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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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164.言い争い

「──というわけで、シアンのことはずっと気になっていたから、会えたら嬉しいわ!」

 わたしは、ダンジョンでの出来事をかいつまんで話した。

 ダンジョンは今でも苦手だけれど、ノアさん、ジャックさん、シアンと過ごした時間は、わたしの貴重な経験であり財産でもある。

 重傷だった獣人族の二人を全快させて感謝されたことと、シアンの長耳を元通りに治してあげられたことは、今でもわたしの誇りなのだ。


 属性魔法が使えないことと治癒魔法しか使えないことで、何度も(さげす)まれてきたけれど、治癒魔法に特化していたことが、ダンジョン脱出の決め手になったことも確かだった。

 途中で出会ったベテラン戦士二人を回復させられなければ、わたしだけではダンジョン脱出は不可能だった。

 シアンが泣いて喜んでくれたことは、引け目に感じていた治癒魔法を、再び尊いものとして認識させてくれた。

 少しだけ、自分のことを肯定できるようになったのだ。


 追放同然の旅路なのに、途中で知り合いのいる村に立ち寄れるなんて、なんて幸運なのだろう──と喜びを噛みしめていたら、突然レッドがテーブルを叩いて声を(あら)げた。

「だからバカだって言ってんだよ! アリアみたいな鈍くさい女が一人で冒険者なんかやってたら、騙されるに決まってるだろ!!」

「!?」

「バカだとは思ってたけど、死にかけといて、へらへら思い出話かよ!」

 猛然(もうぜん)とレッドに怒られた。なぜだか、さっきからレッドの機嫌がものすごく悪い。


 口が悪いのはいつものことだけれど、ここまで声を荒げて怒られる覚えはない。

 今までになかったことなので、一瞬、驚いて唖然としてしまった。

 従者に叱られる主人など、またクロスに笑われてしまう。リオンにも従者の躾がなっていない(・・・・・・)、と呆れられてしまうかもしれない。

 

「レッドにそこまで言われる筋合いはないわ。わたしが馬鹿で騙されやすいのは事実だけれど、ダンジョンで死にかけたことで、何かあなたに迷惑をかけた?」

「……っ!」

 今度、息を呑むのはレッドの番だった。

「だいたい、レッドに出会う前の話よ。今のあなたには関係ないわ。他に気に入らないことがあるなら、はっきり言ってちょうだい」

「……」

 レッドは、何か言いたそうに口を動かしかけたけれど、結局、何も言わず黙り込んでしまった。

 テーブルを叩いた(こぶし)が、今も固く握り締められている。

「レッド?」

 せめて、怒っている理由をちゃんと教えて欲しい。察するのにも限界がある。


 がた、とレッドが立ち上がった。 

「オレ……ちょっと外の様子を見に行ってくる。リオンとクロスがいるから、アリアは一人でも平気だよな」

「う……うん」

「すぐ戻るから」

 うん、と返事をするしかなかった。

 レッドは理由を言わないまま、さっと部屋を出て行ってしまった。

(どこに行くんだろう?)

 

 そのレッドを追うように、リオンが席を立った。

「俺もちょっと、捕まったという亜人種狩り(盗賊)を見に行ってくるよ。クロスはここにいてくれ」

「ああ」

 相変わらず書写を続けているクロスが、短く応えた。

 顔も上げずに返事をするクロスだったけれど、慣れているのかリオンは気に止める様子もない。

 レッドと違って、リオンは静かに部屋を後にした。


 切りの良いところまで書き写し終わったのか、

「気にするな。レッドは子供(ガキ)なだけ、リオンのはレッドを追いかける口実だ」

「……」

「何だ?」

「クロスは、どうしてレッドが怒っていたか、知っているの?」

 落ち着き払っている様子から、そう感じた。


 クロスは少しの間を置いて、言葉を選ぶようにして応えた。

「宿で鑑定魔法を使ったときのことを覚えているか?」

「レッドとわたしを鑑定したときの、あれよね?」

「アリアの鑑定結果が出た後、俺が色々言っただろう」

 実はあのときのことは、あまり詳しく覚えていない。

 泣いて、泣いて、頭に血が上っていたからだろう。

「レッドが腹を立てているのは、あれと同じ原理だ。アリアが気にする必要はない」


「……わたしのせい、ってこと?」

「そうとも言えるし、そうでないとも言える」

「よくわからないわ」

「いいんじゃないか? 今すぐ理解できなくとも」

「レッドと仲違(なかたが)いしたままなのは嫌よ」

「あとは自分で考えろ。何でも人に聞こうとするな。弟子として失格だぞ」

仮初(かりそ)めの弟子だもの」

「なら、仮初めの師匠なんかに教えを請うな」

 売り言葉に買い言葉のようだけれど、これで一応、軽口なのだ。それは話していれば感覚でわかる。

 

 けれど、いくら考えてもレッドの真意はわかりそうになかった。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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