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人形

 足は手当てしたものの、まだ痛い。

 私と晦冥は岩場に腰かけて、外の方角を見ているが、板塀の向こうは静かだ。晦冥の話では、少し離れたところに野営しているみたい。

 ということは、朝まではこのままってことなんだろう。

「生気吸われたら、ほぼ意識のない状態で倒れている。それを朝、回収すればいいってことなんだろうな」

 ある程度の時間、私が逃げ出さないことを確認すれば、野営の立地が良いところに移動して待つのも、予定通りなんだろう。

 朝になったら、半分意識がないような状態の私を迎えに来るのだろう。そして連れ帰って、嫁にするって、やっぱり極悪。たとえ愛があったとしても、酷い。

 体力を取り戻すころには、きっと『恐怖』とかで、自分の支配下に置いちゃうのだろう。

 そういえば、使用人さんの身体に、あざがあったことを私は思い出す。

「いっそ、ここで決着つければ?」

「うーん。それもありだよね」

 田沢本人が、ここにいるんだから、ガツンとやってしまうのも考え方ではある。

「全員皆殺しにして、熊にでも襲われたように偽装すれば、あとくされなくて、いいんじゃないか?」

「……相当、物騒だね」

 晦冥の言う方法は、簡単かもしれないけれど、さすがにやりすぎな気もする。田沢本人はともかく、周囲の部下は、命令されているだけだし。非道に非道を返すのは、ちょっと抵抗がある。

「人形を使ってみるのはどうだ?」

「人形かあ。それはありかもしれない」

 それは、最初にも考えた方法だ。田沢の企みがわからないから、却下した方法だったのだけれど。意識がない状態が当たり前なら、ぼろも出にくいからいいかもしれない。

 見た目的には、完全に私に似せることができるし、ちょっとした受け答えも可能だ。うまくいけば、ひと月くらいは騙せる。

「人形に任せて、ぼろが出ないうちに、伍平さんたちを連れて、里を出ちゃうのもいいかも」

 人形が消えてなくなった時は、私が勝手に失踪したことになると思うけれど、税金については、契約書をとったから、田沢も無茶は言わないだろう。

「しかし、人形とはいえ、お前の姿をしたものを、他の男が好きにするのは面白くないな」

 自分が言い出したことなのに、晦冥は不満ありげに顎に手を当て、唸る。

「……人形だよ?」

「人形でもだ」

 ちらりと、私の顔を見る。その目にドキリとした。

「お前、まだ、俺の気持ちをわかってないのか?」

「えっと。でも、当座の問題は、解決できちゃうからいいんじゃないかなーと」

 な、なんで、そんなにじっと見るの?

 なんか、調子が狂うんですけど。

「やっぱり、嫌だな」

 晦冥の指がすうっと私の頬に触れる。

「贄にして、抜け殻みたいになった女を喜んで抱いているような奴に、人形だとしても触らせたくない」

「……そりゃあ、私もうれしくはないけど、でも、一番、円満な方法だと思う」

 最善ではないけれど、やっぱり、全員皆殺しにしたりしたりするより、ずっとましだと思う。人形は私の姿をしていても、私とは違うものなのだから。

「ただ、それで手を引いておしまいにすると、また何年か後に同じことをしそうで、それだけが心配かもね」

 岩鬼は、今後手を引くと約束はしたし、岩窟の入り口をつぶしてしまえば、贄の問題は解決できるかもしれない。

 ただ、田沢が、贄の問題とは別に、生気の抜けた『女性』を求めていたとなると話はややこしい。

「でも、そこまで、変人かな?」

 贄を出さなきゃいけない義務感だったって、可能性もある。

「可能性は五分五分だな」

 晦冥は肩をすくめた。

「とりあえず、人形で時間を稼ぎつつ、様子をみるしかないか」

「そうね」

 私は自分の髪の毛を一本すくい取る。

 そして、手ごろな石ころに結びつけ、指をパチンとならした。

 私の姿をした人形が、私の目の前に現れる。

「さすがの完成度だな」

 晦冥が口笛を吹く。

「どれどれ」

 晦冥が立ち上がり、なぜか人形の腕にふれた。

「ちょっと、冷たいし肌触りがイマイチかな。まあ、素材が石だから、仕方ないけど」

 晦冥は人形のあごに手を当てて、人形の唇に唇を重ねる。

「な、なにやって」

 自分の人形に晦冥が接吻しているをみて、私は訳がわからない気分になる。

 自分じゃないのに、自分だし。なんなの、このもやっとした感覚。

「ちょっと、俺の魔力を足した」

 晦冥の顔は、何事もなかったかのようだ。

 魔力を足すって。いや、別に口移しじゃなくてもできるよね?

「触ってみろ」

 言われて、自分の人形の手に触れてみると、ややぬくもりを帯びている。さすがといえば、さすがである。

「……あ、ありがとう」

 複雑な気持ちはあるけど、とりあえず礼を言う。

 晦冥は私の隣に座ると、くすりと笑った。

「何か、怒ってる?」

「……別に」

「嫌だって、顔に書いてある」

「そうかな」

 私は思わず顔をそむけた。晦冥はなぜか楽しそうだ。それにちょっと距離が近い。さっきより近くなっている気がする。

「言っとくけど、嫁入りするってことは、この人形、あの男に接吻されるどころじゃすまないんだぞ?」

「目の前でされるわけじゃないし」

 私の見えないところでされることまで、気にすることはないと思う。嫌だけど。

「ふむ」

 突然、晦冥は私を抱き寄せて、強引に唇を重ねてきた。

「ちょっ」

 慌てて身をひく。

「やっぱり本物のほうがいいな」

 にやりと晦冥は笑い、あっさりと私の身体を離した。

「どさくさにまぎれて、何するのよ」

 口をとがらせて、抗議する。だけど、胸のドキドキが止まらないし、顔が熱い。

「嫉妬してくれたのかなーって思ったから」

「……嫉妬なんてしないわよ」

 なぜ、私が、自分の人形に嫉妬しないといけないのだ。おかしいと思う。

「それは、残念」

 私の複雑な心を、何もかも見通したかのように、晦冥は笑う。

「そろそろ来たな」

 ちょうど、岩戸の向こうから足跡が聞こえてきた。

 うっすらと光が差し込んできたところから見て、朝が来たのだろう。

「とりあえず、人形を輿入れさせて様子を見よう」

 晦冥は私を抱き上げると岩の陰に隠れた。

 武装した男たちが輿を持って現れた。

 そして、岩窟内を見渡し、驚くこともなく、倒れている私を輿の中に放り込む。

「行くぞ」

「うん」

 私たちは、ゆっくりと彼らを追跡することにした。


 





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