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二十五話 少女の処遇

更新です

「ミ、ミラをどうするきなの……?」



 気絶から目覚めた少女――ミラの第一声がそれだった。両目に最大限の警戒を滲ませながら、アディアたちへ視線を送っている。


 特に、アディアとアリアを見る頻度が多いことをみるに、見た目は完全に人族な二人に僅かな希望を見出しているらしい。もしかしたら、見逃してくれるように魔族に言ってくれるかもしれない――そんな期待が、ミラの瞳の奥で揺れていた。


 しかし、現実は非常であった。無力な少女が希望としたのは、彼女にとって一番の絶望だったのだから。


 そのことに気が付けないミラは、故に不用意な発言を軽々しくしてしまう。



「そ、それに、あなたたちは人族でしょ? な、なんで魔族なんかと一緒に……」



 すがるような視線と共に放たれた言葉は、アディアとアリアにとっては竜の逆鱗へ触れるに等しい物だった。


 人族扱いだけでも許しがたいのに、敬愛せし主の種族を『なんか』扱いされて、双子は灼熱の憤怒を滾らせると、悪鬼もかくやといった形相でミラを睨みつけた。

 


「黙りなさい。いつ、貴女が発言することを許可しましたか? ……それと、不用意な発言は控えるように。つい、殺したくなってしまいますから」


「どうやら、自分の立場を理解していないようですわね。貴女は今、我らが主の温情によって生かされているということを理解なさい」



 両手を合わせ、ベキッバキッと鳴らすアディア。顔の隣で掲げた手を握ったり開いたりするアリア。全身から噴出する殺気も合わせて、二人は完全に殺る気であった。


 双子の殺気を至近距離で浴びたミラは、さっと顔を青くして、がたがたと震えだす。『きっと自分の味方だろう』という希望があっさりと砕かれた衝撃も相まって、幼い少女の心はいとも簡単に折れてしまう。



「ひぅ……!? うぅ、ぐすっ……ひぅ……やぁ……怖いよぉ……!」


「あ? 何泣いてるんです? 騒々しいので止めていただけますか?」


「ピーチクパーチクうっとおしいですわねぇ……。強制的に黙らされたいのかしら?」


「ひぃいいいい!! た、助けてぇええええええええ! おねぇちゃぁあああああああああああん!!」



 例え泣く子であろうと、人族ならば容赦などしない。そんな鋼の意志が垣間見えるアディアとアリアの塩対応に、ミラはとうとう大声を上げて泣き出してしまう。


 まだ齢十かそこらの少女が大粒の涙を流し、恐怖に震えながら泣きじゃくっている光景は、普通であれば心を痛めそうなモノだったが、そこは双子クオリティ。汚物でも見るかのような嫌悪感を多分に含んだ極寒の視線でミラの泣き姿を睨んでいた。浮かべる表情は、今にも舌打ちをしそうなほど不機嫌なモノ。



「「……チッ」」


「うわぁああああああああああああああああん!! 怖いよぉおおおおおおおお!」



 というか、実際していた。この上なく憎たらしげなそれは、ミラの恐怖心を煽りに煽る。泣き声はすでに、森中に響き渡りそうなほど大きなものになっている。


 双子がそんなミラを見て、「やっぱり殺した方が……」「ですわね。そっちの方が……」と血も涙もない相談をしていると、『パチン』と乾いた音が鳴り、直後に二人の後頭部に驚いた双子が背後を振り向けば、そこには呆れた表情のバラクエルが立っていた。


 ジトォ……とした視線を無言で放ってくるバラクエル。その瞳は「止めんかアホ共」と何より御雄弁に語っている。無詠唱、陣構築無しの小規模魔法で軽いお仕置きまでした本気っぷりに、双子はしぶしぶと言った感じで引き下がる。



「……さて」


「ひぐっ、ひぐっ、うぇええええ……」



 二人の代わりに前に出たバラクエルは、改めてミラを観察する。


 ――――その瞳に確かな警戒を滲ませ、いつでも魔法を放てるように準備をしながら。


 カチリ、と。バラクエルの纏う空気が切り替わった。



(――こいつは、何者だ? 何が目的で、この場に現れた?)



 思考を切り替えたバラクエルは、油断なくミラを見据え、考えをめぐらす。


 双子に手出しをしないように言ったバラクエルだが、それは『子供だから可哀そう』といった甘い考えからではない。


 バラクエルが二人を止めた理由は、ミラの正体が不明であり、危険な存在かもしれないからだ。


 そのことを双子に伝えず、ただの説教として振舞ったのも、相手にそれを気取られないため。


 体つき、普通。魔力、普通。気配、完全に一般人。一応、子供に化けた人族の先兵であることも考慮して、魔法を使い隅々まで調べるも、ミラが何処にでもいるような子供で、それ以上でもそれ以下でもないということが分かるだけだった。


 魔法での調査を打ち切ったバラクエルは、その結果にはて? と内心で頭を捻った。


 ミラがただの子供なのはわかった。だが、それならば何故こんな森の中にいるのかが分からない。この森は魔物や危険な獣が生息しており、子供が一人で奥地まで到達することが出来るとは到底思えない。


 よもや、何かしらの手段で姿や魔力、気配を変えているのか? と、バラクエルは警戒を高めていく。


 

「うぅ……ぐすっ……ミラ、このまま食べられちゃうんだ……頭からバリバリって、骨まで食べられちゃうんだ……うぅううううう!」


(……こうして泣きじゃくっているところを見ると、本当にただの子供のようだが……いや、警戒を解くにはまだ早い。何か、こいつが敵性体でない確証が得れるまでは気を抜くなよ、わたし)



 そう気を取り直し、自身に物理、魔法、精神防御の効果のある魔法をかけると、バラクエルはミラに声を掛ける。



「なぁ、小娘。ちとわたしと話をしないか?」


「ひぃ!! た、食べないでください食べないでください食べないでください!!」


「食べないが? いや、真面目に人なんて食べたくないんだが? そもそも、魔族が人族を食べるとか、一体何処から出てきた話なんだ? 食人する魔族なんて、本当に一部だけだぞ?」



 微妙な顔でぶつくさと呟くバラクエル。魔王として畏れられるのはいいが、食人鬼扱いされるのは嫌なご様子。


 魔王様が貶されたと思ったのか、後ろで抹殺姿勢に入ろうとしているアディアとアリアを手で制しつつ、バラクエルはミラとの会話を再度試みた。



「小娘小娘。いったん泣き止んでわたしの話を聞け。別にお前を食べようとか殺そうとか、そう言う気は今のところないから安心しろ、な?」


「……ふぇ? ミ、ミラを……こ、殺さないの?」


「まぁ、今のところは、な。とりあえず、お前が敵かどうかが知りたいんだ。わたしの質問に正直に答えれば、見逃すことを考えてやらんこともないぞ? ……して、どうだ? 質問に答えてくれるか?」



 バラクエルが柔和な笑みを浮かべながらそう言うと、ミラは少しの間迷うようなそぶりを見せたが、すぐにこくりと頷いて見せた。



「よし、いい子だ。それじゃあ、聞かせて欲しいんだが……」



 そう言ってミラへいくつかの質問をしていく魔王様。


 なお、質問に答えたところで、『見逃すことを考える』と言っただけであり、絶対に見逃すなんてこれぽっちも約束していない。


 つまりは、ミラが助かるかどうかはバラクエルの胸三寸なのであった。

読んでくれてありがとうございます


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[一言] これが後の【魔王式懐柔法】の原型である…
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