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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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183.宿屋のご夫婦の悩み事とパーティー名

「では……こちらのお風呂はどうやってお湯を用意しているのですか──?」

 失礼だけれど、家屋を自分たちで建て、家具を手作りしているような村人が、大量の魔石を用意できるとは思えない。

 魔物を狩りまくっても、倒した魔物が必ず火や水の魔石を持っているわけではない。確立は五分の一以下だ。

 その前に、使えるサイズの魔石を持っていそうな、大きな魔物を探さなければならない。ツノウサギ程度では駄目なのだ。


「どうやって──って、そんなの川から汲んでくるに決まってるじゃあないか」

 と、旦那さん。水の魔石を使わないのなら、それ以外にどうやって水を用意するのだと不思議そうだ。

「お湯は、外から火を焚いて私たちが沸かしているのよ」

 と、奥さん。だから、お風呂を使いたい場合は前もって言ってもらわないと用意できないのよ、と申し訳なさそうにした。


「食事を煮炊きするみたいに、薪を燃やしてお湯を沸かすということですか……?」

「ええ、そうよ。町では魔石を使うのが一般的ですけれど、この集落にそんな財力はないですもの」

「魔石があっても、獣人族はみんな魔法が下手だから、使いこなせるかどうかわからんしな」

 要は、方法が何であれ風呂が沸けばいいのだ、と旦那さんは開き直って言い切った。

 それは、確かにそうかもしれない。

 薪で沸かすという発想はなかった。

 

「でもねえ……」

 奥さんの話では、頑張って浴場というものを用意したが、ヒト族は魔石を使うのが常識だと思っているから、野蛮だの非常識だのと文句を言われたり、馬鹿にされたりすることも多いのだという。

 しょんぼりと肩を落とすと、小柄な栗鼠族はより一層小さく見える。


「他にも、集落(の中)に滞在する|《人間(ヒト族)》がいるのですね」

 門のところでイザークさんたち門番が、ヒト族を中に入れまいと厳しく取り締まっていたから、わたしたちが初めて集落に入った人間なのかと思っていたら、そうではなかったようだ。

「町や村からの特使の方と、大店の商人さんとかが、たまに泊まることがあるのですよ」

「あのクソったれどもな」

「ちょっとお父さん!」

「お前だってそう思うだろう? 族長が頭を下げて頼むから仕方なく泊めてやったが、そうでなけりゃ叩き出してやるところだ」

 特使の人間たちは、いったい何をやったのだろう。


「あらあらごめんなさいね、変な話を聞かせてしまって。あなたたちのことではないのよ」

「どこの特使と商人ですか」

 急にリオンが話に割り込んできた。

「名前と、何をしたかを詳しく教えてください。伝手があるので、厳しく注意してもらいますよ」

「いえ……いいんですよ」

 遠慮がちな奥さん。

「そうさなァ、あんまり大事(おおごと)にして族長に迷惑がかかってもいけねえし……」

 おれも調子に乗って言い過ぎた、と旦那さんも歯切れが悪くなってしまった。


「いいえ、よくないです。これからの世の中、奴隷ではない亜人種も増えていきます。獣人だから、エルフだからという理由で差別するような人間には、認識を改めてもらう必要があります」

 なんだかリオンの口調が固い。

 仕事モードの役人さんみたいだった。


 旦那さんが、少し考えて発言する。

「有り難いが、注意喚起してもらうなら、まずは族長に相談してからだ。それが筋ってもんだろう」

 その様子に、リオンが柔らかい雰囲気に戻る。

 事を荒立てたくないがために言っているのではなく、順序立てて筋を通したいという理由ならば大丈夫だと判断したのだろう。

「でしたら、いざという時は冒険者ギルドで“薔薇の(もと)の銀剣”宛てに連絡をください。アリアちゃんの恩人が族長を務める村なら、優先的に対処させますよ」


 ──薔薇の下の銀剣。

 確か、リオンとクロスの冒険者カードには、パーティー名としてそう記されていた。

 こうして耳にすると、冒険者のパーティー名にしては優美な雰囲気がある。

 パーティー人数が二人では、よくある“○○団”と付けるのは躊躇われたのかもしれない。どちらかというと騎士団っぽいな、と感じたことを覚えていた。

(リオンなら、高価で優美な銀剣とか、たくさん持っていそうだしね……)

 意外と相応しいパーティー名なのかもしれない。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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