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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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195/288

195.エルフになりたい⑥レッドの話

 奴隷は使い捨てではあっても、商会にとっては大事な商品でもある。

 あまりに廃棄率が高くなっては採算が取れないのと、一応は合法とされている奴隷売買でも、目に余る行為があれば営業許可を取り上げられる。野山で獣人を狩り放題だった昔と違って、昨今は国の取り締まりが厳しいそうだ。


 出禁にされなかった件については、レッドいわく、アイリスの悪評はあくまでも噂であり、実際に奴隷を実験に使った前科や証拠がないからだろうということだった。

「商会のブラックリストに載ってなかったからじゃね?」

 この話をしたとき、レッドはあっけらかんと言ったのだ。

 絶対に毒薬の実験用だと思われていたし、商会の従業員もドン引きしていたのだけれど、確証がない限り奴隷商会は客を選ばないものらしい。

 

「あとは、オレがちゃんと生きてて、商会の利益に貢献してるからだな」

 契約料を支払っている限り、商会も細かいことは言わない。

 レッドは、なぜか得意そうだった。

 ずいぶんと搾取されているはずなのに、奴隷商会のことを嫌ってはいないのだろうかと不思議に感じたのを覚えている。

「商会では、稼げる奴隷は大事にされる。そうすればオレも、兄ちゃんたちがしてくれたみたいに、弟分(チビたち)を守ってやれるからな」

 レッドはそんなふうに言ってのけたのだ。


 きっと、レッドは自由になったら冒険者になって、たくさん稼いで、商会で一緒に育った弟たちを助けてあげたいのだろう。

 奴隷身分から解放してやることはできなくても、自力で生きていけるようになるまで、契約者として仕事を与えてやることができる。

 自分が一人前の冒険者になれば、荷物持ちや雑用係として連れ出して、生き残るための技術を教えてやることもできる。

(レッドも、そうやって育ってきたのかな……?)


 わかっていることは、いつかレッドはわたしを置いて、どこかへ行ってしまうということだ。

 それを思うと、少し寂しい。

 レッドには、一緒に育った兄弟のような奴隷仲間がいるのだろう。

 死なない限り、商会に戻れば会うことができる。


(──でも、わたしには何もない)


 家には帰れない。

 アルトお兄様には迷惑をかけられない。

 レナードお父様はほぼ他人──というか知らない人も同然。

 イーリースお継母(かあ)様とシャーリーンは赤の他人で、しかも敵だ。

 私はあの三人を“家族”とは認めない。

 あんなものを家族と呼ばなければならないのなら、わたしは家族なんていらない。


「アリアちゃん、どうかした?」

 つい、考えに(ふけ)ってしまったわたしに、隣のリオンが声をかけてきた。

 クロスの手は、わたしが肯定の返事をした辺りで、満足したように離れていった。離れ際に“よくできました”とでもいうように、軽く頭を撫でられた。


「なんでもない。わたし、もう戻るわね」

 立ち上がったわたしを、今度はリオンが腕を引いて引き止める。

「え、行っちゃうの? 夕食までここにいようよ。一人で部屋に戻ってもつまらないだろう?」

「でも……」


 今日の魔石生成ノルマを消化しておきたい。

 最近、旅に出てからはサボり気味だったから、少し多めに生成して、今のうちに在庫を増やしておきたいのだ。

 その点、一人部屋なら誰にも見られず集中力できて都合がいい。

 魔石生成は、今のわたしにとっては唯一の収入源だから、これ以上サボるわけにはいかない。

(少しでも、レッドを買い取るためのお金を貯めておかないと……)

 できれば辺境に差しかかる前、アレスニーアに滞在している間に、まとまったお金を工面したい。

 旅の途中に寄っただけの町なら、多少、多めに魔石を売っても誤魔化せるだろう。すぐに旅立ってしまえば、追求されることもない。


「アリアちゃん、もう少しここにいてお話ししようよ。クロスは部屋にいても本を書き写してるだけだから、話し相手がいなくて暇なんだよぉ」

 それが本音か。

「迎えが来るまで外にも出られないしさっ……」

 ごめんなさい。クロスが話し相手にならないのは、わたしの魔法薬学大全のせいですね。

「リオン、あのね、あの本……全十二巻なの」

 当分の間、クロスはあの調子だと思う。

「え」

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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