109.勘当された伯爵令嬢
お父上に怒られるということは、リオンは冒険者になるためにお父上から支援をしてもらったということなのだろう。
リオンのお父様は息子のために、変名制度に必要な大金を支払ってくれたということだ。
それは、家族に認められているということ。
存在そのものも、冒険者として生きることも。
少し羨ましくて、悲しくなった。
「ちなみに、うちは侯爵家だ」
わたしの感傷になど頓着せず、クロスがついでのように冒険者カードを提示した。
隠蔽を解除されたカードには、クロード・アレイスターとある。
「クロード?」
「アレイスター侯爵家に養子として引き取られた時、戸籍上の正式名としてそう登録された。それが冒険者カードにまで反映されている。まったく、大樹の記憶も余計なことをしてくれたものだ」
こっちもリオンほどじゃないが、そこそこ金がかかっている、とクロスは冒険者カードの隠蔽魔法を掛け直し、元通り懐へしまった。
リオンとの違いは、周囲へ配る口止め料やなんやかんやの付け届けの金額らしい。
「養父殿には感謝しているが、冒険者カードにまで反映してくれなくてもよかったんだ。元からの通り名なら、変名だの隠蔽だのと面倒がなくて済んだものを……」
クロスはアカシック・システムに文句を呟いているけれど、たぶん養い親に余計なお金を使わせたくなかったという、気遣いの言葉なのだろう。
わたしは、服の上から自分の冒険者カードを握り締めた。
(すごく言い出しにくくなってしまった……)
だって、公爵家と侯爵家だ。
(どこが貧乏貴族の三男坊よ……!!)
どちらも、わたしの実家より絶対的に上の身分の人たちだ。
そんな彼らに、わたしとレッドは迷惑をかけてばかりいた。宿や食事もおんぶに抱っこで、控え目に言っても顰蹙ものである。
知らなかったとはいえ、侯爵家の御曹司に、奴隷を背負って運ばせたのだ。
世が世なら公爵家の跡継ぎだというリオンには、食事の支度や買い出しをさせて、コーヒーも淹れさせた。
しかも、二人には交代で病床の奴隷の看病までしてもらっている。
たかが伯爵家の、それも実質勘当された令嬢が世話になっていい範囲を優に超えている。
(宿や食事はともかく……奴隷の世話をさせたのは拙かったかも……!)
奴隷の世話など、普通は平民でもやらないような、賤民の仕事だ。
たぶん、わたしの顔色は瞬間的にさーっと青ざめていたに違いない。
「わたし、は……」
わたしは首から下げていた冒険者カードを、服の中から引っ張り出した。
どうにか平静を装って、二人の前に進み出る。
握り締めたわたしの冒険者カードには、ヴェルメイリオの家名を隠蔽するだけの魔法しか掛かっていない。
ジョブは新人の状態から更新していない。ランクは一番下のFランクだ。採取依頼と納品依頼しか受けていないから、上がりようがない。
基本的にギルドでの冒険者ランクは、昇格試験を受けることで上がる。もしくは、難易度の高い依頼を達成した、有識者からの推薦がある、などの要因を加味してギルドで審査された後に昇格となる。
わたしは採取と納品しかしていない上、昇格試験も受けていないので、ギルド側でも上げようがないのだ。
(だって、昇格試験は有料なんだもの)
「わたしはヴェルメイリオ伯爵家の者です。勘当されたも同然の身の上のため、どうか、無知な平民と思って数々のご無礼、ご容赦ください」
わたしは二人に向かって深々と頭を下げ、レッドにも強引に頭を下げさせた。
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