196.エルフになりたい⑦リオンと宿屋探検
仕方がないので、リオンの暇つぶしに付き合うことにした。
とはいえ、特に話したいことがあるわけでもないので、二人で宿の中を探検することにした。途中でレッドを見つけたら、ハーフエルフの話をすればいい。
クロスは魔法薬学大全と向き合っているので、邪魔をしないほうがいいだろう、と一人で部屋に残してきた。
二階に行ってみようということになり、狭い廊下を進む。
もとは民家だったためか、最初から宿屋として立てられた建物よりも廊下が狭い。
「民家にしては、かなり大きいな」
「裏には離れもあるみたいよ?」
中庭を挟んだ向こう側に、もう一棟、小さな家が建っているのが窓から見えた。
薄暗くなりつつあるけれど、小振りな建物がもう一つあることはわかる。
「あれは使用人小屋──じゃなかった、管理人さん夫婦が住んでいる家かもしれないな」
「そうね」
小さな家を見て、すぐに“使用人小屋”という単語が出るところは、良家のお坊っちゃん育ちをうかがわせる。
リオンは貧乏貴族の三男坊と言っていたけれど、かなりきちんとした家柄の出身なのだろう。
少なくとも、本邸の他に離れや使用人小屋などが敷地内にあるなら、普通の貴族屋敷のはずである。
貧乏貴族の三男坊を名乗るとは、いささか謙遜が過ぎるのではないだろうか。
(実家には、高価な宝物がごろごろしている印象だし……)
リオンが使っている黒鞘の長剣や魔法鞄、旅に必要な便利アイテム、レッドに貸し与えた短剣などもそうだ。
一介の冒険者風情が持てる物ではない。
レベルが上がれば収入も上がるため、高価な武器やアイテムを買うことはできる。けれど、そういった叩き上げの冒険者は、実用性重視のもっと武骨な武器を選ぶものだ。
しかも、冒険者カードに変名魔法を掛けるために、大金を使っているらしい。
親からの援助だとしても、金銭感覚が庶民とはズレているリオンが“大金”と言ったくらいなのだ。それをポンと、息子の冒険者デビューのために投資してくれる家は、決して“貧乏貴族”ではないだろう。
せいぜい、普通の下級貴族だ。
ヴェルメイリオ家のような成金家系と比べれば、資産は少ないかもしれないけれど、貧乏ではないはずだ。
リオンが口にする“貧乏貴族”は、本当の貧乏を知らない貴族が使う、偽の言葉だ。
(貧乏貴族を名乗るなら、せめて庶民と同程度の生活をしてから言ってほしいものよね)
本当の貧乏貴族は、通いの使用人すら雇えず、平均的な平民のような暮らしをしている。寄宿学校にも何人かいた。だいたいが成績優秀な特待生だった。
それでも……。
わたしは、ちらりと隣を歩くリオンを盗み見た。
冒険者として、本当に平民の暮らしを楽しんでいるらしいリオンは、不思議な存在である。
貴族らしさは消えないけれど、そこに全く嫌味な感じがしないのは、わたしの贔屓目だろうか。
リオンは、初対面のときから獣人奴隷であるレッドのことを差別しなかった。
亜人種である獣人のことも、ハーフエルフのことも、蔑むことがない。必要な区別はするけれど、基本的に平等に扱ってくれる。
それも、上の身分の者が下の身分の者を、無理やり引っ張り上げて同じ席に着かせ、平等を装って相手を萎縮させるような方法ではなく、自分が下の身分に合わせるという、信じられないやり方だ。
だから、彼からは驕りが一切感じられない。
この後に予定されている宴でも、すぐに馴染んで楽しい時間を過ごすのだろう。
人間だけれど、たぶんリオンなら大丈夫だ。
(……クロスのほうは、ちょっと微妙かな?)
獣人族の集落には、魔法に関するものがあまりない。獣人族はほとんど魔法を使わないからだ。クロスの興味を引くものはないだろうから、村の人と話が弾むとも思えない。
でも逆に、互いに興味がない分、敵視もされにくいのかもしれない。
(むしろ、亜人種の集落で一人だけヒト族として浮いていたとしても、全く気づかないか、気づいていても完全に無視して生活してそう……)
鉄面皮になろうと思えば、瞬時に変貌もできるのだろう。
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