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第68話
今日もとある喫茶店の日常が過ぎていく。
老紳士の客が俺に尋ねてきた。
「マスター、人生には初恋というものがあるが、愛には初愛という言葉がない。どうしてだと思うかね?」
「恋には次があるけれど、愛は一度きりだからじゃないですか?」
「マスター、君のブレンドは少し深みが足らんな。君は誰かのことを一人でも愛したことはあるのかい? 心がちぎれるほどに」
――― カランコロン ―――
老紳士はそう言うと店から出ていった。
半分以上残したコーヒーカップを残して。
「お疲れさまで〜す。あれ? どうしたんですか? マスター。浮かない顔して?」
「いや、何だかオチつかなくってね……」




