154.君の名は②剣に誓うということ
剣士や戦士が剣に懸けて誓う行為は、ただの約束事よりも重い。
戦う者は、己が命を預けるその武器に。戦士以外は、自分や家族の名前や名誉、家名などに誓いを立てることが多い。
けれど、そのどちらにも魔法によるペナルティーや強制力はない。大樹の記憶さえ、関与していないのだ。
口約束でありながら、契約魔法と同等の重さを持ち、魔法使い以外の者にとっては馴染み深く、それでいて最大の誠意を示す方法になる。
つまり、リオンは優しいのだ。
親切、誠実、善良、紳士的──呼び方は色々あるけれど、基本的に“いい人”なのである。
今もこうして、旅の途中で知り合っただけのわたしとレッドを、仲間として正当に扱い、庇護下に置いてくれている。
こんな面倒くさい局面、普通なら横から代わりに答えて終わらせる。
もしくは“減るものでもなし、名前くらい教えてやれ”と、わたしに無言の圧をかけるだろう。
デリカシーのない冒険者なら、そうする。
意地悪や嫌がらせのつもりはなくても、もともと冒険者というのは、あまり細かいことに配慮する習慣がない。他人の心中を察して慮ったり、空気を読んだりする文化がないのだ。
それでも気心の知れた仲間内では、事前に情報共有されているから、特に問題が起きることはない。
もしも、リオンが他の冒険者と同じ──陽気なだけの冒険者だったなら、わたしはこの場で名前と、治癒魔法が得意な回復役であることを、悪気なく暴露されていただろう。
わたしから、前もって名乗りたくない事情を伝えておかなかった以上、代わりにリオンが答えてしまったとしても、仕方がないのだ。
追っ手持ちだということは理解していても、名乗ることでリスクがあるのかどうか、その辺りは相談していない限り見解を統一することは難しい。
仲間として認めていればこそ、役割と名前で紹介してくれるのだと思えば、文句も言えなくなる。
本来なら、ハーフエルフの女が男性冒険者に連れられていれば、ほぼ愛玩用の奴隷と思われる。
リオンはその誤解を避けるためか、わたしのことを“身分ある者”として紹介してくれた。
亜人種だけれど、奴隷ではないと言ったのだ。
もちろん、勝手に名前も明かさない。
その配慮には、ちょっと感動した。
戦闘職の男性冒険者にはガサツな者が多いため、ほんの少し気遣いができたり、品位を保っているだけで、非常に女性にモテたりする。リオンはその典型だ。
きっとリオンのパーティーでなかったら、適当に“うちの子猫ちゃん”とか“愛玩用”という紹介で流されただろう。
そのほうが通りもいい。
獣人族の門番さんだって、集落の外での亜人種の扱われ方がどういうものか、理解しているはずだから、いちいち獣人族の心象を気にする必要はない。
獣人族側としても、旅の冒険者が亜人種奴隷を連れていたところで、酷く虐待されているとか、不当に扱われているとかの正当な理由がない限り、口出しはできない。
構成だけ見れば、よくある冒険者のパーティーでしかない。
珍しくないということは、他人の記憶に残らないということでもある。
ほんの一晩、外の野営広場を使わせてもらうだけなのだ。お互いに面倒を避けようと思ったら、わたしを愛玩奴隷と言っておけば済む。
(愛玩用で通すには体型が貧相過ぎて無理がある……という事実はこの際置いといて)
わたしだけが、不当な扱いを受けることを我慢すれば、それで済む。
なのに、リオンはわざわざ正論を展開した。
王都の門兵でもあるまいし、一方的に追求する権利はないはずだ。
集落の中に入るわけでもない。慣習に則って、広場を使わせてもらう対価も払った。
こちらに尋問されるような非はない。
この場は、獣人族側が折れるのが筋だろう。
──などと、堂々言ってのけたのだ。
正確に言うと、一方的な誰何や尋問の権利を持っているのは、ウェスターランドの国土内では、王国の正規兵や法務官だけらしい。
王都の通用門で今と同じように問いかけられたなら、無視することは許されない──場合によっては罪に問われることもある──けれども、それ以外の場所では、はぐらかしても法的には問題ないらしい。
(知らなかった……)
王都から離れた町や田舎の村落では、警備に携わる者でも知らないだろう。
もっとも、法的に問題がないかどうかと、論破して逃れられるかどうかは別問題である。
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