scene 11-3
早すぎる宣告だった。
義行の恋人は20歳を過ぎた頃、白砂病に侵された。
『財閥のお嬢様が来るところじゃないぞ』
『長生きしたいなら影津博士のとこって、兄さんが言ってたの』
『……あの人は勘違いしている。俺は』
『先生。私、最期まで義行といたいの。だから、ここを選んだの』
普通の医療機関を拒み、当時悪い噂しかなかった影津診療所へやってきた彼女の遺志は固かった。
だから、それに応えた。
『取るのは簡単だ。問題は、そのあとだ』
結晶化した内臓の除去手術に伴う、体力の低下を説いても無駄だった。
それで砂になるのが少しでも遅くなるなら、かまわないと。
日増しに機械に繋がれて、義行が来た時にだけ外す。
白砂病に侵されてる素振りすら見せず、楽しそうにそのひとときを過ごしていた。
最初の頃は髪の色も、わざわざ黒く染めて。
それが、4年続いた。
『――せんせのとこ、来て……よかった』
『あぁ』
『ありがと……せんせ』
そんな彼女は今、診療所の中庭にある石碑に眠っている。
白砂化しないIDタグが開発中だったため、医療機関で最期を迎えても遺族の元に帰せなければ、納骨もできなかった。
いくら恋人の、いろんなことが許されている義行でも、砂に還った彼女は渡せない。
影津にできるのは、こうしてたまに思い出すこと。
石碑の前には、桔梗の花が添えられていた。




