44 トリアとシルトがやって来た!
エルフ国アルフヘイム、バベルの塔最上階にて。
アールヴ・アルフヘイム王女はトリアとシルトを呼び出していた。
「さて、そなた達二人には加賀見太陽の抹殺を厳命する。今は最下層の監獄に閉じ込めているところじゃが、あれがジッとしているとは思えん。処刑場に呼び出して事にあたるがいい」
アールヴは跪く二人に命令を与えている。
「処刑場には監視を命令したアブリス・ヒュプリスもいるはずじゃ……強力して加賀見太陽を抹殺せよ」
「仰せのままに」
「お任せを」
トリアとシルトは深く頭を下げて、命令の完遂を宣言した。
二人ならば問題ないとでも思っているのか、アールヴの態度には余裕がみてとれる。
「保険もかけておこうかの。すぐにスカルを呼び出し、監禁層に幽閉している加賀見太陽の仲間……確か、魔法人形とハーフエルフだったかや? あの二人をスカルに人質として活用させる。もしもそなた達が勝負に苦しいと判断したら、人質も使うのじゃ」
状況を冷静に判断して、出せる手は全て出し尽くさんと思考するアールヴ。細かい指示を与えた後に、満足気な息を漏らした。
「ふむ、こんなところじゃな。そなた達二人であれば、どんな敵でも問題はなかろう。期待しておるぞ? 行け!」
その言葉を背に受けて、トリアとシルトは動きだす。加賀美太陽を抹殺するべく、バベルの地下――処刑場に降り立った。
ここは最下層『永遠の監獄』のすぐ上にある階層である。永遠の監獄内は魔法が使えないため、魔法が使えるこの処刑場に呼び出すことで罪人の処刑を行っているのだ。
「たしか、ここにヒュプリス家の当主がいると聞いたが」
「…………っ」
シルトの言葉に、トリアは眉をひそめる。なんとなく雰囲気がおかしい気がしていた。通路を抜けて、拓けた場所に顔を出す。
そして見えたのは、豪奢なローブを追剥する加賀見太陽と、それを眺めるヘズ。それから気絶して横になったアブリス・ヒュプリスの姿であった。
「――――ぁ、やべっ」
シルトとトリアに気付いたのだろう。太陽はあからさまにイヤな顔をして、今しがたアブリスから剥ぎ取ったマントを身体に巻きつけた。
「えっと、あれだ。別に盗んだわけじゃないぞ? ただ、マントが落ちてたから拾っただけだ」
苦しいというか、無理のある言い訳にエルフ二人は半眼になっている。
「……ヒュプリスを倒したのか?」
「いや、転んで気を失っただけだ。その拍子に落ちてたマントがこいつの身体に巻きついたから、俺がそれをもらっただけだぞ? 嘘じゃないからな? 本当だ、信じろ」
対する太陽はうへうへと笑っていた。
「ちっ……先走ったか。やはり貴族は愚かすぎる。過ぎた栄光を誇るばかりの無能の多いことよっ。嘆かわしいものだ」
苦い顔をするシルトは真っ直ぐにアブリスを睨んでいた。いかにも刺々しい雰囲気を発していたのだが、太陽は空気を読まずに己の思うがままに行動する。
「ちょっとタイム。ヘズさん、作戦会議しよう」
「心得た」
敵を目前に、なお太陽のマイペースは崩れない。ヘズと肩を組んで何やら耳打ちをし始めた。
「どうします? 瞬殺したいんですけど、たぶん俺首輪のせいで攻撃できません」
そう。先程、アブリスに攻撃があたらなかったのだ。奴隷の首輪のせいで太陽はエルフに攻撃ができないので、この状況で二人を相手取るのは少し厄介だと思ったのである。
「そうか……太陽殿ならいつでも首輪の命令を跳ねのけることができると思うのだが、まあこの状況はまだ命令に抵抗するまでもない。あの二人にも本気を出す必要はない――ということか」
しかしヘズは曲解する。自問自答して、勝手に結論を出していた。
「理解した。では、某が二人と戦うとしよう……なに、奴らには以前負けた借りがある。ここらで返しておきたいのでな」
「……勝手に盛り上がってますね。いや、別にいいんですけど。分かりました、じゃああの二人お願いします」
そうして、大まかな方針を固めた後にようやく太陽とヘズは前に向き直った。
「待たせたな、お前らの相手はヘズさんがやるらしい。俺は先に行かせてもらう……あ、因みに俺の仲間ってどこ? 迎えに行きたいんだけど」
へらへらと笑う太陽。捕まっているというこの状況において、しかし彼はどこまでも余裕そうだった。
そんな態度に、トリアは無表情だがシルトは呆れるような仕草を見せる。
「先に行かせると思っているのか? 加賀見太陽はここで殺すし……仲間の居場所も素直に答えるとでも思うか?」
教えるわけがないだろうと、シルトは肩をすくめていたのだが。
「……お前の仲間は上にいる。監禁層で、捕まってる」
一方のトリアは、ぼーっとしたままに太陽の質問に答えていた。
「トリア!? お主、何を言っているのだ! 敵の質問にバカ正直に答えなくてもいいっ」
慌ててシルトが声を上げるも、既に遅い。太陽はしっかりと聞いていた。
「あ、そうなの? 分かった、じゃあ上に行けばいいんだな」
そう言って走りだす太陽。隣のヘズは既に戦闘態勢を取っており、今にも駆けだそうとしていた。
「くぅ……トリアめっ。お主はそれだから才能だけの人間と言われるのだ! もっと考えて動けっ」
「僕は女王の犬だ。考える必要なんて、ない。ただ、命じられたことを出来る力があれば、それだけでいい」
「愚か者めっ! もう良い……お主はそこの剣士を相手にしろ! 私は加賀見太陽の足止めをするから、さっさと倒して加勢に来い!!」
怒鳴るシルトに、トリアはただ無言で頷くのみだ。それでも、エルフ二人の間で意思疎通はできたらしい。二人は各々の役目を果たすべく、意識を切り替えた。
「加賀見太陽、ついて来いっ。お主の相手は私がやる」
「え? イヤだけど」
「天の邪鬼かお主はっ。どの道、この方角に出口はあるのだ……大人しくついてこい」
走る太陽を誘導するように、走りだすシルト。トリアから離れて、彼の邪魔ににならないようにとの配慮のようである。
「行かせると思っているのか?」
そこにヘズが横槍を入れようとした。トリアとシルトの二人を相手にすると言ったのだ。この場からシルトを逃がさないと動き出そうとしている。
だが、その動きは……文字通り横から槍を繰り出したトリアのせいで、封じられることとなった。
「くっ、速い……」
間一髪で防いだヘズは、息を漏らしてトリアを睨んだ。対するトリアは相変わらずの無表情で、平坦な声を発する。
「君の相手は僕だ」
よそ見をしている暇はないようだった。ヘズはすぐに意識を切り替えて、トリアだけに集中する。シルトのことは一旦頭から外したようだ。
(太陽殿にはすまないが、ここはこのエルフに集中させてもらおう)
そう思って、彼はシルトと向かい合う。
もう太陽とシルトは見えなくなっていた。シルトのことは太陽に丸投げすることに。
「以前の借り、返させてもらう」
「無駄だと思う……僕、強いし」
そうして、魔力なしの無能と呼ばれた盲目の狂戦士は、エルフ国王女の側近トリアに剣を向けた。
更なる高みへと、近づくために。
ヘズは、少し前に歯が立たなかったトリアと……再び相まみえる――
100万PV突破しました!本当にありがとうございます。
活動報告にて感謝の気持ちを綴っております。




