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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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151.エルフになりたい

 やがて、狩りに出ていたリオンとレッドが帰ってきた。 

「おかえりなさい!」

 わたしは本を閉じて立ち上がったけれど、クロスは一心不乱に魔法薬学大全の第一巻を書き写している。

「クロスは何をやっているの?」

 リオンの疑問にわたしが答える。

「魔法薬学の本を書写(うつ)しているわ。わたしが持っていた古本、貴重な資料なんですって」

「クロスらしいや」

「で、わたしは代わりにクロスに貸してもらった、アレスニーアの現代魔法基礎の教科書を読んでいるところよ」


 二人とも狩りの成果は十分だったようで、三匹のツノウサギと、一匹のキバウサギを狩ることができたそうだ。今はリオンの魔法鞄(マジックバッグ)に入っているらしい。

「クロス! いい加減にしろよ、出発するぞ!」

 リオンがいつまでも本を手放さないクロスを呼び、移動の準備をする。

 その間にわたしは、レッドに狩りの様子を聞かせてもらっていた。

 レッドが探して追い立て、リオンが仕留めるという連係プレーをしていたのだという。

「キバウサギはオレが見つけたんだぜ!」

 と、レッドは手柄を立てて嬉しそうだ。

 二人とも、危険な魔物と遭遇することもなく、無事に戻って来てくれてよかった。

 そんな気持ちを込めて、冗談めかして言う。

「優秀な従者を持って、わたしも幸せだわ」


 半分は冗談だけれど、もう半分は完全に冗談というわけでもない。

 わたしの人生における素晴らしい出会いの一つであり、何にも()(がた)い存在なのは確かだ。

 レッドを拾ったのは偶然だけれど、何も持たないわたしにとっては、幸運だったとしか言いようがない(痛い思いをしたレッドには不幸な出来事だったかもしれないけれど)。

 この先、辺境にたどり着いた後にどう行動することになるか、今はまだわからない。

 お祖父様に会って話してみないことには、どう転ぶかわからないのだ。


 けれど、一つだけ言えることがある。

 たとえお祖父様のもとで貴族として暮らすことになったとしても、わたしは侍女を持たないだろう。身近にメイドを置くこともしないだろう。

 レッドが従僕として仕えてくれたら、それだけで十分だ。

 自分のことは自分でできるから、身の回りの世話を焼く人間は必要ない。それが貴族令嬢として異端だというのなら、わたしは貴族でいたいとは思わない。


(でも、奴隷身分から解放されたら、)

 自由市民となったレッドは、冒険者になってどこかへ旅立ってしまうだろう。

(だからわたしは──……)


 どうせなら、本物のエルフになりたかった。


 * * *


  クロスを本から引き離し、再び移動を続ける。

 相変わらずの相乗りで、以後はずっと、わたしが魔法薬学大全の内容を(しゃべ)るか、クロスが現代魔法基礎講義をするという状態だったから、あっという間に時間が過ぎて、目的の集落に到着した。


 有名魔法学園の客員教授に、一対一で講義をしてもらえるとは、とても贅沢な時間だった。

 というか、わたしが魔法薬学大全の内容を喋っている限り、クロスは全十二巻の内容を書き写して写本を作ろうとする計画を忘れてくれる。

 いずれ結局は、なんとしてでも全十二巻を書き写すだろうけれど、旅の間は控えてくれることだろう。


 わたしとしては、旅が終わってクロスがアレスニーアに帰るときに、本を貸したままにしておいても構わないと思っている。

 そう頻繁に読み直すものではないし、内容は全て覚えている。

 便利な魔法薬がたくさん載っていたけれど、どれもギルドの買い取り対象外だから、はっきり言って収入にはつながらない。しばらくの間、手元になくても問題はないのだ。

(でも、売る気はないけどね)

 数少ないわたしの持ち物であり、本の内容には何度となく助けられた。

 希少本か否かにかかわらず、愛着はあるのだ。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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