今日から彼女は
リガは身を起こそうとして、自分が裸であるのことに気づいた。
あわてて毛布を胸元に引き上げる。
「ど、どうして貴方がこちらに?」
ヘブロンが椅子の脇に立てかけた鞘に入った剣を叩いた。
「下手人が捕まらぬ以上、信用できるものは少ないからな。わし自身が警護すべきと判断したまでだ」
「そうなのですか。でも、なぜわたしの部屋にいらっしゃるのですか?」
ヘブロンが粘土板に目を戻した。
鉄筆で何かをガリガリ書きながらいう。
「わしは、お主を警護するためにいるからだ」
小さな部屋の床の隅には、ヘブロンが使っていたと思しき毛布がきっちりと折り畳まれて置かれている。水差しに、タオル、タライ、歯ブラシ、装甲服、マント。どうやら、彼はここで寝泊まりしていたらしい。
「ヤズデギルドさんが命じられたのですか?」
「いや、わしの判断だ。わしが信頼しておる部下は、全員殿下につけた。みな、わしより強く、確実に殿下を守れる者ばかりだ。問題はお主よ。下手人の恨みをかったろうが、お主に割ける人員がおらなんだ。だから、わし自身が当たったまでだ。それにここからなら、殿下の部屋にもすぐに駆けつけられる」
リガがうつむいた。
「その、申し訳ございません」
「なにがだ?」
「その、てっきり、貴方はわたしが消えた方がよいと思っていらっしゃるのかと。それを自ら守ってくださっただなんて」
ヘブロンが粘土板を小さなテーブルに置いた。
リガの目をまっすぐに見る。
「はっきりいうが、わしはお主を疑っておった。エスドラエロンの奴隷だったというとるが、じっさいは市民であり、復讐のために追いかけてきたのではないか、とな」
ぼくはリガの背筋の毛が逆立つのを感じた。
「じゃが、お主は命をかけて殿下を守った。殿下ですら手こずるような大男相手にな。わしら歩兵にとって、仲間とは、仲間の命を守るものをいう。お主は蛮族ではあるが、紛れもなく仲間だ」
彼が傍に置いていた剣を取り、立ち上がった。
「じゃから、わしもお主を守ったまでよ」
彼が腰に差していた短剣を鞘ごと引き抜き、リガに差し出す。
「持っていろ」
リガが受け取った。
ずしりと重い。
「あ、ありがとうございます」
「では、殿下に知らせてくるとするか。お主が目覚めるのをずいぶんと待ってらしたからな」
ヘブロンが扉をあけたところで振り向いた。
「それと、今日付でお主は正式にギレアドの下に入ることになる。操縦士として励むことだな」
「では、わたしの代わりに誰かを乗せるというのは」
「中止だ。お主が起きたなら、お主を乗せるのが理にかなっておる」
扉がしまったところで、リガがつぶやいた。
"ヴァミシュラーさん!聞きました?〟
〝うん。本当によかった。ただ、ぼくに乗っても無謀な真似はさせられないよ。まだ枷があるんだから。復讐をとげても君が死んでしまうのはごめんだ〟
〝それは、わかってます。もう、馬鹿な真似はしません〟
階段を駆け降りる足音が聞こえた。
扉が開いて、部屋着姿のヤズデギルドが駆け込んでくる。
「リガ!」アリシャの仇はこれ以上ないほどの笑顔でリガを抱きしめた。




