれば、宿の女将に喋った内容とも齟齬(そご)は生じない」

「アリアちゃん、後で猫くんによく言い聞かせておいてね」

 口を挟む間もなく、頭上で勝手に話がまとまってゆく。


「一応確認しておくけど、馬車に身元がばれるような物は残してきてないよね?」

 と、リオンさんが聞いてくる。

 わたしは黙ってうなずいた。

「でも、どうして……?」

 アリバイ工作のようなことをしてまで、(かば)ってくれるのだろう。

「アリアちゃんが面倒事に巻き込まれて足止めを食らったら、俺たちが困るから」


 リオンさんが「これを見てほしい」と出してきたのは、ギルドの依頼書だった。原初のダンジョン(仮)の調査依頼だ。最近、冒険者の間で話題になっていたから知っている。

(わたしには関係ない話だと思ってたから、気にもしてなかったけど……)

 あのダンジョン、辺境にあったんだ。


「辺境というか、大森林の近くというだけで、正確には判明していない。入口が移動している可能性もある。場所の特定が依頼の趣旨だ」

「で、俺たちは大森林の奥が怪しいんじゃないかと考えた」

 ダンジョンの入口って移動するものなんだ……。初めて知った。


「最初は荒野の谷を渡って大森林まで行くつもりはなかったんだ。魔獣を討伐して小銭を稼ぐついでに、この辺の森を調べて終わらせるつもりだった。偶然見つかったらラッキー、くらいの軽い気持ちでね」

「無理して大森林まで行ったところで、そこにダンジョンがあるという保証はないからな。無駄足を踏まされるだけなら、荒野の谷を渡るのはリスクが高い」

「でも、アリアちゃんが辺境まで行くのに荒野の谷を渡らなければならないとなると、高レベルの冒険者を雇うよね?」

 その前に、どうにかして依頼料を工面しなければならないけれど……。

「だったら、一緒に行けばいい。中堅の俺たちだけでは厳しいが、優秀な回復役がいれば話は別だ。Aランク冒険者をあと一人か二人、雇えばなんとかなる」

「金はあっても、Aランク冒険者は捕まえること自体が難しいんだ。どこのギルドでも引っ張り凧で、だいたい出払ってるからな」


 つまり、わたしとレッドだけで荒野の谷を渡ることになった場合、なんとかAランク冒険者を雇うお金を用意できたとしても、依頼を受けてもらえるまでに、どれくらいの日数がかかるかわからないということだ。

 もしかしたら、長く足止めされるかもしれない。

 そうなると、ギルドの近くに滞在しながら待たないといけないわけで……とても、とても路銀が心許ない。


「そもそもAランクに依頼を出すのは、貴族やギルド、村や町だからな。個人で雇うにはなかなか骨が折れる額だ」

「でも、パーティーじゃなくて、フリーの冒険者を一人か二人雇うのなら、俺たち全員で折半すればなんとかなるよ」

「それは願ってもない条件だけれど……」

「あと、辺境の検問を抜けるときは、俺たちを君の護衛ということにしてほしい。道中の護衛に雇った冒険者だ、ということに」

「それは構いませんが……」

「辺境の検問、厳しいことで有名なんだ。紹介状がないと、通るのにすごく時間がかかる」

「紹介状……?」

 なにそれ、初耳なんですが。


 さらに紹介状について聞こうとしたところ、わたしを呼ぶレッドの弱々しい声が聞こえた。

「アリア……腹減った……」

「レッド、起きたのね」

 枕元に駆け寄って、額に触れて様子を見る。まだ少し朦朧(もうろう)としているけれど、だいぶ熱が下がってきたようだった。起きて話ができるのは、久しぶりだ。

「なんかすげー美味(うま)そうな匂いがすんだけど……」

 コーヒーと厚口屋台サンドだ。残念ながら、レッドの分はもうない。

 私は振り返って言った。

「リオン、三つの条件を全部呑むから、ミルク粥をちょうだい。煮炊きに魔力が必要なら、わたしが提供するわ」

「……アリア……条件て?」

「大丈夫だよ。これからミルク粥を作るから、少し待っててね」

「うん……」

 考えることを放棄したのか、レッドは素直にうなずいた。

 いつもなら、こうはいかない。普段はもっと目端(めはし)が利くのだ。「条件」などという不穏な単語を耳にしたら、絶対に問い詰められる。

 どうも、わたしはレッドの中で「世間知らずのお嬢さん」という扱いらしいのだ。わたしが馬鹿なことをやらかさないか、いつも見張っている節がある。

 レッドには伯爵家の出身だということは明かしてあるから、全く間違っているわけではないけれど、深窓の令嬢ではないのだから、そこまで過保護にならなくても……と思うことがたまにある。いや、最近多い。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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