第56話
今日もとある喫茶店の日常が過ぎていく。
「それでね、何から手をつけていいか分からなくって、とにかく時間が足らないんだって言うの。何か良いアドバイスないかしら?」
「う〜ん、そうですね。マヨネーズの瓶とカップ2杯のコーヒーの話とかどうでしょう?」
「何それ?」
「実際お見せしたほうが良いでしょう。マヨネーズの瓶がないんでこの大きめのグラスで代用しますね。実際の話ではゴルフボールを入れるんですが代わりに皮をむいたバナナを適当に切って入れることにします」
「ふんふんそれで?」
「今どんな状態ですか?」
「グラスはもうバナナで一杯ね」
「じゃあ次に缶詰のパインをその隙間に入れましょう。幾つか入りましたよね」
「そうね。もう一杯だけど」
「じゃあ次に缶詰のミカンをほぐしつつ入れていきましょう。ほら、まだ入るでしょ?」
「そうね。でもさすがにもう一杯よね」
「原作の話ではパインが小石、ミカンが砂で、ここでおもむろに2杯のコーヒーが出てくるんです」
「いかにも喫茶店らしいお話ね〜」
「で、今は代わりに牛乳を注ぐことにしましょう。ほら、まだ入ったでしょ?」
「確かにね……。でも結局それで何が言いたいの?」
「この話ではグラスは人生、バナナは大切なものを表しているんです。家族とか、健康とか、友達とか、夢中になれるものとか、他のものが全部なくなっても、これさえあれば良いと言えるものですね。
次にパインはそれ以外で比較的大事なもの、仕事とか、家とか、車とかですね。
ミカンはその他のいろんな物事 ― ようはどうでもいいものです。
それでもし、最初にパインやミカンを先に入れて一杯にしてしまったら、もうバナナの入る余地がなくなってしまうってことなんです。人生も同じことで。
もし、どうでも良いような事に時間や労力をつぎ込んでしまうと大切なものが入る場所がなくなってしまうんですね。
だから……まず第一に、バナナを入れること。つまり、本当に大事なものを先にするわけです。それさえちゃん守っていれば、後のことは何処かの隙間に何とか入るよってことなんです」
「なるほどね〜。ちなみに今回は牛乳にしてたけどカップ2杯のコーヒーにはどんな意味があるのかしら?」
「実に良い質問です」
――― カランコロン ―――
「どんなに忙しくても友達とコーヒーの1杯や2杯一緒に飲む時間ぐらい、その気になれば見つかるよって事ですね」
「まぁ! 素敵なお話をありがとうマスター! でも、食べ物をあまり粗末にしたらいけないと思うの。これいったいどうするつもり?」
「よろしければ、ミックスジュースはいかがですか? サービスしますよ」




