表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/28

二十三話 バラクエルのパーフェクト魔法教室②

そろそろ話しを決まった文字数に収める練習とかをした方がいいかもしれない。

今回、八千文字を超えています。この小説を書き始めた時は『一話二千五百~三千くらいで書くぞー』とか思っていたんだが……ままならないねぇ


あっ、遅くなったのもそう言うわけです。文字数が増えると時間もかかるよねって話。……いやまぁ、開き直れることじゃないんだけどね? 精進します。

「――魔法の発動には魔力と術式が必要になる。魔力は魔法の燃料。では、術式とは何か? アディア、答えてみろ」


「はい。術式は魔法の設計図のようなものです。発動したい魔法がどの属性で、どの等級で、どんな規模で、どのくらいの範囲に効果が及んで……といったような情報を刻み、その刻んだ情報通りに魔法が発動します」


「ん、その認識であってるぞ。じゃあ、術式の構築方法を……アリア」


「はいですわ。術式は詠唱、魔法陣、そしてその二つを合わせる連結式があります」



 バラクエルの質問にはきはきと答えるアディアとアリア。この基礎確認は一か月間ほぼ毎日と言っていいほどやっているので、答える声に淀みはない。


 ここで、少し詠唱と魔法陣、そして連結式について説明をしよう。


 詠唱は『言葉は神秘的な力を持つ』という概念を元に、声に魔力を含ませることによって『呪言(ちからあることば)』を発し、それによって術式を構築する。言葉によって世界に命令している、とも言える。必要な要素が魔力と声のみなので、即時対応に優れた魔法行使が可能となるのが詠唱の利点だ。


 魔法陣は『文字や図形の組み合わせは神秘的な力を発する』という概念をもとに、決まった法則に従って陣を描くことによって術式を構築する。詠唱が声による世界への命令とするならば、こちらは指示書による命令と言えるだろう。陣を事前に描いておかなければならないが、それさえしてしまえば陣に魔力を流すというワンアクションで魔法行使が可能。即効性が魔法陣の利点と言えよう。


そして、その詠唱と魔法陣を組み合わせ、二つの利点を併せ持つのが連結式だ。


 連結式は、詠唱で魔法陣を描くことによって術式を構築する。より正確に言うのなら、『魔法陣を描く』という術式を構築する詠唱を始めるのだ。これにより、事前に用意しなければならない魔法陣をその場で用意できる。さらに描いた魔法陣の方に『詠唱の補助』や『詠唱の多重化』といった詠唱の効果を高める術式を仕込んでおく。こうすることによって術式を簡単に、より複雑に構築することが出来る。欠点を上げるのなら、詠唱と魔法陣どちらも使うことで術式構築の難易度が上がること、そして魔力を詠唱や魔法陣よりも多く消費してしまうことだろうか?


 バラクエルはアリアの答えに笑みを浮かべながら頷くと、木の枝に引っかけた黒板に『最上級魔法』、『連結式』と書いた。



「最上級魔法は、上級までの魔法と違い連結式での発動が前提となる。あと、無詠唱や陣省略は基本的に無理だ。これは最上級魔法だけでなく、伝承級、伝説級、神話級と……まぁ、要するに最上級以上の魔法全てに当てはまると思ってくれていい。例外はアーティファクトとかなんだが……まぁ、最上級以上の魔法が無詠唱で使えたりするアーティファクトなんて希少も希少だからな、そういうものがあるかもしれないって覚えておけばいい」



 教鞭で黒板をぺしぺししながら、よどみなく話すバラクエル。双子はそんな彼女の言葉の中から、重要だと思った部分を帳面に記入していく。



「さて、今日二人に教える最上級魔法は、無属性の【部分再生(パーツ・リヴァイブ)】だ。術式、詠唱、魔法陣は八百六十ページに書かれているから、とりあえず五分で覚えろ。出来るな?」


「「勿論です、まお……先生」」


「……最上級魔法の術式は覚えられるのに、呼び方は覚えられないんだから、不思議な話だよなぁ……」


 

 そんな魔王様のぼやきも、真剣に教本を読み込んでいる双子には届かない。バラクエルが大げさに付いたため息が、空気に溶けて消えていった。


 そして五分後。



「「……覚え、ました」」



 アディアとアリアが同時にそう告げた。しかし、その表情にはわずかな困惑が浮かんでいた。バラクエルはそんな二人を見て悪戯っぽい笑みを浮かべている。



「どうしたお前ら、なんだか納得いかないって顔だな?」


「……ええと、魔王様? この魔法、変じゃありませんか?」


「ワタシもそう思いますわ。魔法の行使難度、術式の複雑さ、消費魔力量……そのどれもが、効果に見合っていないように思えますわ」


「ほうほう、お前たちはそう感じたのか。まぁ、それもやむなしか。効果が地味だからなぁ、この魔法」



 【部分再生(パーツ・リヴァイブ)】は極々狭い範囲の物体を再生する魔法。最上級魔法という響きに対して、物足りない印象を受ける。それでいて、術式の難易度は上級の比ではなく、消費魔力は倍以上。アディアとアリアが困惑するのも無理はない。



「まっ、安心しろ……っていうのもなんかアレだが、この地味で行使難度に会ってない魔法が最上級なのには理由がある。ところでお前たち、『神話魔導』は覚えているな?」



 バラクエルから突然飛び出した言葉に戸惑いつつも、記憶に留めていた二人は頷きを返した。


 『神話魔導』。それはアディアとアリアが転生を果たした折に手に入れた秘法だ。しかし、何故それがこの場で話題に上がったのか双子に検討もつかない。


 疑問が浮かぶ視線を受けた魔王は、教鞭をくるくると回しながら口を開く。



「『神話魔導』。字に書いて如く神話の時代に使われていた魔法よりも上位の力。魔法が世界に命じる力ならば、魔導は世界を従える力と言ったところか。『神話魔導』はより世界の根源に近い部分を改変出来るんだ。根本的に力としての格が違う。お前たちが使える『神話魔導・空』と『神話魔導・天』もそれに当たるな。それに……あれ?」 



 そこでバラクエルは言葉を止め、虚空に視線を彷徨わせる。頭を捻り、顎に手を当て、「うーん」と唸り声を上げと、ひとしきり考える仕草をした後、ポリポリと頬を掻きながら双子に尋ねた。



「そう言えば……なぁ、お前たち。わたしの秘法に『神話魔導』があるって言ったか?」


「「初耳ですが!?」」


「……やっぱり?」



 驚きの声を上げるアディアとアリアに、あはは……と苦笑を漏らすバラクエル。どうやら伝え忘れていたことを忘れていたらしい。魔王様、うっかりである。



「いやぁ、すまんすまん。てっきり言ったものだと思ってたわ」


「『神話魔導』について詳しかったので、もしかしてとは思っていましたが……」


「何もおっしゃいませんもの、てっきり知識として知っているだけだと思っていましたわ……」



 あっけらかんというバラクエルに、双子は疲れたようにため息を吐いた。



「魔王様の御力は、私たちが思っているよりもずっと大きそうですね……」


「この一か月で少しは近づけたと思ったのですが……ワタシたちが魔王様をお守りできるようになるのは、一体いつになるのでしょうか?」


「はっはっは、まだまだお前たちに負けるわけにはいかないからな。わたしに追いつきたいんなら、もっと努力するんだな。『魔王』の領域までの道のりは長いぞ?」



 教鞭を手元で弄びながら、からかうように笑うバラクエルに、アディアとアリアは力強く微笑み返す。



「必ずや、そこにたどり着いて見せます」


「魔王様の期待に応えて見せますわ」


「ん……そうか。……ま、楽しみにしておこう」



 くるり、と顔を背けながら、小さく呟くバラクエル。双子の視線から隠したその表情には、隠し切れない笑みが浮かんでいた。長年の孤独のせいか、こういった強く『繋がっている』と実感させる言葉が嬉しくて、それ以上にむず痒く感じてしまう魔王様だった。


 なお、嬉しさを噛み締めるワンアクションのせいで顔を背けるのが若干遅れていて、喜色いっぱいなはにかみ顔を双子にばっちり目撃されていることに、バラクエルは気付いていなかった。そんな彼女を見つめる配下の視線は、とても暖かく、優し気だ。


 

「さ、さて。話を戻すぞ? ええと……ああ、わたしの『神話魔導』についてだったな」



 少し慌てたように言い、表情を取り繕って正面を向いたバラクエルに、双子は佇まいを直して話を真剣に聞く体勢になる。なお、主と違って二人のポーカーフェイスは完璧だった。



「お前たちの『神話魔導・空』や『神話魔導・天』と同じように、わたしは『神話魔導・時』という秘法を持っている。司る属性は『時』。おおざっぱに言えば、時間を速くしたり遅くしたり、後は時間停止なんかも出来る。発動に食う魔力の多さを度外視すれば、戦闘じゃまず負けない力だな。それ以外にも、死んでなきゃ大体の怪我は治せる。例えばアディア。お前の右足が元通りになったのもこの力があってこそだな。通常の治療魔法じゃ、欠損までは治せないからな。治癒魔法に時属性の魔力を混ぜることでだな……」



 こほん、と咳払いをし、教鞭の先をくるくると回しながら、気持ち早口でまくし立てるバラクエル。話に集中することで、ふやけた表情をしてしまったことによる羞恥心を誤魔化そうとしているのは見るからに明らか。双子の視線がまた暖かくなっていく。


 

「……とまぁ、わたしの『神話魔導・時』についてはこんな感じだ。分かったか?」


「「ええ、よく分かりました。まおう……先生」」


「うん、もう魔王って言っちゃってるよな? 今がっつり魔王って言ったよな? あとお前ら、なんか目が変じゃないか?」



 ジロリ、とねめつけるような視線で(しかし頬の赤みがまだ少し残っている)、双子を見つめるバラクエル。疑り深い主に、双子はにっこりと笑みを浮かべてみせる。胡散臭いくらいに、眩しい笑みを。



「「そんなことありませんよ、先生」」


「絶対なんかあるだろお前ら!? 言い間違えなかったのが逆に怪しいぞ!? なぁ!?」


「「……さぁ、なんのことやら? さぁ、先生、授業の続きをどうぞ」」


「ぐぬぅ……非常に釈然とせんが……まぁ、いい。では、話を続けるぞ」



 魔王様、チョロい――と、双子が思ったかどうかは定かではないが、腹の探り合い(笑)は双子に軍配が上がった。なんだかこういったやり取りをするたびに魔王様がやり込められている気がするが、これは魔王様の目が節穴だから――ということではない。


 バラクエルはどちらかと言えば鋭い方であり、元来の探究者気質と一人旅の間に培った対人眼が合わさって、例え相手が相応の訓練を積んだ者であろうと嘘を見抜くことが出来る。では、どうして双子の誤魔化しを見抜くことが出来なかったのか。


 その理由は存外単純で、アディアとアリアには邪な思いが一辺たりとも無かった――ただ、それだけ。『二人が悪意ある行動をするわけがない』、『二人を疑いたくない』という思いがバラクエルの心の底に存在しているというわけだ。なんとも、残酷にして慈悲深き魔王らしい理由である。



「ええと、何処まで話したんだったか……ああ、『神話魔導・時』までか。最上級魔法と神話魔導の関係はまだだったな」



 そう言ってバラクエルは、教壇から離れると、近くの木の枝を折った。それを地面に突き刺しておくと、枝があった場所に手を翳した。



「『世界の理よ我が魔力の前に屈せよ。流転せし絶対なるものを捻じ曲げ、ここに不遜なる奇跡を齎さん』」



 そして、詠唱。言葉が紡がれると同時に魔法陣が展開され、バラクエルの魔力が昂っていく。一般的な人族の魔法使いなら即座に昏倒しているであろう量の魔力を練り上げているが、そこは『魔王』にして『九曜の大魔女』。顔色一つ、汗一つかいていない。


 流暢に詠唱を謳い上げ、複雑な魔法陣を描き上げたバラクエル。そして、魔法名を唱え上げて魔法は完成する。



「――――【部分再生(パーツ・リヴァイブ)】」



 魔王が翳した手から、銀色の光が溢れ、木の枝があったところを包み込む。変化はすぐに現れた。手折られ失われたはずの木の枝が徐々に再生していき、やがて元通りの姿を取り戻す。


 それを見て「おお……」と感心の声を上げる双子に、少し得意げな顔をする魔王様。



「これが、無属性の最上級魔法【部分再生(パーツ・リヴァイブ)】。そして……」



 得意げな顔のまま、今度は地面に突き刺した木の枝に手の平を向けるバラクエル。そして、今度は魔力を高ぶらせることなく、淡々と呟く。



「『時よ、加速せよ』」



 詠唱でもなければ、魔法陣すら展開されない。術式が作られることもなかった。


 けれど、ただただ強大な『力』が働いたのだと、直感的に理解させられる。


 力を受けた枝は、みるみる内に成長していく。モノの数秒で若木ほどの大きさになり、十秒も立てば元の木と変わらないサイズとなった。


 今度は、感嘆の声を上げることも出来ず、ただただぽかんと口を開けている双子。それだけ今の光景が非常識なモノだったというわけだ。


 そんな配下の反応にクスリと笑みを漏らしたバラクエルは、教壇に戻ると「さて」と前置きをし、語り出す。



「これが『神話魔導・時』だ。どうだ? なかなかのモノだろう? でだ、お前ら。【部分再生(パーツ・リヴァイブ)】と今のこれを両方見て、何を感じた? 何を思った? 何でもいい、言ってみろ」



 その言葉を受けて、双子は困惑したように顔を見合わせる。今、その瞳に映した光景がすさまじいモノだっということは理解できたが、その『すさまじい』をそれ以外の言葉に変換できない。



「なん、でしょうね……ちょっと何が起きたのか理解できませんでしたが……けれど、魔法と魔王様の御力が、どこか似ていたような……?」


「お兄様もですの? ワタシもそのように感じましたわ。もしかすると、この二つは同種の力……いえ、魔法と魔導は違うと魔王様がおっしゃっていましたし」


「おっ、アリア。それ、正解だ」


「「……へぇ?」」



 「どういうこと?」という顔をする双子に、口元を緩めつつ、バラクエルは教鞭を手のひらでぺちぺちと叩く。



「アディアは惜しかったなー。だが、そう感じ取れたのは魔法使いとしての直感が磨かれている証拠だ。次はその感覚を信じられるようになろうな。それでだ、アリアの言う通り、この【部分再生(パーツ・リヴァイブ)】は『神話魔導・時』と同じ性質を持つ力だ。まっ、効果を見ればわかるだろうが、劣化版もいいところだけどな」



 そう言って肩を竦めたバラクエルは、黒板に書かれた『最上級魔法』から矢印を引っ張り、その先に『神話魔導の劣化版』と書いた。



「まっ、全部が全部そうってわけじゃなくて、一部そう言う感じの魔法が存在するってことだ。大抵は無属性に分類されるから判断は付きやすい。後、もちろんだけど最上級よりも上の等級にも存在している。神話級まで行くと、神話魔導に程近い効果のモノもあるんだが……さて、ここで二人に問題だ。何故、『神話魔導』の劣化版なんて魔法が造られたのか。これを作った者は一体何を考えていたのか……さぁて、その理由は分かるか?」


「魔法が造られた理由、ですの?」



 先ほどは答えを出せたアリアは、眉を潜めて首を傾げた。思考を働かせているが、思いついてはいない様子。


 反対に、ハッと目を見開いたアディア。すぐに顔を伏せ、顎に手を当てて思案に耽りだした姿からは、彼が何かを思いついたのがすぐに分かる。


 そんな配下の反応に、魔王様は「お?」と興味深そうな視線を向けた。



「アディア、分かったのか?」



 その促すような言葉に、アディアはゆっくりと顔を上げる。正面から面白そうな笑みで見つめるバラクエルと、隣から「もう分かったんですの?」と驚きの視線を向けてくるアリアに見つめられつつ、ぽつりと呟いた。



「……憧れ、ですか?」


「ほう! 憧れか! 因みにだ、何故そう思った?」


「……憧れ、ですの?」



 アディアの答えに、バラクエルは口角を吊り上げ、アリアは首をこてんと傾けた。そんな二人の反応に挟まれながら、アディアは言葉を紡いでいく。



「夢と言い換えてもいいかもしれません。『神話魔導』は、まだ魔法の造詣が深いとは言えない私が、その一旦を見るだけでその強力さを理解できるものでした。これは、人の身には余る力だと、頭ではなく心が訴えかけるほどに……。では、私よりももっともっと魔法に詳しい……そう、新たな術式を作り出せるほどに精通している者がその力を目の当たりにしたら? きっと、真似したくなると思うんですよ。強い力に魅入られて、その領域にたどり着きたいと我武者羅に手を伸ばして……。たとえ、出来上がった物が劣化品に過ぎなくて、結局本物に届かなかったとしても……憧れて、夢を見て、憧憬に目がくらんでしまったら、焦がれずにはいられませんから」



 そう語る真紅の瞳に映っていたのは、一月前の自分(アディア)の姿。


 辛く苦しい日々を送っていた。それを支えてくれたのは未来への渇望だった。冒険者になって、アリアと一緒に世界中を旅するという夢。今はもう、叶うことが無くなったそれを、アディアは心の奥にしまい込んでいた。


 妹の手前、彼が弱音を吐くことはほとんどなかったが、アディアたちの日常は地獄も地獄。十を少し過ぎた子供がずっと耐えられるものではなかった。


 アディアがそんな地獄を耐えられたのは、絶対に護り抜くと誓った存在と、その夢のおかげだった。


 だからだろうか? 最上級の名を冠しながら、効果が微妙なこの魔法に感じ入るモノがあったのは。魔法を見た時感じた、妙な感覚。それは一種のシンパシーのようなモノだったのかもしれない。



「はぁ……そういうものなのですね」



 アディアの言葉で、「さっぱりですわ」という顔をしていたアリアも少しは理解できたらしい。


 そして、アディアの話を聞いたバラクエルは、とっても満足げな笑顔を浮かべ、うんうんと一人頷いていた。どうやらアディアの答えは魔王様の琴線に触れたらしい。



「そうだ。その通りだぞアディア。夢、憧れ、憧憬。手が届かなくても、ただひたすらにそれを望み足掻き続ける。この魔法は……いや、この魔法に限らず、ありとあらゆる魔法はその感情から生まれたとされている。そして、この感情は魔法使いにとって非常に大切なモノだ。あるいは、この感情を強く持つことこそが魔法使いの素質であると言ってもいいかもやしれんな。無論、わたしも最初に魔法を見た時から、心の中に色あせない憧れを持っているぞ」


「魔法は、憧れから生まれた力……そう考えると、どこかロマンチックですわね。それにしてもお兄様は、どうしてすぐにそれがお分かりに?」



 不思議そうに聞いてくるアリアに、アディアは少し考えるそぶりを見せる。


 そして、人差し指をぴんと伸ばし、そっと自分の唇に当て、悪戯っぽく片目を閉じた。



「私も、オトコノコだった……ということにしておいてください」


 

 クスリと、どこか艶を感じる笑みを口元に刻み、声音にからかいを混ぜたアディアに、アリアは不満げな視線を向ける。

 


「……よく分かりませんが、誤魔化されていることだけは分かりましたわ。もう、お兄様の意地悪っ。可愛い妹に隠し事をするなんて!」


「くひひっ、そう拗ねないでくださいな。ほら、アリアは笑っていた方が魅力的ですよ?」


「ふんっ、そんな言葉じゃ誤魔化されませんわ。もっと誠意を見せてくださいませんとっ」



 そっぽを向いたアリアは、不機嫌なようで、どこか甘えるような声を出す。なんてことはない、怒ったふりをして構ってもらおうとしているだけである。


 アディアは妹の無言の訴えに苦笑すると、その頭に手を伸ばしてぽんぽんと優しく撫でる。それだけであっという間に不機嫌さが消え去り、蕩けたような表情をする妹に、兄は苦笑を深めた。


 

「……目を離すとすぐにこれだ。お前ら、今が授業中だということを忘れているんじゃあるまいな?」


「まさか。魔王様……ではなく、先生の授業を忘れるなどあり得ませんよ」


「お兄様の……んっ……言う通り……あっ……ですわ……ひゃっ」


「せめて撫でるのをやめてから言え、阿呆共が」



 イチャつ……兄妹のスキンシップを止めない双子に、ため息を吐くバラクエル。アディアとアリアを見つめる視線には、「またか」という呆れと「いつものことだしなぁ……」というあきらめの感情が半物ずつ宿っていた。



「はぁ、まったく……。まぁいい、じゃあ授業の続きだが…………ん?」



 バラクエルがもう一度ため息を漏らし、とりあえず授業を再開しようとしたその刹那、彼女の感覚が一つの気配を察知する。木々の生い茂る森の中に、魔物でも動物でもない気配が一つ、こちらに向かってきていた。



「…………人族? いや、それにしては……」


「「……ッ」」



 やがて、スキンシップに勤しんでいた二人もそれに気づいたのか、剣呑な雰囲気を纏いながら、気配がする方向へと、刃のような視線を向けた。


 三人が無言で見つめる中、茂みの一角がガサガサと音を立てる。


 そして、その中からひょっこりと現れたのは……。



「…………ふぇ!? だ、だれ!?」



 『ソレ』は、淡い色の栗色の髪に、空色の瞳、愛嬌のある顔立ちをしていた。


 身に着けるのは麻で出来た質素なワンピース。片手には籠を持ち、その中にはいくつかの野草が放り込まれている。


 真ん丸にした瞳をバラクエルたち三人に向け、驚きの感情を隠そうともしない『ソレ』は……。



「「「……こ、子供ぉ?」」」



 ――どこからどう見ても、幼い少女だった。

最後に出てきた幼女は、多分この章で死ぬ。作者の気が変わらなければ


本作品は『人族』にひっじょーに厳しい作品となっています

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ぜひそのままタイトル通りしっかり人族を見限ってほしいですね! なんだかんだ理由を付けて人族を受け入れたり助けたりしたら双子の気持ちが一気に薄っぺらくなりそうな気がしますし
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ