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【不遇令嬢はエルフになりたい】〜介護要員として辺境の祖父の屋敷で働くよう命じられたが、ざまぁする間もなく実家が没落した件〜  作者: 一富士 眞冬
第2章

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112.改めて身の上話をする

 伯爵家から追い出されたわたしと、侯爵家の養子であるクロスと、没落した公爵家の末裔であるリオン。それから、わたしのたった一人の従者であるレッド。


 わたしたち四人は、さらに北西を目指して進むことにした。

 街道は王都から南の辺境方面に向かって伸びている。

 街道沿いの村に逗留していたわたしたちは、そこから直ぐに街道を逸れて平原に入った。

 魔法学術研究都市アレスニーアは、王都から西に向かった場所にあるから、北西に向かうことになるのだけれど、一日でたどり着ける距離ではないため、真っ直ぐに最短距離を行けるわけではない。

 平原に点在しているらしい、在野の民の集落を何か所か経由して、一週間ほどかけて進むことになる。


 聞いた話によると、アレスニーアは魔法の研究も盛んだけれど、月明かりが映える美しい都市だという。

 魔法結界が城壁の代わりをしていて、他の都市と違って高い塀で囲われていない、開放的な都市構造をしているそうだ。


 昔調べた魔法学術研究都市のパンフレットには、そう書いてあった。

 七つの研究塔が立っていて、魔法使いが貴族や政治家と同程度の発言権を持っている、変わった地域らしい。


 逆に言うと、魔力が少ない者や、魔法が苦手な者には暮らしにくい場所のようだ。

 都市の設備の色々なものが魔道具を用いた作りになっていて、自前の魔力か、動力源になる魔石を持っていないと、不便なことになるという。

 ローランド寄宿学校にいたころに知って、調べて、一時期はとても(あこが)れた場所だった。


 けれど、学費がない。親の許しも貰えそうにない。魔力はあっても、属性魔法が使えない。わたしの容姿は亜人種(ハーフエルフ)にしか見えない。

 そんな状態では、どこへも行かれるはずがなかったから、早々に諦めた。

 クロスには、特待生として編入できると熱心に勧誘されたけれど、今さら、何年も前に殺した(あきらめた)想いを再燃させられても、迷惑なだけだった。

 魔法学園は、今のわたしには無用のものだ。

 クロスはわたしを自分の師匠に紹介したいらしいのだけれど、わたしは会うつもりはない。リオンもそのほうがいいと言っていたし、アレスでは冒険者探しに集中するつもりだった。


 *

 

 移動しながら、簡単に身の上を話した。

 出発したときと同じく、馬上はわたしがクロスの前、レッドがリオンの後ろという組み合わせの二人乗りだ。

 クロスと密着しての二人乗りも、もう慣れた。

 貴族令嬢としては問題かもしれないけれど、平民の女の子としては許容範囲内だろう。たぶん。

 

「わたしは幼い頃に大病を患って、その後遺症で虹彩異色(オッドアイ)になったの。以来、亜人種(ハーフエルフ)として扱われてきたわ。ヴェルメイリオの家に居場所はなかった。──肩身が狭いとかそういう意味ではなく、最初から存在しない者として扱われたの」

 貴族の血族──それも伯爵家に、亜人種が存在することなど、あってはならない(・・・・・・・・)ことだから、なかったこと(・・・・・・)にされたのだ。

 

「──存在しない者として扱われるということが、どういうことか、わかる?」


「無視される、とか?」

 リオンが可愛らしい返答をしてくれたので、つい笑ってしまった。

「笑ってごめんなさい、あまりに可愛らしい答えだったから」

 リオンには、無視以上の虐待や嫌がらせが想像できないのだろう。

 男の子の世界では、子供の頃に受ける(いじ)めの(たぐい)は、殴る蹴るなどの身体的な暴力が主だろうし、嫌がらせや陰口ももっと露骨なもののはずだ。

 存在を否定される=無視くらいしか、思いつかなかったに違いない。


「存在しない者には、何も与えられないのよ。食事も衣服も、寝る場所も。……だって、いない(・・・)のだから」

 理解できないような顔をするリオンに、わたしは言った。

「空気や幽霊には、食事を与えないでしょう?」

 レッドが「奴隷だって、働かせるために最低限の衣食住は世話されるぞ」と合いの手を入れた。

 

「だからわたしは、ヴェルメイリオ邸の広大な敷地の中で、孤児のように物乞いをして、メイドと一緒になって食い扶持を稼いで生き延びたわ。最初のうちは、まだ同情的なメイドもいたから、仕事を教えてもらって、下働きの一人に成り済ますことができたわ」

 平民の世界では、十歳にもならない子供のころから働くことなど珍しくもなかったから、下働きの中に子供が混じっていても疑問には思われなかった。


 滑稽なことに、わたしの存在を認めたがらない家の者は、わたしをヴェルメイリオ家の令嬢と認めることもできないから、わたしがメイドの中に混じっていても、文句を言うことができなかったのだ。

 逆説的に、知らない間にメイドが一人増えているという以上に認識しては(まず)いことになるからだ。

 それでも、古参のメイドにはわたしが元は伯爵家の令嬢であったことがわかっているから、メイドとして働くことを拒絶されなかった。

 

 同情されていた、とも言える。

 家の主人であるお父様にも、イーリースお継母(かあ)様にも意見はできないから、新入りメイドの一人として働かせることで、目溢(めこぼ)しを願っていたのだ。

 それは同時に、イーリースお継母(かあ)様にとっては、都合のいい玩具(オモチャ)が手に入ったことになる。

 

 何しろ、目障りな先妻の娘だ。

 まともな魔法を使えない出来損ないで、容姿は下賤の亜人種も同然だ。 

 お父様にも愛想を尽かされ、すでに視界に入れるのも嫌がられている。

 そんな娘──いえ、ハーフエルフのメイドを虐待した程度のことでは、貴族社会では問題にもならない。


 伯爵家の女主人であるお継母(かあ)様の態度は、やがて他のメイドや使用人にも伝播する。

 イーリースお継母(かあ)様の連れ子で、義妹になるシャーリーンの存在はさらに最悪だった。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

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