157.漫才コンビ
ダンジョン、と言われて思い出した。
リオンが庇ってくれたことに感動して、ちょっと聞き逃していた。
レッドと出会う少し前の話。
パーティーを組んだ仲間に騙されて、ダンジョンに置き去りにされたことがある。
イーリースお継母様の差し金で、最初からわたしを殺すつもりでパーティーに誘った冒険者たちだった。
あまりに間抜けで恥ずかしい話なので、誰にも言ったことはない。
そこで、二人の獣人族の戦士と、同じように捨てられたエルフの少年に出会ったのだ。
即席のパーティーを作って、四人で助け合いながら脱出を目指した。
獣人族の二人は、いかにも歴戦の戦士という強面の風貌だったけれど、彼らは人間の冒険者より、よほど紳士的で頼りになった。
エルフの少年はわたしと違って、真正のエルフだったけれど、片耳が破損していたために捨て値で売られた奴隷だった。
所有者に、魔物から逃げる際の囮に使われ、ビッグスライムの保存食にされていたのだ。
あの後、獣人族の二人が故郷の村へ連れて帰って、亜人種ばかりが住まう安全な村で暮らすことになったはずである。
奴隷市で売買された買い切りの奴隷は、所有者が死ぬか所有権を放棄すれば、契約の首輪が無効になるため自由になれる。
新しい名前は、わたしが名付けた。
「ダンジョンで虎人族と人狼族の方に助けていただいたことはありますが……」
イザークさんが言った“助けた”というのとは、少し違う。
割合で言ったら、八割以上はわたしのほうが“助けてもらった”側だ。
「それだ!」
「ビンゴ!!」
ハイタッチして喜びを分かち合うイザークさんと、キツネ族獣人の茶耳さん。
黒い獣耳をした犬族の獣人さんは、イザークという名前だということがわかったけれど、キツネ族の獣人らしき茶色の獣耳のおじさんは、未だに名前がわからない。なので、心の中で茶耳さんと呼んでいる。
「いやあ、長かった……! 苦節することン十年。変質者呼ばわりされ、平手を食らったことも数知れず……」
茶耳おじさんが、おどけて泣き真似をしながら切々と苦労を訴え始めた。
そこへイザークさんが、裏拳で茶耳さんを叩いて突っ込んだ。
「まだそんなに経ってないだろっ」
「そうだっけか?」
「もうボケたのか、おっさん」
「おっさん言うなや!」
今度は、茶耳さんがイザークさんを大きな仕草でどつき返した。
イザークさんが、それに合わせて大袈裟によろける。
「……」
「……」
「……」
わたしたちは、無言で門番コンビの寸劇を見つめた。──いえ、レッドだけが引きつった笑みを浮かべている。
(これ、いつまで続くんだろう?)
そう思っていると、空気を読まずにクロスが言った。
「もう行っていいか?」
「あ、すまん」
茶耳さんが我に返った。
「茶番は余所でやってくれ」
クロスが容赦なく追い打ちをかけた。
「このノリは宴会用でな、」
「どうでもいい」
「門番っつっても、しょっちゅう旅人が訪れるわけでもねえから、暇なときにこうやって余興の練習をしているわけで。ちっとくらい感想を聞かせてくれてもいいじゃねえかー」
茶耳さんも強かった。クロスの冷淡な遇いを物ともせず、マイペースに続けた。
(クロスこういう素人芸、嫌いそうだものね……)
わたしは、ぼんやりと二人のやり取りを眺めていた。
「興味がないと言った」
クロスの魔力がピリッと刺々しい感じに動いて、苛立っているのがわかった。
たぶん、早く天幕の設営を済ませて、写本の続きをやりたいのだろう。
「貴族にはこういうノリのおっちゃん、いねえだろ?」
レッドが傍に寄り添って、こそっと耳打ちしてきた。
わたしは“うん”とうなずいた。
ギルドの酒場には、馬鹿騒ぎしている大人も多かったけれど、こういう芸風の人はいなかったと思う。
強いて言うなら、寄宿学校の男子生徒の中に、近いノリで騒いでいた子らがいたような気もする。
こっそり耳打ちしたのに、イザークさんが「自分はおっさんではない! ひとまとめにするな!」と吠えた。
さすが獣人だけあって耳聡い。
「でもコンビなんだろ?」
「くじ引きで決まっただけだ!」
「ごめんな、面白いけど俺たち早く野営の準備したいから、これで失礼するよ」
レッドとイザークの気さくな(?)やり取りを経て、リオンがクロスを宥めつつ、すみやかに立ち去ろうとする。
「(クロス、こんなところでケンカ吹っ掛けようとするなよ)」
「(そんなつもりはない。事実を言っただけだ)」
「(だから、そういうとこだよ!)」
ひそひそと交わされる言葉に、わたしは少しだけリオンに同情した。
(リオンも苦労が絶えないわね)
人当たりの好い剣士と、空気を読まない魔法使い。こちらもなかなか、いいコンビのようだった。
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