第84話
今日もとある喫茶店の日常が過ぎていく。
「それでね、勝負は水ものって話で盛り上がってたんですよ」
「どうなるかは運にも左右されますしね」
「そしたら、その一番大事なところで話の腰を折られちゃって」
「水を差されたわけですね」
「高いお金を払って水商売にあるまじき接客だと思いません?」
「冷や水を浴びせられちゃいましたね」
「それで怒って文句を言ったんですが全然通じなくて」
「焼石に水だったわけですね」
「そのあと水かけ論になりましてね、そしたら本当にそこにあった水をぶっかけられまして」
「水も滴るなんとやらですね」
「水を打ったように静まりまして。で、まぁ、あとで頭を冷やしてお互い仲直りしたわけですよ」
「水に流したと」
「それで最初は水と油だと思ってたんですが、こっちが惹かれていくうち向こうもまんざらではなくなったようで」
「魚心あれば水心ですね」
「思い切って、返事はわからないけど3ヶ月分の指輪を買ってプロポーズしたわけです」
「まさに背水の陣ですね」
「立板に水のごとく、たとえ火の中水の中、彼女への熱い想いを伝えて、オッケーもらえて、結婚することになったというわけです」
「いや本当に寝耳に水でした。……お冷やおかわりいかがですか?」
――― カランコロン ―――
「いや、妻が待ってると思いますので、これで失礼します」
「おっと、夫婦水いらずでしたね」




