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第96話 空君が帰ってきた!

 空君は2学期が始まっても、まだハワイから帰れないでいた。空君の担任がクラスのみんなに、

「相川はハワイで事故にあって、しばらく休むそうだ」

と告げると、空君ファンの女の子たちは蒼然としたらしい。


「空君、事故って大丈夫なのかな」

 放課後、昇降口に行くと、そんな声が聞こえてきた。

「あ。空君の彼女の榎本先輩がいる。詳しく知っているのかな、聞いてみる?」

「…平気で学校に来ているんだね」


 そんな声がする中、私は千鶴と昇降口を出た。

「あ、榎本先輩」

 校門のところまで来ると、黒谷さんが私たちを待っていた。

「黒谷さん!この前はありがとうね」


「いいえ。あのあと、空君、どんどん回復したみたいでよかったですね」

「うん。あれ?私、メールしてないよね」

「碧君からメールが来て…」

 あ、碧ったら、黒谷さんとちゃっかりメル友になっちゃったんだな。


「それにしても驚きだよね。幽体離脱なんて初めて聞いた」

 私たち3人は、駅に向かって空君のことを話しながら歩き出した。そんな中、千鶴がそう言うと、

「私も子供の頃、一回体から出ちゃったことがあります」

と黒谷さんが話だし、私と千鶴は驚いてしまった。


「体から出た?」

「あ。はい。ベッドで寝てたら、なんかふわっと浮いた感じがして、ベッドで寝ている自分が見えちゃって。怖くて慌てて体に近づいたら元に戻れたんですけど」

「ひゃあ。空君といい黒谷さんといい、なんかすごいね」

 千鶴はもっと目を丸くした。


「空君、まだ帰って来れないんですか?」

「ううん。明日帰ってくるよ。脳の検査をしても異常がなかったみたいだし」

「よかったですね!」

「うん!」


 そんなことを話しながら駅に着くと、改札口になぜか鉄がいた。

「あれ?朝、いなかったけど休みじゃなかったの?」

 千鶴が聞くと、鉄はちょっとむくれながら、

「寝坊で遅刻」

とぶっきらぼうに答えた。


「何それ~~。夏休みボケ?」

「昨日、空からメール来て。ハワイで事故って明日学校には行けないって書いてあったから、すげえびっくりして。それで、夜なかなか寝れなくなって寝坊です」

 まだ、鉄の顔はむくれたままだ。なんか、怒っているみたいだな。


「空君からメールがいったの?」

「俺、まったく事故にあったなんて知らなかったから。みずくせえっていうかさ…。榎本先輩、教えてくれても…」

 あ、それでむくれていたのか。


「ごめん。気が動転していたんだ。それに、空君以外のこと考えられなかったの」 

 そう言うと鉄は、悲しげな顔をして私を見た。

「しょうがないって、鉄。凪は空君のことでいっぱいなんだから。ね?」

 千鶴がそう言うと、鉄は頭をもたげてしまった。


「はあ…。わかってますよ、小浜先輩。諦めろって言いたいんでしょ?俺も、空の事故のことを聞いて、すげえ動揺したって言うか心配したって言うか。なんか、俺にとっても空って、大事だったんだなあって思い知ったし」

「大事?」


 私が聞くと鉄は黙って頷いた。

「榎本先輩と空の邪魔はもうしない。お似合いだっていうのは、前からわかっていたし。もう、諦める」

 鉄の声は小さかったけど、顔はやけに清々しく見えた。


「星の数ほど女はいるって。鉄」

 そんな鉄に、千鶴が肩をぽんぽんとたたきながらそう言った。

「小浜先輩は、あのちゃらそうなのとまだ付き合ってるんすか?」

「小河さんのこと?ちゃらくないよ!もう~~。ちゃんとお付き合いしてるもん」


 千鶴はそう言ってから、ぽっと顔を赤くした。

 あれ?

 なんか、あったのかな。


 空君の事故のことや、幽体離脱のことは千鶴にもメールしたり電話したりして話していたけど、千鶴の話はそういえば、ずっと聞いていなかったっけ。

 

 黒谷さんはそこから、私たちとは反対の方向に向かう電車に乗り、私、千鶴、鉄は一緒の電車に乗り込んだ。鉄はちょっと私たちから離れ、一人で黙って外を眺めていた。


「千鶴、小河さんと何かあった?」

 小声でそう聞いてみると、

「う、うん。ここじゃ話しにくいから、今度話す」

と千鶴はそれだけ言って、顔を赤くして黙り込んでしまった。


 まさかと思うけど、まさかね。なんかものすごく進展しちゃったんじゃないよね…。だけど、千鶴の赤くなった表情は、今までの千鶴とどこか違って見えて、一気に千鶴が手の届かない大人になっちゃったようにも見えた。

 

 翌日、空君家族がハワイから帰ってきた。

 私は学校を休んで、空港に迎えに行きたかった。でも、空君に、

「伊豆で待ってて。伊豆に着くのは夜になると思うし。空港に着いたらメールするからさ」

と、電話で話した時に言われていた。


 一秒でも早くに会いたいのに。そう思ったけど、伊豆で大人しく待っていることにした。


 そして、夕方、

>凪、無事に成田に着いた。これから帰るから。

という空君からのメールが来た。


>おかえりなさい。まりんぶるーに寄るの?私、どこで待っていたらいいかな?

>まりんぶるーに行くって母さんが言っていたから、店で待ってて。

>わかった!気をつけて帰って来てね。

>うん。


 空君が帰ってくる!嬉しい。

「ママ、空君が成田に着いたって。まりんぶるーに寄るって言うから、私、お店に行ってるね」

 夕飯の準備に取り掛かろうとしていたママにそう言うと、

「そうなの?あら。じゃあ、みんなでまりんぶるーに行こうか。碧も塾から帰ったら、まりんぶるーに来てってメールする」

と、ママはさっそく碧にメールを送った。


 パパにもまりんぶるーで夕飯にしようと、ママはメールを送り、私とママは一緒にまりんぶるーに行った。

 

「あ、凪ちゃん、桃子ちゃん」

 まりんぶるーは「貸切」の札が下がっていて、お店に入ると、爽太パパとおじいちゃんが飾りつけをしていた。


「あれ?誰かの誕生日祝い?でも、8月のお祝いは前にしたし…」

 そう私が聞くと、

「春香たちのお祝いだよ。退院祝いって言うか、帰国祝いって言うか、まあ、とにかく無事に帰ってきたことをみんなで祝おうと思ってさ」

と、おじいちゃんがにこやかな顔でそう言った。


「そうなんだ!私も手伝う!」

 私は飾り付けの手伝いをし始め、ママはキッチンに行って、くるみママの手伝いをした。


「良かったわよね、空君。一時はどうなることかと思ったけど」

 くるみママがそう言うと、

「空、意識だけ凪ちゃんのところに来ちゃったんだって?」

と、爽太パパが私に聞いてきた。


「うん、そうなんだ」

「そんなことって、あるのねえ」

そう言ってから、くるみママはちょっと目を潤ませ

「でも、本当に無事でよかった。ね?凪ちゃん」

と私に微笑みかけた。


「うん!」

 くるみママも、爽太パパも、すっごく心配したんだろうな。

 おじいちゃんもだけど、おばあちゃんも、心配でしばらく元気をなくしてしまったらしいし。


 おばあちゃんのことが急に気になり、私はいそいそとリビングに行った。

「おばあちゃん?」

「凪ちゃん、来ていたの?」

「うん。大丈夫?空君の事故以来、おばあちゃんが元気なくしてるって聞いたけど」


「大丈夫。空君が帰ってくるんだもの。もう元気になったわよ」

「よかった~~」

「…私は大丈夫よ。心配したけど、圭介もくるみさんも爽太もいたし。それより、凪ちゃんは大丈夫だった?」

「うん。空君、意識だけ飛んできてくれたし」


「そうなのね…。それだけ空君も凪ちゃんが心配だったのね」

「…自分のほうが大変な時だったのに、来てくれたんだよね」

「そうね。会いたかったのね、きっと」

「……おばあちゃん」


「なあに?」

「また、空君とあとでここに来るから、ハワイの綺麗な写真見せてもらおうね」

「そうね。楽しみだわ」

 私はリビングをあとにして、お店に戻った。ちょっと、おばあちゃんの顔色が悪かったのが気になったけど。


 そして、碧もまりんぶるーに来て、みんなで空君たちが帰ってくるのを待った。


「あ、タクシーだ。空じゃない?」

 碧が店の窓から外を見てそう言った。

 私はその声と同時くらいにお店を飛び出した。後ろから碧も飛び出してきた。


「空君!」

「凪!」

 タクシーから初めに降りてきたのは空君だった。


「空君!!!!」

 私は思い切り空君に抱きついた。

「凪!」

 ギュウ。空君も抱きしめてくれた。


「凪本体だ」

「え?」

「意識だと抱きしめても、この感触味わえなくって。やっと凪を抱きしめられた」

 空君はそう言うと、またギュっと私を抱きしめてきた。


「空君!」

 ぽろぽろと涙が出た。嬉しくて、恋しくて、愛しくて、涙は次から次へと溢れ出てなかなか止まらなかった。

「凪、ごめんね?心配かけて」

「ううん」


「空!おかえり」

 私と空君が離れると、碧が今度は空君をハグした。そのあと、お店からママやくるみママ、爽太パパも出てきて、替わりばんこに空君を抱きしめていた。


 タクシーから、春香さんと櫂さんも降りてきて、くるみママと爽太パパは春香さんとも抱き合った。そして、荷物を爽太パパは持って、櫂さんと一緒にお店に入って行った。


 私はまたすぐに空君の腕にしがみついた。

 ああ、空君だ。空君のぬくもりだ。そして空君のあったかい優しいオーラだ。


 空君の顔を見た。空君は私のほうを見ると、にこっとはにかんだ笑顔を見せてくれた。

 この笑顔だ。空君のはにかんだ笑顔、ずっと見たかったの。


「空君!大好き」

 そう言って抱きつくと、

「凪…。えっと、そろそろ店に入ろう?」

と照れくさそうに空君はそう言った。


 お店に入ると、おじいちゃんが春香さんと抱き合っていて、そして、

「空!無事に帰って来れて良かったな!」

と空君のことも抱きしめた。


「一番重症だったけど、若さね、回復力は半端なくって。私と櫂の怪我のほうが長引いちゃってるの」

 春香さんはそう言いながら椅子に腰かけた。


「大丈夫なのか?春香」

 爽太パパが聞くと、

「うん。なんとか帰れるまでは回復できた。でも、ごめん。足怪我したから、しばらくまりんぶるーはお休みしてもいい?」

とすまなそうな顔をしてそう聞いていた。


「それは大丈夫よ。店のことなんて心配しないで、ちゃんと怪我を治して、ね?」

 くるみママが優しくそう言うと、

「ありがとう」

と春香さんは嬉しそうにくるみママに答えた。


「春香さん、おかえりなさい」

 ママが春香さんのそばに来て、春香さんにそう言うと、

「桃子ちゃん、お腹に赤ちゃんいるのに心配かけてごめんね」

と、また春香さんは申し訳なさそうな顔をした。


「大丈夫。お腹の赤ちゃんが守ってくれてるって、そう空君から聞いているし」

「そうそう。空、幽体離脱して、凪ちゃんのところに行っちゃったんだってね?そんなの夢を見ただけだって私も櫂もそう思っていたのに、本当のことなんだって?」

 春香さんはいつもの明るい笑顔に戻り、そう聞いてきた。ああ、足は怪我しているとはいえ、いつもの元気な明るい春香さんでよかった。


「そうなんだよ。俺もびっくりして」

 そこに碧が話に入り込み、わいわいとみんなで話し出し、一気にまりんぶるーの中は賑やかになった。

 すると空君が、こそこそした感じで私のそばに来て、

「凪、リビングに行っておばあちゃんに会いたいんだ。ついてきてくれる?」

と、耳打ちしてきた。


「うん」

 おばあちゃんは、足を悪くしてから、めったにお店には顔を出さない。今日もパーティが始まったら顔を出すだろうけど、まだリビングにいるみたいだ。


「おばあちゃん、ただいま!」

 空君が元気にリビングのドアを開けて、おばあちゃんにそう言うと、おばあちゃんは空君を見て、はらはらと涙を流した。


「空君、おかえり。無事でよかった。こっちに来て顔をよく見せて!」

「うん」

 空君はちょっと恥ずかしそうに、おばあちゃんのすぐ隣に座った。


「心配かけてごめん」

「ううん。こうやって元気な姿が見れて嬉しいわ」

「おばあちゃん、痩せた?もしかして俺たちの心配して、痩せちゃった?」

「ちょっと食欲がなくなったけど、大丈夫。空君の顔を見たら、一気に元気になったから」


 それから、空君は背負っていたリュックをおろし、その中からデジカメを取り出して、おばあちゃんに見せた。

「まあ、綺麗ね~~。綺麗な夕日」

「綺麗でしょ?これは、マウイ島で映した夕日なんだ」

 そんな会話をおばあちゃんと空君がしていると、春香さんと櫂さんもリビングに来て、

「お母さん、ただいま」

と、おばあちゃんに声をかけた。


「春香!足、大丈夫なの?」

「うん。何針か縫ったけど大丈夫」

「櫂さんは?」

「俺も、足を打撲して、腕に怪我しましたけど、仕事に差し支えるほどでもないし、すぐに店を開ける予定です」


「無理はしちゃ駄目よ」

「お母さんも、顔色悪くない?私たちのこと心配して、具合悪くなったって聞いたけど」

「…大丈夫。みんなの元気な顔を見て、安心できたから」


「お父さんが心配してたよ」

「大丈夫。圭介が心配症なだけだから」

「おばあちゃん、ごめん」

 また、空君が突然謝った。


「ううん。それより空君、写真もっと見せて」

 おばあちゃんは、顔を曇らせている空君に、優しくそう言った。


 30分後、パパもまりんぶるーに到着して、リビングにやってくると、空君をやっぱり思い切り抱きしめた。 

「空~~!良かったな、体に戻れて」

「すみません、心配かけて」

「いや。こうやって帰ってきたんだから、良かったよ。さ、パーティ始まるから、お店に移動しよう」


 そして、おばあちゃんと私たちはお店に移動して、パーティが始まった。


「生還、おめでとう!」

「生還って…。まあ、いっか。ありがとう」

 櫂さんは、パパの言うことに何かつっこもうとしながらも、にこりと笑い、そしてみんなで乾杯をした。


「本当に良かった、空。空が意識不明だって聞いた時、凪が変なになって、どうしようかと思ったよ」

 パパが空君にそう言うと、

「あ、俺、そんときいたから知ってます」

と、空君は私を見ながらそう答えた。


「そうなんだ。じゃあ、ずっと凪のところにいたのか」

「はい。凪が動転しているのを見て、なんとかしてあげたいって思ってたんです。そこに黒谷さんが来てくれたから、凪にちゃんと伝えることができて」


「ああ。黒谷さんって、霊感があるんだってね。それで、幽体離脱したお前の魂まで見えちゃったなんてすごいよなあ」

 櫂さんはそう言いながらビールを飲んだ。


「櫂、飲み過ぎは駄目よ。怪我が完治したわけじゃないんだからね」

「春香、ちょっとくらいいいじゃん。ずうっと酒も飲まずにいたんだからさ」

「そうそう。一缶だけは許してあげて」

 パパがそう言うと、春香さんは、

「コップ半分ね!」

と、半分だけビールをついだグラスと、櫂さんが持っていた缶ビールを差し替えてしまった。


「このビールはじゃあ、俺が飲む」

 パパがそう言って、残っていたビールをゴクゴクと飲んだ。それを櫂さんは羨ましそうに見ていた。そしてまた、わいわいとまりんぶるーの店内は賑やかになった。パパがいる分、賑やかさは倍増していたかもしれない。


 私と空君と碧は、料理を食べ終えると、おばあちゃんと一緒にリビングに戻った。

「そうだ。碧と凪にお土産があった」

 空君はそう言って、リュックを開けて中から袋を出し、私たちに渡してくれた。


「あ!空君が着ているTシャツと色違い!」

 今、空君が着ているのは、可愛い黄緑色のTシャツで、私はオレンジのTシャツだった。

「うん。俺とお揃い」

 空君は照れながらそう言った。


「嬉しい!これ、スカイプした時に空君が着ているのを見て、可愛いなって思っていたの。すっごく嬉しい!ありがとう」

「どういたしまして」

 にこ。空君が可愛い顔で笑ったから、私は思わず抱きついてしまった。


「あ、えっと、凪。う、嬉しいんだけど、その」

 あ、照れてる。可愛い。だから、なかなか離れられない。

「俺のは帽子だ。これも可愛いじゃん」

「碧に似合うと思ったんだ」


 私は空君から離れて、碧を見た。碧はさっそくもらった帽子をかぶってみせた。

「本当だ。碧に似合ってるよ」

「サンキュ、空」


「おばあちゃんには、これ。何がいいかわかんなくてごめんね。じいちゃんとおそろいのストラップなんだ」

 空君はリュックから小さな袋を取り出し、おばあちゃんに渡した。

「まあ、可愛いストラップね。ありがとう」

 中身を取り出し、おばあちゃんがそう言うと、空君はまた可愛い笑顔を見せた。


 は~~~~。可愛いよ。頭に巻いた包帯がちょっと痛々しいけど、でも、笑顔は変わらず可愛いな。


「空、その包帯はいつ取れんの?」

 碧が聞くと、空君は、

「明日こっちの病院行って、それからかな。ほとんど、傷も閉じてるし、おおげさに包帯を巻くほどじゃないんだけどさ」

と笑顔で答えた。


「傷?頭打った時にできたの?」

 私が空君の頭を見ながらそう聞くと、

「うん。ぱっくり切れちゃって、何針か縫ったんだ」

と、空君はまた何事もなかったような笑顔でそう答えた。


「ぱっくり?」

 碧が青ざめた。おばあちゃんも、顔をしかめたけど、当の本人の空君は、笑顔のままだ。

「うん。でも、血が出て良かったんだって。内出血のほうがやばいらしいし。それに、外傷だけで済んで、脳には別に異常もなかったしさ。これだけで済んでよかったですねって、医者に言われた。意識不明になったから、相当脳にダメージでもあったのかって、医者も心配したらしいよ。血もドクドク出ちゃっていたらしいし」


 血がドクドク。わ~~~。聞いてて私まで血の気が引いた。

「意識不明ってのは、意識が体から抜け出てたからなっただけで、たいして俺は重傷なわけじゃなかったんだよね。母さんのほうが、足の怪我ひどかったし、いまだに引きずってるし…。年も年だから、治りも遅いかもなあ」


「春香が?」

「あ、おばあちゃんは心配しないでもいいよ。ひどいって言っても、後遺症とか残ったりしないって。ただ、縫った後がちょっと残る程度って言ってたから」

 おばあちゃんはほっと安心した顔をした。


 空君は、ソファに移動した。私もその隣に座り、碧はおばあちゃんの隣に、まるでおばあちゃんに寄り添うみたいに座った。

 確かにおばあちゃんの顔色は悪かった。ちょっと痩せた気もする。それを碧も感じて、すぐ隣に座ってあげたのかもしれない。


 ふわ…。空君からあったかいオーラが来て、私はもっと空君にひっついた。

「あ…」

 空君は私の頭上を見た。もしかして今、光が出ていたのかな。


 でも、空君は頭上だけじゃなく、私の体の周りも見て、

「光、パワーアップしてるね。体中から出てるけど、どうして?」

と私に聞いてきた。

「え?知らないよ~~。でも、きっと空君に会えてすっごく嬉しいからかも」


 そう言うと空君は、照れくさそうに笑い、

「おばあちゃんも、あったかくて気持ちいいでしょ?顔色よくなったし、今、おばあちゃんまで凪の光に包まれてるよ」

と、そう空君はおばあちゃんに言った。


「本当に体の芯があったかくなったわ。凪ちゃん、ありがとうね」

「ううん」

 そうか。空君だけじゃなくて、おばあちゃんのことも思っていたからかな。


 リビングがまた、いつものあったかい、ゆったりとしたリビングになり、みんなでしばらくそこでくつろいでいた。



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