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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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137.追っ手

「じゃあ、町に着いたらアルトには手紙を書こう」

 リオンが言った。

「アリアちゃんが、俺たちと一緒にいて元気にしていると知れば、アルトも無茶はしないだろう」

「ありがとう、リオン」

「アリアちゃんも一筆書いて同封するんだよ。そのほうが信憑性が出るだろう?」

「そうね。でも、お兄様はわたしの筆跡を知らないと思うわ。署名を入れても、信じてもらえるかどうか……」

 アルトお兄様と手紙のやり取りをしたことは、一度もない。


 他にも心配事はある。

 わたしは、貴族の女性なら誰でも持っているような名前入りの便箋や、オリジナルの蝋封セットなどを持っていない。

 手紙を出す相手などいなかったから、必要と感じたこともなかった。

(貴族令嬢ではないという証明みたいなものよね……)

 あるのは、()り切れたメモ帳と安っぽい鉄ペンだけだ。もう少し上等のノート類は、魔法薬の調合レシピを書くのに使ってしまった。

 寄宿学校時代の教科書やノートは、宿舎から持ち出すことができなかった。たぶん今ごろゴミとして処分されているだろう。


 などと思っていたら、クロスが急にリオンに呼びかけた。

「リオン、追っ手に感づかれた。真っ直ぐにこちらに向かってきている」

 驚いてまじまじとクロスのほうを見ると、後ろのレッドも神妙な顔をしてうなずいている。

「複数の気配が、すげえスピードで近付いてやがる」

(ど……どうしよう。どうしたら……)


 そうこうしている間に、リオンとクロスの間で勝手に話が進む。

「やはり魔獣(ワタリ)との交戦で魔力を使ったのが(まず)かったな。感知される可能性は考慮していたが、予想よりかなり早い」

「遮蔽物も何もない平原(ここ)では逃げも隠れもできないだろう」

 それとも、今から隠蔽魔法の強度を上げれば逃げ切れるか? とリオン。

「無理だな。向こうにも、かなりの魔法の使い手がいる。(あなど)らないほうがいい。それに逃げ切れたところで、どうせそのうち近くの集落で鉢合わせるぞ」

「そうだな。殲滅(せんめつ)しよう」


 急遽、馬を乗り換えることになった。

「レッド、俺の代わりにアリアちゃんと乗ってくれ。ヤバそうだったらそのまま逃げろ」

 リオンが言って馬を降りる。

 がら空きになった背後へ、クロスの馬から飛び降りたレッドが、軽々と飛び乗った。

「リョーカイ」

「ちょっ……レッド!? あなた乗馬スキルなかったでしょう!?」

「今日リオンを見て覚えた。走って逃げるくらいならできる」

「えええーっ」

 乗馬ってそんなに簡単に覚えられるものなの!?


「アリアちゃん、アキヅキは賢いからレッドでも大丈夫だよ」

 アキヅキというのは、リオンの馬の名前だ。

「そ……それは確かにアキちゃんはいい子だけれど……」

 茶色──栗毛というらしい──で、町でよく見かける馬より一回り大きい。

 少なくとも、あの馬車を引いていた馬たちよりは大柄で毛艶がいい。

 クロスの馬は、白地に黒い(ブチ)の入った入った子で、名前をセイランというらしい。

 どちらも異国原産の、かなり上等な馬だそうだ。

 二人乗りしても大丈夫なくらい大きくて強そうだったから、わたしも安心して乗せてもらっていたのだ。


 いつでも走り出せるようにレッドが体勢を整え、落ち着いたので視線を上げると、見えた──見えてしまった。 

 今まではずっと前髪を下ろしていたから、ふいに右目の恩寵が発揮されても(あわ)てるようなことは何もなかったけれど、今は前髪を上げているからはっきり見えてしまった。


「六人、来るわ」

「アリアちゃん、見えるのか?」

 リオンが、セイランのほうに乗り換えながら言った。

「どこだ?」

 いったん、馬を降りていたクロスが問う。

 わたしは前方、馬の鼻先の彼方を指差した。

「六人とも、濃い緑色のマントを着ているわ」

「よしわかった。方向と人数がわかっているなら話は早い。一発、デカいのかまして一層しよう」

 セイランにリオンと二人乗りするつもりだったらしいクロスは、瞬時にアキヅキの前方に位置取ると、魔法陣を展開させた。


 リオンは何も言わない。当然のことのように泰然(たいぜん)と構えている。

 物語の挿絵でしか見たことがないけれど、大魔法を放とうとしている魔法使いと、彼ら魔法師団にそれを命じる指揮官のような雰囲気だった。

 魔法使いは師団ではなく、クロス一人きりだったけれど。


(それでも、確実に普通の魔法使い数人分はあるわね……)


 空中に展開された青白く輝く魔法陣は、土魔法と風魔法の混合魔法だ。二重展開(ダブルキャスト)でもなく、混合魔法だ。

 二種類の別々の魔法を同時に放つ二重展開と、二つを混ぜて別の魔法を構築してから放つというのは、また別の次元の技術になる。

 はっきり言って、二重展開よりもはるかに高度だ。


 しかも、規模が尋常ではない。魔法陣の直径が通常の三倍はある。

(実戦での魔法は数回しか見たことがないけれど……)

 討伐依頼には数えるほどしか同行したことがない上、それも初級のものばかりだったから、比較対象に困るのだけれど、おそらくゴブリンの巣くらいだったら、根こそぎ吹っ飛ばせるくらいの威力はありそうだった。 


「圧縮詠唱、地と風の一から四を展開」

 短縮詠唱でも無詠唱でもない。

 詠唱破棄の手続きを取ったわけでもない。

 知らない魔法展開の仕方だった。


「えっ、そんなのあり……!?」

 さらには、攻撃力を上げるバフを魔法に対して重ね掛けした。

(あれって人体にしか掛からないんじゃなかったの!?)

 武器に対してならまだしも、魔法自体にバフを掛けるというのは、見たことも聞いたこともない。


「バフは単純だから、術式をちょっと改変してやれば、何にでも掛けられる」

 クロスはさらりと言ってのけた。

(ちょっと改変って……)

 普通の魔法使いは、そんなふうに簡単に魔法を改変しない……はず。

 わたしも魔法使いの常識をよく知らないから、確かなことは言えないけれど、たぶん、そう。


 放たれた魔法が地を削り、大地の土塊(つちくれ)を巻き上げ、刃のような烈風と共に真っ直ぐに伸びた。

(なんて、えげつない……)

 それしか感想が思い浮かばなかった。

 混合された土魔法の部分に、(えぐ)れた土の塊を岩石のごとく鋭く硬化させる術式が含まれていた。

 敵は(とが)った石の散弾を浴びせられることになる。

 その上、飛び散る岩石の破片は、風魔法によって射速を上げられている。

 風の刃で切り刻まれると同時に、強力な石の礫を浴びせられ、防ごうにも二種類の属性魔法が混合されているから、普通の魔法使いでは風か土の一方の攻撃しか防ぐことができない。

(これが天才の技量……)

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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