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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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149.二日酔いと魔力酔いと薬草②

 ひとしきり吐き終わったクロスが、口元を拭いながら身を起こし、再びよろよろと自分の馬の側へと戻った。

「心配かけたな。……もう大丈夫だ」

 水袋の水を飲んだり自身に浄化魔法を掛けたりし、その流れでつい(・・)とこちらへ手を差し出した。


「何?」

「薬草。あるんだろ?」

「あっ、はい」

 わたしはポーチから薬草が入った袋を取り出したけれど、よく考えたらここには湯を沸かす用意がない。

 この薬草は、お茶にして飲むのが最も手軽な方法で、よく知られた使い方なのだ。

 けれど、野営するときのようにかまど(・・・)を組んでいないから、鍋で湯を沸かすこともできないし、リオンのように携帯用の焚き火台も持っていない。


「どうした?」

「お茶にするには、お湯を沸かさないとならないけど……」

「ここで火を(おこ)すのは、やめておいたほうがいいな。別働隊がいないとも限らない」

 まあ、それもそうなのだけれども……。

 体調の悪いクロスに、一瞬で湯を用意する混合魔法を使って欲しいとも言い出しにくい。

「そうね、ちょっと待ってて。水薬(ポーション)状に加工するわ」


 お茶として淹れることができないなら、薬として加工してしまえばいいのだ。

 わたしは荷物の中から調合のための道具を一式、取り出した。

 作業台はないので地面に敷いたピクニックシートの上に並べ、カップに飲み水を入れて浄化魔法をかける。

(これで基剤になる水はOK。次は……)

 すぐに使うのだから、保存に関する材料と工程は省略してもいいだろう。

 薬草を用意し、別の容器に入れて蓋をする。

 ここからが腕の見せ所──と言いたいところだけれど、単一素材で(シングル)の調合だから、初心者でもできる簡単な作業だ。

 後は別の材料──ある種の木の根を削ったものを少々、用意する。

 

 地面に敷いたピクニックシートの上に座り込み、その上に並べたコップや小皿、ボウルやおろし金などの調理器具を使ってあれこれしている少女という図は、知らない人間が見たらおままごと(・・・・・)で遊んでいるようにしか見えないだろう。

 実際、そう思われても仕方がない。


 薬師が使うような専門の道具は、高くて買えなかったから、全て料理用の器具と食器でまかなっている。

(完全な魔法薬だと、もっと簡単にできるのだけれど……)

  残念ながら“水薬状に加工された薬草茶”というのは、魔法薬ではないから、普通の回復薬(ポーション)を作るよりは作業工程が多い。

(“魔法薬ではない”というより“濃縮された薬草茶のエキス”ってところよね)


 初級の魔法薬──たとえば体力回復薬(フィジカルポーション)──は、駆け出し魔法使いが仲間内で消費する前提のため、専用の道具や複雑な工程が必要ないレシピとなっている。

 道具が必要な工程は魔法で補い、基本的には魔力と材料さえあれば作れるようになっているのだ。

 わたしはその手法を、魔法薬以外にも応用している。


 魔法使いが作る薬、錬金術師が作る薬、薬師が作る薬は、全て調合内容や製法が異なる。必要となる魔力量や魔法の熟練度も異なり、同じアイテムでも全く違う工程を経て作られる。

 それらの製法が細分化されたのは近年のことで、百年以上昔は区分が曖昧だったため、名称も統一されていなかったらしい。

 もっと昔になると、器具を使わず魔法だけで生成する“魔法薬”が主流であり、唯一だったようなのだ。


 乱暴な言い方をすると“魔女の大鍋”や“錬金釜”などの道具を使ったレシピは、近年に発達した錬金術寄りの製法であり、材料を並べて杖を一振りすればできあがるのが、古くからある魔法薬──ということになる。


 魔法薬に関する知識は、年月を経て錬金術が発展するにつれて失われてしまったものが多く、今では古代語で書かれた古い書物の中にしか残っていない。

 解読された一部の知識は、現代の魔法薬学に組み込まれているけれど、それ以外は古書店や図書館、古道具屋の片隅でホコリを被っている。

(だって、誰も読めないから)


 解読し、読みこなせる(クロスのような)人材がいたとしても、優先して発掘されてゆくのは属性魔法に関する書物であり、それ以外は二の次にされてしまう。

 魔法薬学に関しても、現状で間に合っていることと、新しい製品の開発に重きが置かれるため、やはり発掘は後回しにされてしまう。

 

 結局、誰にも読まれない古代語の本は、どこの店でも持て余され、売り場の片隅に積み上げられたまま忘れられてゆく。

 わたしは、それらを格安で譲ってもらって、日々の娯楽代わりに(たしな)んでいた。

(だって、右目の恩寵(・・・・・)で苦もなく読めるし)

 とにかく、安かったのだ。

 ものによっては、焚き付け用の薪より安い。

 店主には不審がられたかもしれないけれど、その度に適当な言い訳をして誤魔化した。

(お宝が混じっていると誤解されて、値を吊り上げられたらたまらないもの!)

 

 中でも一番、都合が良かった言い逃れが“祖父の蔵書を探している”というものだった。

 家が破産して家財の大半を失った。

 その中に、亡くなった祖父が大切にしていた蔵書が含まれていた。

 家具と一緒に間違って売り払われてしまった。

 祖母が本だけでも取り戻したいと言っているから探している。

 そういう設定である。

 たくさんの蔵書を有していた家──そこそこ裕福な家柄だったけれど没落したのだと思われれば、平民のように見える安っぽい身なりの娘が難しい文字を読めることや、希少本を探しているように見えることを、追求されることはない。

 仮に不審に思ったとしても、没落貴族かもしれない客の事情を、不躾に詮索することなどできはしない。


 最初は、魔法書の代わりになるものを探していて、投げ売りされている古い本に行き当たった。

 魔法の勉強をしたくても、魔法書は高価で買えなかったし、ギルドで貸し出しされている本も、ほとんど全部読み尽くしてしまった。

 それでも諦めきれずに魔法学の参考になるものを探していたのだけれど、見つけた古書の中に、古代語で書かれた魔法薬学の本が混じっていたのだ。

 だからわたしは、錬金術が発達する前の魔法薬を作れる。

 ギルドでの買い取り対象外のため、納品用のアイテムにはならないけれど、普段使いするには十分だった。

 

 (いにしえ)の魔法薬を作れる技量があれば、薬草茶を水薬(ポーション)に加工する程度のことは容易(たやす)い。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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