第十六話
登場人物紹介
登木 勇太郎 ……青山吹高1年2組。ユウくん、ボリと呼ばれている。
土筆坂 りぼん ……幽霊。下ネタ発言が多い。
登木 灯 ……勇太郎の妹。中学生。恐がり、金の執着心が薄い。
宮原 玲羅 ……中学生。霊感少女。
安嶋 大騎 ……勇太郎のクラスメイト男。園芸部。いがぐり頭。
若槻 妃織 ……勇太郎のクラスメイト女。園芸部。ギャルっぽい。
佐俣 啓悟 ……1年3組。男。園芸部。ちょっとおかしい。
喜多見 渚 ……1年4組。女。園芸部。おとなしい。
その週の土曜日。俺はりぼんと共に当てもなく田宝村を歩くことにした。
「ユウくんとデート、デート」
自作の歌を口ずさみながら、
俺の左脇にニッコリとくっつくりぼん。
そういえば宮原さんと憑依事件以来、
他の女子でもできるんじゃないか、と試してみたが無理だった。
やはら霊感体質が条件なのかもしれない。
「これからどこ連れてってくれるの?」
りぼんが可愛らしく小首を傾ける。
「そうだな……」
と青空を仰ぎ見る。
雲1つない5月晴れ。
気持ちよさそうに2羽のツバメが泳いでいた。
見方によっては梅雨前の貴重な晴れ。
思考の角度を変えると、ちょっぴり寂しいかも。
「ノープランなの? ちゃんとエスコートしてよ」
返事が遅かったらしく、りぼんの声に亀裂が入った。
「どこか行きたいところはないか?」
「おもちゃ屋さん」
「一駅向こうにあったな」
「あるよ、そこに」
りぼんが指したところは、
道外れにあるトタンで囲まれた三畳くらいの小さな建物だった。
看板には、でかでかとピンク文字で『オトナのグッズ』と書かれている。
数少ない田舎の娯楽施設。
真っ昼間からあそこに立ち止まってはいけない。
顔を反らし、何もなかったような仕草で通過を試みた。
「入らないの?」
後ろからりぼんの声がする。
予想ではオトナのグッズの前で手を招いているだろう。
「もう待ってよー」
追いかけて来て左横にりぼんが並ぶ。
「ひょっとしてコンプリートしちゃった?」
「あほか。俺は未成年なんだ。
ああいう、いかがわしいところに入るのは法律で禁止されているんだよ」
「入ったことないの?」
「当たり前だ」
「本当に?」
りぼんのジト目がやたらと肌にくっついて気持ち悪かった。
興味があるが入ってことはない。神に誓おう。
「もう行くぞ」
「あーん、待ってよ」
ここで立ち止まっていると、
変なヤツだと思い込まれるので早歩きで急ぐ。
すると何度も何度も後ろを気につつ、
りぼんが追いかけて来た。
「とこに行くの?」
「迷ってる」
「じゃあ戻ってさっきのところに……」
「戻らない」
いくらりぼんの記憶を掘り起こすとはいえ、
このまま当てずっぽで歩くのも疲れるだけだし……。
「どっかで休まない?
まったりとしたカフェでさぁ、
移りゆく人波を横目にコーヒーを口にして」
「喫茶店となると、駅くらいまで行かないとないぞ」
「じゃあ映画でも観ようよ?
禁断の愛を描いた、ちょっぴりエッチなラブロマンスとか」
「トラクターが道を横断する村にあると思うか?」
「あとは……温泉とかは?
源泉掛け流しの美肌の湯で、
ユウくんと私の肌と肌のお付き合い」
ゴクン。思わず生唾を飲んでしまった。
「珍しく乗って来たね。じゃあ行こうよ?」
「そもそも温泉だけ入れるとこ知らないぞ」
「うぬうううう、温泉は保留ってことで。
あとはプール、プールだよ。
まだ水着回やってないし、
ユウくんと男性諸君のハートを鷲づかみしちゃうチャンスだってば」
「プールねぇ……」
確か村民プールがあったような気がする。
りぼんが水着になれるかなれないかは置いといて。
「っていうか、季節を先取りすぎないか?
今日はポカポカ陽気だけど、水温は冷たいぞ」
「子供は風の子だって」
「無理だ、修行僧でもあるまいし」
ふと俺はある場所を思い出した。
「そんなに水に入りたいのか?」
「うん」
「よし、黙って俺についてこい!」
「きゃあ、ユウくんカッコいい」
そして俺たちの向かった先は、
村外れの大池公園だった。
その名の如く、校庭くらい広い池の隣には、
ブランコ、ジャングルジム、シーソーなど定番の遊具施設が充実していて、
休日なので、小学生くらいの子供たちが元気に走り回っている。
「ユウくん、カッコ悪い」
隣では、げっそりしているりぼんが恨んで愚痴をこぼしている。
こんなにテンションのアップダウンのりぼんを見るのは久しぶり。
喜んでくれると思って連れてきたのに。
「せっかくだから泳いできたら?」
俺は池の畔のほうへ歩き出した。
「こんな底が暗いところで泳げるわけないでしょ」
機嫌は2割ほど増して強調された。
畔に立てかけられた看板の注意事項には、
『遊泳禁止、釣り禁止、ゴミ捨て禁止』の3箇条が掲げられている。
もちろん周囲を見渡しても、泳いでいるやつなどいない。
「なありぼん、もしかしてこの池の底に、
身体が沈んでいるかもしれないぞ」
「ユウくん調べてきてよ」
「俺、人間だから」
「私だって人間だって!」
いや、幽霊だろ。
「これを成し遂げられるのは、りぼんだけだ。
確率はゼロとは限らない。
こんな怪しいところスルーできないだろ」
「わかりましたよ、入ってきますよ!」
一瞬、顔を引きずったものの、
自棄になったらしく歯をむき出しながら、
池の中央に浮かんで一直線に落下していく。
正直な感想、この池も警察の手が届いているはずだ。
もしかしたらの希望が残っていた。
5分経っても戻ってこないので、
近くにあった木製のベンチに腰をかけて、高みの見物をさせてもらう。
時間の経過と共に、犬連れのおじいちゃんや半袖短パンの男性など、
周囲は賑わいをもたらしていた。
遅いな。
りぼんが潜ってから更に20分が経つ。
竜宮城でもあったのだろうか?
あまりの退屈さに俺はいつの間にか、転た寝をしていた。
「ちょっとユウくん、起きてよ」
ぶっきらぼうの呼び声に目をこすると、
腕を組んだりぼんが真っ正面に立っていた。
「見つかったか?」
「サイテー! 私が必死で探していたのに、
よだれ垂らして寝てるなんて。
こんなとこデートスポットでもGスポットでもないわ!」
「まあ落ち着け、冷静になれ」
とんでもないことを、さらりと口にしていたけれども、
スルーしてなだめることにした。
「そもそも死体なんて遺棄したら、
ぷかーっと浮いてくるんじゃないの?」
「まあ、ある程度の重りがないとそうなるわな」
「じゃあ、なんで私が潜って探しに行かなくちゃ行けなかったの?」
「1パーセントの可能性があると思って。
それより手がかりとか見つかったか?」
「あるわけないでしょ!
泥と魚が、うじゃうじゃいただけだって」
「記憶のほうは? 何かピーンときたとか……」
「……」
プイッと池の方を向いてしまった。
「なあ、俺が悪かったよ」
「……」
こっちを向いてくれない。相当お冠のようだ。
「……許してあげる」
「ん?」
初めの言葉が聞き取れなかった。
「池に向かって、私に愛を叫んでくれたら許してあげる」
「待ってくれ、結構人がいるじゃないか」
「……」
言い訳が通じない。ここはやるしかないのか。
「りぼん、愛してる」
「声が小さい、やり直し。もっとこう、
喉を使うだけじゃなくて、腹の底から絞り出すようにして」
いちいち注文がうるさかった。
大声で叫んだら注目の的になってしまうだろうが。
「躊躇っているようだけど、イヤなの?」
更にドスの効いた声で脅しかける。
「とんでもない」
これは早く終わらせるべきだな。
「りぼーん、愛してる」
腹と喉が裂けるくらいの大声をぶちかました。
幸いにも周囲には、
杖を片手にしたおじいちゃんが、ビクンとこちらを見た程度。
「もうユウくんったら、恥ずかしいじゃない」
機嫌も晴れて薄らと頬を紅潮させている。
こっちは顔から火が出るくらいだったのに。
「何か思い出したか?」
ベンチに腰を下ろして、再度質問を投げる。
ここまで時間を使って収穫ゼロは非常にマズい。
「んっとねぇ、ユウくんと燃えるような激しい夜」
……俺がバカだった。
「無理ないよ。まだ1ヶ月くらいしか経ってないんだから」
「あれから、そんなに経つのか」
りぼんと出会って、
りぼんの家に行って、
りぼんと学園生活を送って、
りぼんとケンカして仲直りして。
ふと振り返ると、あっという間に感じる。
……なんか、この前にも回想していたような?
そもそも出会ったきっかけが変だった。
「なあ、何でりぼんは中学に潜んでいたんだ?」
「わかんないよ。同じ制服の女の子の後を追っていったら、
自然とそこに着いていて。他に行く当てもなかったし」
気の向くまま風の向くままってやつか。
もしかしたら田宝中に手がかりがあるかもしれない。
ダメ元で調べる価値はあるな。
ズボンのポケットからケータイを取る。
不審に感づいたりぼんが「どうしたの?」と聞いてきた。
「田宝中を調べてみようと思って、
宮原さんに連絡してるんだ。
卒業生じゃないから、
俺がうろつくと不法侵入になりかねないし」
りぼんは素直に頷いた。
受話器ボタンを押す。
10コール過ぎると留守電に切り替わった。
手元に持っていないのだろうか。
「繋がった?」
「だめだ。灯に電話してみる」
諦めて灯にコール。
今日は確か友達と青山吹市でショッピングって、
昨日言ってて、また俺から金をせびって、
断固拒否したら取っ組み合いのケンカになって、
半べそ掻いて俺の部屋を去って……。
頼めるわけねえよな。
案の定、灯は受話器を取って速攻で切った。
「灯ちゃんとユウくんって、昨日ケンカしてたような……」
「かける前に言ってくれたら助かったのに」
「あと、誰かいないの?」
「いない」
「ヤンキーとかモブ子とか、
じゃがいもとか、キモメガネとか」
一括りにすると、園芸部メンバーだった。
ケータイの電話帳を探ることに。
ピタリと親指が止まった。
安嶋も妃織も佐俣も喜多見のも、電話番号が載っていない。
ふと考えてみると、出会ったときに連絡交換すらしていない。
俺たちの関係って意外に希薄だったんだな。
「もしかして登録してないの?」
「ねえよ、どうしよう」
「あわわわわわわ、泣かないで。
私のおっぱいで慰めてあげるから」
「お前よく冗談言えるな。こっちはマジなんだぞ。
高校に入って、やっとできた友達なんだぞ」
「別に今日じゃなくてもいいじゃん。
それに中学校に当てがあるわけじゃないし。
ユウくんと出会う前にずっといたんだよ。
私の情報があったら真っ先に耳にしていたはず」
「いや、りぼんは自分の名前がわからないまま迷っていた。
つまり自分のことを話題にされていても、
右から左に通過していたことになる」
「私立探偵みたいでカッコいい」
「実はりぼんが行方不明になった理由を、
動機から考えてみたんだ。
りぼんは見てはいけないものを見てしまって、
拉致されているんじゃないかって。
それか大きな組織と繋がっていて」
「おお」
ぱちくりと目を見開いてりぼんは、次の言葉を待っていた。
「つまり村全体とはいかなくても、
中学校が闇に染まっていて裏で何かが動いていて……」
「でも私が見た限りでは普通だったよ。
ユウくんだって通学はしていないものの、3回来ていたよね?
それに尋常じゃなかったら、玲羅ちゃんの口から言われるんじゃないの?」
「……」
さっきまでノリノリのりぼんは、
急に真顔になって分析して語る。
やはり的が外れたか。
明日は神隠しの由来がある天狐山に登山。
ここで切り上げることにするか。
ここまでお付き合い頂き、誠にありがとうございます。
次話投稿の予定は4月7日21の予定です。





