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Animal Яeplicant  作者: 次野/うずらの


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24/24

after scene



「博士ってさ、慧と仲良くなかったの?」



 管理局の屋上に1人いた卯月の前に、ふらっと現れたのはカアナだった。

 なんの脈絡もなく聞いてくるものだから、「……なんだ、唐突に」としか卯月は答えようがなかった。

 慧が主となっても、カアナの生活ががらりと変わるわけではない。なにがそう思わせたのか、次の言葉を待った。


「パスケースの中、見ちゃったの」


 軽い口振りなわりに、真剣な表情だった。

 卯月は白衣のポケットから、例のパスケースを取り出した。


 そして、


「これは杉浦のだ」


 そうなった経緯と、慧との関係性を教えてくれた。



     *



 仔猫の件もあって卯月に対して物怖じしなくなった慧だが、実は同じクラスだと分かっても、親しげに接することはなかった。


『ここ、いい?』

『あぁ』


 なので、紙袋片手に慧が屋上にやってきたときも、それ以上の会話はなく。

 卯月の隣に座ると、紙袋から白と黄色のシンプルなたまごサンドを取り出して、黙々と頬張り始めた。


 一瞬、フェンスを乗り越えるのではないかと思ったのは、ここだけの話。


 周りと距離を取っていた卯月がそう感じるくらい、当時の慧は黒髪だったこともあって、非常に暗い印象だった。

 仔猫を助けようとハッタリかました時の慧はどこに?

 覇気も生気もない、濁りきった瞳のせいで、とても食事をしているようには見えず――――小動物のように頬が膨らんでいくのを、卯月はただただ見つめていた。


 その視線に気づいて、ごくん、と詰まらせることなく飲み込んだ慧は、サンドイッチを卯月に勧める。


『いる?』

『いや……』


 屋外だからか。

 慧の瞳に光が射し、生気を垣間見る。

 サンドイッチ越し僅かなそれに、卯月は断りかけていた言葉を飲み込んだ。


 少しだけ、興味が沸いた。


『それでいい。くれ』

『もう1個あるから……』


 食べかけ、しかも半分以上口をつけているものをあげるのは……と、慧は紙袋をあさった。

 その間、卯月の目の前で食べかけのたまごサンドが揺れる。おあずけをくらっている犬みたいで、とっさに慧の腕を引いた。


 1口……のはずが、柔らかい具と多さに、かじった端から玉子が飛び出てくる。

 それを落とすまいと、もう1口。別の方向からかじると、また。を繰り返せば、慧と同じように、頬張ることになってしまった。


『……美味いな』

『うん』

『食べにくいけど』

『うん』


 動物が絡んでいないと感情の起伏が乏しい慧が、ふわりと表情を崩した。

 口角が三角のホクロを押し上げる。


『一緒に食べてるから、もっと美味しい』

『――そうだな』


 つられて、卯月も微笑んだ。


『ここ自販機ねーから。次来るときは飲み物忘れんなよ』


 いくら玉子が美味しかろうが、パンがしっとりしていようが、口の水分はもっていかれる。

 飲みかけのカフェオレを受け取り、慧はストローに口をつけた。



『ありがと、卯月くん』



 それからというもの、ちょくちょく顔を出すようになる。

 週1が週2、週3――――と、大半の昼休みを屋上で過ごすようになったある日だった。


 慧が、あの3人組のひょろいのに絡まれ、刺された。

 殴られても、頑なに卯月を呼ばない慧に苛立って、やってしまったと。

 “ちゃんとタイマンしたら、おもしろそーだなーって思ったから、呼んでほしかっただけなんだよー”と、悪びれもせず。慧のケータイから連絡してきやがって。



 ――お前のせいで慧が危険な目にあったんだ。

 ――は?



 原因は卯月にあるかもしれないが、慧に責められるならまだしも、その友人に。しかも全くの初対面なヤツにとやかく言われる筋合いはなかった。



 ――そんなに大切なら、ずっとそばにいればいいだろ。



 取っ組み合いの末、卯月の擲った言葉が慧を苦しめることになろうとは。

 ルームシェアをするようになって、ヤツの束縛に耐えられなくなったのだろう。



『もしもし』

『……うづき、くん』

『杉浦?』



 進学して、2ヶ月後。



 震えた声で助けてほしいと連絡を受けたものの、義行みたいにすぐ行ける立場でもなければ、卯月はその時AR研究のごたごたに巻き込まれていて、動ける状態ではなかった。

 共同開発中の試薬を中立都市に届ける、という強行手段を使って、駆けつけたのが6月のあの日。

 周りが白砂化していく中、慧の意識も遠退いていく。


『――カ、アナを』


 慧は自分のことよりもカアナを。

 卯月はただそれに応えただけのこと。



     *



「杉浦に過去が必要なら、義行にとっくに回収されてる」

 

 慧を縛り付ける人間も、試薬を打った挙げ句カアナをARにした人間も、今の慧には不必要だから、こうして卯月の手の中にあり続けている。

 思い出すことで影を落とすのであれば、なおさらだと、卯月はパスケースをしまい込んだ。


「博士は……慧との思い出をなかったことにできるの?」

「あぁ」



 その表情に、一抹の寂しさはない。

 慧を見守る親友そのものなことに、本人は気づいていなかった。



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