火炎地獄
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〝穴〟は炎に包まれていた。
リガとエプスが監禁されていたのは、最上層にある石造りの建物だった。周りは貧民街〝だった〟らしく、石材や木材、細い鉄骨、錆びついた配管といった建材、それに薄い布団、ヤカン、パンのような食べ物、衣服などの生活資材が一面に散らばっていた。
巨人同士の戦いの中で踏み潰されたのだ。
敗れた白い装甲の巨人が、家々にのしかかるように巨体を横たえている。その頭部は体から数十メートル離れた家の屋根を突き破るようにして転がっていた。
ボロボロの衣服をまとった貧民たちが、悲鳴をあげ、泣き叫びながら、瓦礫を掘り起こしている。
これだけの数の家々が崩落したのだ。
何人、いや、何十人が死んだのだろうか。
リガとエプスを手のひらに乗せた巨人は、渦巻き道を早足で登っていた。宙を舞う火の粉が、熱気と共にリガの頬に打ちつける。
エプスがいう。
「ピハネス、もう少し急げ。ヤズデギルドのおチビちゃんの動きが思ったより早い」
巨人の乗り手が「これでも急いでるんだよお」と、ぼやく。
付け火だろうか、穴のいたるところで火災が起きていた。
炎に照らされ、穴全体が紅く染め上がる。
下の方の渦巻き道では、歩兵たちが別の歩兵たちと剣を交えている。
キャタピラ車が道に作られたバリケードに突進し、土嚢を吹き飛ばす。が、運転を誤ったのか、急に左に折れて道を飛び出し、家々を破壊しながら穴坂まで転がり落ちた。
横転し、キャタピラを虚しく回転させながら煙をあげる残骸を、穴底にいた茶色い装甲の巨人が踏み潰した。
その巨人目掛け、白い装甲の巨人が斬りかかる。
茶色い巨人が盾で受け止め、雷鳴のような音がリガのいるところまで聞こえてきた。
茶色い巨人が、手にした斧で相手の首を狙うが、今度は白い巨人が盾で止める。
二機の巨人の激しい剣戟により、近くにあった貴族の大邸宅がみるみる崩れていく。外壁が崩れ落ち、尖塔がへし折れ、バルコニーが吹き飛ぶ。
家人が手を振り回しながら飛び出してきたものの、運悪く茶色い巨人のかかとが当たり、百メートルは吹き飛ばされた。もちろん即死だろう。
何十機という数の巨人たちが、そこここで死闘を繰り広げている。
とくに戦闘が激しいのは穴底の一角、軍学校の周辺だ。白い巨人たちが円陣を組み、襲いくる茶色い巨人たちと切り結んでいる。
円陣の中心にあるのは、ヤズデギルド率いる第十軍団の〝母艦〟だ。
すべての格納庫の扉が全開にされ、出撃準備の整った巨人たちが、続々と出てきて戦線に加わる。
第十軍団の巨人たちの円陣は、茶色い装甲の巨人たちを着実に斬り倒しながら、じょじょに輪を広げていく。
強い。
都市の各所に散っている白い機体は、軍学校の生徒たちが操っているせいか敵に押されがちだが、第十軍団は逆に圧倒している。
母艦のなかから、紅い装甲の機体が出てきた。
ヤズデギルドのジズだ。
盾は持たず、日本刀のような細身の剣を片手にぶら下げている。ジズはそれをゆっくりと持ち上げると、刃先をエプスとリガに向けた。
「よく見ているな。我々が逃げたことに気づいたようだ」と、エプス。
白い巨人のうち五機が、円陣を離れ、市街を駆け上がってくる。とはいえ、建造物を極力壊さないように注意しているらしく、速度はあがらない。
エプスがいう。
「ピハネス、上にいる連中をもっと入れるんだ。叔父上に、出し惜しみしている場合ではないと伝えろ。ついでに、わたしのメフォラシを持ってくるようにとな」
リガたちを運んでいる巨人のパイロットが、スピーカー越しにいう。
「なんで、もっといるって知ってるんだい? あいつら、若殿さまが捕まってる間に来たのに」
「いつもいっているだろう? わたしにはすべてが見えているのさ」
まもなく、渦巻き道の地上出入り口から、ぞろぞろと新手の巨人が湧き出した。三十機、いや、四十機はいる。すべての機体が真っ黒な装甲をつけている。
二機の巨人が、一機の巨人をリガたちの前に運び、路面に横たえた。
ヤズデギルドのジズにそっくりな紅の装甲をした巨人だ。
リガたちを手のひらに乗せた巨人が、その手を紅の巨人のコクピットに近づける。
エプスがいう。
「さて、いっしょに乗っていくかい?」
「どこにですか?」
「君のお友達のところさ。彼がいてこそ君の真価は発揮される。だろう?」




