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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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113.伯爵令嬢と床磨き

「わたしが生活魔法が得意なのは──というより、回復魔法と生活魔法しか使えないのだけれど──メイドとして働いていた経験があるからよ」


 最初の生活魔法は、同情してくれた乳母とメイド長から教わった。

 けれど、わたしを使用人として内緒で面倒を見ていたことがバレて、クビになった。

 それまでも徐々に、馴染みのメイドがイーリースお継母(かあ)様の息の掛かった者たちと入れ替えられていたけれど、古参のメイド長がいなくなってからは早かった。

 周りのメイドは、わたしを(いじ)めても()き使ってもいいと思っている敵だけになったし、シャーリーンはそれを助長するように邪魔や嫌がらせを続けた。

 メイドたちに、嫌がらせをするよう指示していたのだ。

 

 でも、わたしが一番嫌いだったのは、シャーリーンではなかった。

 使用人たちが、現伯爵令嬢であるシャーリーンの命令に逆らえないのは仕方がない。

 ぶつかった振りをして階段掃除中に突き落とされても、水桶の汚水をぶっ掛けられても、仕方がないと思っていた。

 

 シャーリーンのことも、血の(つな)がらない姉を嫌うのは仕方がないことだと思ったし、母親(イーリース)真似(まね)てわたしに嫌がらせをするのも、仕方がないことだと思っていた。

 

 掃除したばかりの床にぶちまけられた汚水を、()いつくばって拭き取って、元通りピカピカに磨かされるところまでがワンセットだった。

 その上、仕事が遅いから食事抜き、だなんてこともよくあった。

 生活魔法を駆使して早く終わらせれば、手抜きをしただろうと言って()たれた。

 

 年長のメイドから平手打ちされることもあれば、モップの柄で寄って(たか)って殴られたこともあった。

 クビになる前の乳母とメイド長が、簡単な治癒魔法や浄化魔法などを一通り教えてくれていなければ、早々に詰んでいた。

 乳母もメイド長も、自分たちがいなくなった後にどうなるか、的確に予想していたのだ。


 わたしが嫌いだったのは、シャーリーンの命令を唯々諾々と聞き入れておきながら、わたしへの嫌がらせを「ごめんね」と言い申し訳なさそうな顔をしながら実行する、若いメイドたちだった。

(謝るくらいなら、やらなければいいのに)

 表裏のある優柔不断さや日和見の態度が、とても不愉快だったことを覚えている。

 嬉々として、わたしに手を上げていた新しいメイド長のほうが、よほどマシに思えた。


 新しいメイド長は、自分の()()らしのためにわたしを叩いた。

 本人がそれを自覚していたかどうかは別として、自分の欲に忠実だったという意味では、正直者と言える。

 けれど若いメイドたちは、命令されたから仕方なく嫌がらせを実行しているのであって、自分たちの意思ではない、自分たちは悪くない、という態度を最後まで崩さなかった。

 加害者にも傍観者にもなろうとしない、卑怯な日和見主義者だと──当時は思っていた。

 

(だからわたしはメイドが嫌いなのよ)

 この先も──仮にこの先、令嬢の身分を取り戻せる日が来たとしても──従者(レッド)がいれば、それでいい。

(普通の令嬢と違って、身の回りのことは自分でできるもの)


「本当は、右目さえ紅玉(こんな)色でなければ、余所でメイドとして働けたかもしれないし、平民として飲食店で働けたかもしれないのだけれど」

 わたしはクロスにもらったヘアピンで、右側の前髪を留めた。買い出しに行ったときに、前髪が鬱陶しいから何とかしろ、と強引に買い与えられたものだった。

 宿にいる間は他人の目が気になったから、前髪で虹彩異色(オッドアイ)を隠したままでいたけれど、平原に出てしまえばわたしたちだけだ。

 使わないでいると、それはそれでまた何か言われそうだったから、これを機会に身につけてみた。


「お、アリア、それ買ってもらったのか?」

 目敏(めざと)くレッドが気づいて言った。

「うん。少しだけ防御補正があるのよ」

「いいんじゃないか? 似合ってるぞ」

「わたしにお世辞を言ったところで、何も出ないわよ」

「世辞じゃねえよ」

「むしろ、これを買ってくれたクロスのほうを、センスがいいとか気前がいいとか言って誉めたほうが、餅菓の一つでも買って貰えるかもしれないわよ?」


「オレは金を払っただけだ。センスは関係ない。選んだのはアリアだ」

 クロスがぼそっと、事実だけを言った。

「平原の集落には餅菓の屋台はない。真面目に魔法の授業を受けるなら、褒美に何か買ってやらないこともないが、別の菓子になるだろうな。それか、夕飯に肉料理を一品増やすか、だ」


 クロスの言葉に、レッドが真剣に悩み始める。

「肉かあ……。肉も捨てがたいが、そろそろ魚が食いたいんだよなあ……」

「辺りをよく見ろ。水場はまだまだ先だ。立ち寄った集落で手に入っても、干物がいいところだ」

 確かに、平原には大河が通っているはずだけれど、わたしの右目を(もっ)てしても、全く見えない。青々しい草原ばかりが広がっている。水辺までは非常に距離があるのだろう。

「オレ、干物大好き!」


 ──と、まあこんな感じで、平原での午後は平和に過ぎていったのだった。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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