152.獣人族の集落
集落の周辺は慌ただしかった。
どこの村も、周囲を柵や塀を作って魔物からの襲撃に備えている。入り口には門番がいて、出入りする者を見張っている。
そして夜には魔物や盗賊が外から侵入しないよう、門を閉ざすのだ。
平原の小さな集落でも、それは基本的に同じだろうと思われた。
が、今までに見た村と違って、平原の集落の外には野営地のような広場があった。
馬を繋ぐための杭があり、天幕を張った跡がある。馬車が出入りしたと思われる轍も残っていた。
(どう見ても野営地に見えるのだけれど……)
外に野営する設備があるということは、集落の中に宿屋がないのかもしれない。
そんなことを考えていると、慌ただしさの原因と思われる人集りの中から、怒鳴り声が聞こえた。
集落の入り口を中心とすると、向かって左側に野営広場があり、右側には特に広場や建物はないのだけれど、そこに殺気立った物々しい人々が集まっている。
(何……?)
わたしたちは馬を降りて、門番さんのところへ近づいた。
二人の門番は、獣耳をした獣人族だった。
ピンと立った黒い獣耳にフサフサした尻尾の、犬族と思われるお兄さんと、金色に近い茶色の獣耳をしたおじさんだった。尻尾が犬族の人より太くてボリュームがあり、獣耳の形も少し違うので、茶色の人はキツネ族なのかもしれなかった。
こちらのパーティー構成を見た二人は、なぜか苦々しい表情をした。
「何かあったのかい?」
構わずリオンが問い掛けると、茶色い獣耳のおじさんが答えた。
「うちの集落のもんが、亜人種狩りの盗賊を捕まえてな、」
それにリオンが相槌を打って、詳しく聞き出す。
「こんな王都に近い場所で……?亜人種狩りは、もっと帝国寄りの領土で行われていたんじゃないのかい?」
「最近はこの平原でもよく見かけるよ。ヒト族に捕まるほど鈍間な獣人族はここらにゃいねえが、最近じゃあ辺境方面にもよく出るってな」
「……」
珍しくリオンが口ごもってしまった。
「悪いが旅の人、あんたらは亜人種狩りとは無関係かもしれないが……」
黒耳のお兄さんが前に出る。
「ヒト族は集落の中には入れられない。野営するのは構わないが、外でやってくれ」
お兄さんは、持っていた槍を通せん坊するように構え、わたしたちが集落の中に入ることをはっきりと拒否した。
「ああ、わかってる。慣習は理解しているよ」
代表で交渉しているリオンは、それを甘受しながら、獲れ立てのツノウサギを取り出した。
「これは野営場所を借りる対価だ」
リオンが差し出したツノウサギとキバウサギを、黒耳さんが受け取り──受け取っておきながら言った。
「これはありがたく受け取っておく。だが、ヒト族は駄目だ。行商の商隊も全部、外で野営してもらっている。村の掟だから理解してくれ」
黒耳さんの槍の先が、野営広場を指し示した。
茶耳さんも言う。
「掟もあるが、亜人種狩りのせいで今は村人も神経質になってる。ヒト族があんまり迂闊な行動はするなよ。何かあっても責任は取れねえ」
「忠告ありがとう。気をつけるよ」
やはりわたしたちは集落の中には入れないらしい。
ちょっと村の中を見てみたかったけれど、村の掟だというなら仕方がない。
王都にも亜人種お断りの宿や店がたくさんあるのだ。その逆があっても不思議はない。
(……ということは、ここは獣人族が主体の集落なのかしら)
騒がしい人集りの中にも、獣人族がたくさんいる。
黒耳さんと茶耳さんも、門番をやらされている奴隷というわけではなさそうだから、普通にこの村の住人なのだろう。
野宿も露営も今さらなので、異議を唱えることはしなかったけれど、余計に村の様子に興味が湧いてしまった。
(レッドやレッドのご両親も、こんな感じの村で暮らしていたのかな……?)
そして、亜人種狩りに遭って捕まってしまったのかもしれない。
この野営広場には、しっかりとした魔物避けの結界が張ってある。対価として支払われたウサギ型魔獣は、宿代というより安全な野営場所を提供してもらうためのものなのだろう。
ここが獣人族の集落ならば、人間を警戒して村の中に入れたがらないのも理解できる。
わたしたちが広場のほうへ移動しようとしたとき、
「あ、ちょっと待った」
茶耳のおじさんに呼び止められた。
「そっちのハーフエルフのお嬢ちゃん、名前は?」
(わ、わたし?)
前髪はピンで上げたままだから、虹彩異色のハーフエルフに間違われるのも当然だけれど……名前を聞かれる意味が分からない。
「族長の命令で人を探している」
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