思考決戦
母艦のそばで、巨人たちの陣形が変化した。
二重円の外側が解け、そのうち五機の巨人が大地を震わせながらこちらに向かってくる。時速百キロ以上は出ているだろう。
熊は、まだ遠く、豆粒のような応援部隊と、横たわるギレアドの機体を交互に眺めてから、ゆるりとぼくの方に歩を進めた。
やっぱり、こうくるか。
ぼくは息を吐いた。呼気が頭の周りで白く煙る。
この極寒の世界では、〝熱〟は何よりも貴重なものだ。核融合炉であろう〝反応炉〟を持つ母艦にいると、熱のありがたみが薄れてくるが、自然界では地獄のような生存競争が行われているに違いない。
獲物を求めて信じがたい距離を旅するという熊が、そうかんたんに手にした〝熱〟を諦めるはずがない。
熊は、残りわずかな時間で、なんとしてもぼくを倒し、獲物を持ち帰る気だ。
熊の身体からは、さきほどまであった力みが消えていた。
ごく自然な歩みで、なめらかにぼくとの距離を詰めてくる。
ぼくは応じた。
熊に向かって歩を進める。
ぼくのなかでリガが念じた。
〝逃げないのですか!?〟
〝少しでも意識が逃げに回ると、即座にやられる気がするんだ〟
そう。熊から目線を切ってはいけない。
ぼくが戦えているのは、〝おこり〟を見逃さないからだ。
背を向ければ、死ぬ。
熊とぼくの距離が縮まる。
ぼくの足で十五歩くらいか。
風が足元の雪を天高く巻き上げる。
ぼくはリガにいった。
〝少しだけ身体を借りるよ〟
〝はい〟
熊との距離は残り十歩。
ぼくも身体を緩めた。
緊張は、反射速度を鈍らせる。
残り五歩。
ここだ。
ぼくはリガの身体を操ると、両手で操縦桿を握らせた。
ぼくとリガの脳が百パーセント同期し、〝ぼくたち〟になる。
熊は、ぼくたちを見て僅かに身を震わせたが、そのまま進み続けた。
残り三歩。
ぼくたちと熊は歩みを止めた。
ぼくたちが熊の首を狙おうと考えると、熊はそれを察知し、首まわりの筋肉に力を込める。
熊は、ぼくたちの顔面を爪で破壊しようと動きの起点となる僧帽筋に力を込め、ぼくたちは超視力でそれを察知し、剣で飛んでくる腕を切り裂く準備を整える。
熊はさらに察知し、狙いをぼくたちの腹に変える。
ぼくたちは熊の眼球の動きから、それを悟り、左ひじの装甲で、攻撃を弾こうと考える。
はためには、ぼくたちと熊は、睨み合ったまま動かないように見えるだろう。
どこかずっと遠くで、ギレアドが「なにしてる!はやく斬るんだ!」と叫ぶ声が聞こえた。
ぼくたちも熊も、じりじりと距離を詰める。
残り二歩。
そして、残り一歩。
ぼくたちは、一瞬、集中を高めた。ハード的には、リガの脳一個分、さきほどよりも処理能力があがっている。ほんのわずかだが思考速度が早まり、ついに天秤が傾いた。
ぼくたちの剣は、ゆっくりと熊の首筋をつらぬいた。




