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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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180.うやむや

 ウランさんとマイアさんが帰ってから、しばらくしてレッドとリオンが戻ってきた。

 レッドは、言い過ぎたことを謝ってくれたけれど、わたしが厳しく咎めないことを逆に不満に思ったようだった。

(どうして不満げなのよ……)


 空腹で苛ついたからといって、八つ当たりするのはレッドが悪い。

 でも、レッドがお腹を空かせているのは、主人であるわたしの不甲斐なさでもある。

 わたし自身はエルフの血が入っているからか、あまりたくさん食べなくても平気だ。人間の中でも小食なほうだと思う。

 一般的に、亜人種の中でもエルフは食の細い種族で、獣人族は特定の種族を除いて、多くが大食家であるというのが定説になっている。

 要は燃費が悪いのだ。


 レッドは契約奴隷であるから、契約主の下へ派遣されると、奴隷商会からいくらかの賃金が出る。

 けれどその額は微々たるもので、食費を削りでもしない限り、蓄えはできない。

 その日、その日を生きていくだけで精一杯なのだ。


 特にレッドのような奴隷冒険者は、装備を調えるのにもお金がかかる。

 危険を冒してダンジョンに潜っても、見つかったアイテムは全て契約主の物だ。

 生き延びるためには、食事を減らしてでも自腹で装備を補填していかなければならない。

 出会ったときも、契約主に見捨てられると明日から食べていけなくなると(わめ)いていた。殴られても蹴られても、盗賊団のリーダーに“捨てないでくれ”と(すが)っていたのだ。


 わたしは、拾ったレッドを奴隷扱いするつもりはなかったから、奴隷商会からの賃金とは別に、食事代とは別に多少の給金を支払っていた。住み込みの下男のように、アトリエで寝起きすることも許可した。

(これは、まあ、アトリエに誰も住んでいないのでは不用心だから、防犯対策を兼ねる意味もあったのだけれど……)

 そこまでして、ようやくレッドは普通に一日三食を食べられるようになったのだけれど、三食きちんと食べていても、すぐにお腹が空くらしい。

 気がつくと食べられる草を探してつまんでいたり、暇ができる度に魚釣りに出かけていた。

 魚釣りはもちろん自給自足のためであり、まめまめしく干物や燻製を作っては保存食にしていた。


 つまり、多少の給金を渡したところで、満腹になるほど食べることもできなければ、お腹が空いたからといって自由に買い食いができるほどの余裕が生まれるわけでもない。

(本当に伯爵家が使用人として雇ったのなら、上手くすれば自分自身を買い戻すくらいの蓄えはできるはずなのだけれど……)

 伯爵家の使用人なら、食事に困ることもない。賄いで()ければ、好きなだけ食べられる。


 契約奴隷でも買い上げ奴隷でも、待遇の良い契約主に買われた幸運な者は、食べる物にも着る物にも困ることはない。見込みのある者は、教育を受けることもできる。

 そのように、きちんとした待遇を与えることができないのなら、本来は奴隷や使用人を持つべきではないのだ。

 甲斐性のない契約主であるわたしは、だからレッドを強く叱ることはできなかった。

(本人も反省しているみたいだし、この件はもういいかな……)


 その一方で、信賞必罰は世の習いでもある。

 使用人が無礼を働いたなら、主人として罰さなければならない。それができないのなら、主人としても貴族としても失格と見なされる。


 わたしとしては、レッドが謝ってきたから許した、というだけだった。

 特に怒っていたわけでもないので、一応の体裁も整ったからそれでいいと思ったのだけれど、当のレッドが不満そうなのが理解できない。

(怒られないんだから、喜べばいいじゃない)


 なんだか、この件は深掘りしないほうがいいような気がしたので、わたしは皆まで言わせず、レッドの口に焼きモチを一つ突っ込んだ。

 深掘りすると、わたしが怒られるか、レッドが罰を受けるか、どちらかになるまで終わらないような気がするので、これ以上レッドに余計なことを喋らせないほうがいいのだ。

(──よし、焼きモチの話題でうやむやにしてしまおう!)

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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