表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/142

第90話 ママと碧と私

 私、空君に今、胸、思い切り触られてるかも。

 パッ。あ、手、離した。それから空君を見ると、みるみるうちに赤くなり、そして、

「ごめん!」

と言って、私から思い切り離れ、バツの悪そうな顔をして私を見た。


「え?うん」

「………な、凪?お、怒ってない?」

「……う、うん」

「なんで?」


「え?なんでかな」

 空君に、胸、触られちゃった。っていっても、胸の上に手を重ねただけ…。もしかして、私の反応を見るためかな。私が空君のこと、男として意識してるかどうかの、確認かな。


 じゃあ、怒ったほうが良かったのかな。きゃあって、恥ずかしがったり、嫌!って言って、ほっぺたくらいたたいたほうがよかったかな。

 でも…。でもなあ…。


「凪?」

 空君はまだ、私から距離を置いたところに立っていた。私はその隣にてくてくと歩いて行き、また腕を組んだ。

「え?凪?」

「なんでだかわかんないけど、空君だと私、怒ったりしないみたい」


「…な、なんで?やっぱ、男って見てない?最近、あれだよね。一緒にいてもドキドキしたりもしてないよね?」

「え?」

 そう言えば。でも…。

「でも、こうやってくっついているのが、嬉しいし幸せなんだけど。それじゃ、駄目?」


「……う、う~~~ん」

 空君はまだ、顔が赤い。

「ドキドキはしてるよ。でも、くっついていたいんだもん。それじゃ、駄目?」

「う、う~~~ん。わ、わかんないけど。凪って、俺のことどう思っているのかなって、ちょっと不安にもなったり」


「え?なんで?大好きなのに」

「うわ。わ、わかった。今、光がどわっと出たから、それだけでもわかった」

「……そうだよ。大好きなのにな…」

「だ、だよね。ああ、そういえば、さっきも、光が変わらず出てたっけ」


「さっきって?」

「凪、俺に引っ付いたときも、すごい光が出て、そのあと、俺が胸触っちゃっても、その光が消えなかった」

「…そ、そうなの?」

 きゃ~~。それって何?なんか、触られて喜んでいるみたいじゃない?


 か~~~。ああ、顔が熱い。

「あれ?今頃、恥ずかしがってるの?顔、赤いけど」

「は、恥ずかしいよ。私、嬉しいと光が出るんでしょ?空君に触られて喜んでいたみたいじゃない…。恥ずかしいよ」

 そう言うと、空君までが真っ赤になった。


「ご、ごめん。もう、触りません」

 え?

「いいのに。空君なら」

 そう思わず口から出てて、私は慌てて口を閉じた。でも、私より空君のほうが何倍も慌てていた。


「し、しない。しないから」

 そう言って、首をぐるぐると横に振っている。

 そこまで、否定しなくても…。でも、そんな空君も可愛い。


 ギュ!

「あ。だから、凪、む、胸が腕に…」

 そう言って空君は固まった。


 そういえば、パパに、空君を襲うなって言われていたんだった。これ、襲っているわけじゃないよね?

 パパにどこかで見られていたら大変…と思い、その場では空君から離れた。

 あ、でも、パパは仕事中か。


 また空君にひっつこうとしたけど、空君が真っ赤になっててくてくと歩き出してしまったので、ひっつくことができなくなり、私は空君を追いかけた。そして、空君の手をどうにか取って、そこからは手を繋いで歩いた。


「空君と手を繋いでいるのも、嬉しいんだ!」

 そう言うと、空君は、

「それもわかってる。今も、光出まくってるから」

と、赤くなったまま、そう呟いた。


 家まで送ってくれて、空君は照れながら、

「じゃ、また明日。まりんぶるーでね」

と言って、走って行ってしまった。


 あ~あ。夕飯でもどう?って聞きたかったのに、その前に帰って行っちゃったなあ。 

 来週は、空君、ハワイなのに。ずっと会えないのに。だから今、思い切り一緒にいたいのになあ。


 ちょっと寂しくなりながら、家の中に入った。リビングではごろごろしながら、碧がマンガを読んでいた。ママはソファで、編み物をしている。


「碧、勉強は?」

「ちゃんとしたよ」

「ほんと?黒谷さんに教えてもらったところも、ちゃんとわかったの?」


「………」

 あれ?顔、膨れっ面だ。

「どうかした?碧」

「別に~」


「ずっと、碧、ふくれてるの。何かあったの?凪」

 ママが聞いてきた。

「え?私が聞きたい。あ、彼女となんかあったとか?」

 私は碧が転がっている隣に座ってそう聞いた。


「彼女とは、何日も話してない」

「それでむくれてるの?」

「いや。別に。逆に、ほっとしてる」

「なんで?」

 ママがびっくりしてそう聞いた。


「だ、だってさ。今まで、ずっとなんとかしないとって、話しかけるタイミングをはかったり、彼女と同じクラスに入ろうと必死に勉強してたけど、一回、リセットしようと思ってみたらさ、すごく楽になったから」

「リセット?別れるの?」

 私がそう聞くと、

「多分。でも、そういう話も夏休み開けてから、彼女とは話すから」

と、淡々と答えた。


「別れちゃうんだ…」

 ママが、ぽつりとそう言った。

「じゃあ、何が原因でむくれてるの?」

 私がそう碧に聞くと、

「ん~~~。黒谷先輩」

と、碧はぼそっと小声で呟くように言った。


「文江ちゃん?」

 ママが碧に、不思議そうな顔をして聞いた。

「なんか、俺、嫌われてるよね?やっぱり」

「文江ちゃんに?何かしたの?碧」


「した覚えはないけど、避けられてるよなあって、今日も思った。勉強教えてもらってる時も、顔、思い切り遠ざけながらしゃべるし…」

「そうだった?でも、顔赤くして、一生懸命って感じだったよ?」

 ママがそう言うと、碧は、私とママの顔を交互に見た。


「赤かった?それって…。単に赤面症だからとかじゃないの?」

「え~~~。そうかな。文江ちゃん、なんか、碧のこと気になっている感じだったけどな」

 うわ。ママ、そんなこと言っちゃっていいの?!


「母さん、そんなふうに見えたんだ。凪は?どう思う?」

「私は…。わ、わかんないなあ。女心って複雑だから」

 知っているからこそ、言えない。本当は言いたいくらいなんだけど。


「そうよ、碧。女心は複雑なの。好きだから、わざと避けたり、恥ずかしいから、顔遠ざけたり、ドキドキしちゃうから、近づけなかったり、目を合わせるのも、すっごく勇気がいったり。ママなんて、聖君に話しかけることすらできなかったんだもん」

「…。ふうん」


「だけど、嫌っているとしたら、まずうちになんて来ないんじゃない?」

 ママがそう言うと、碧の表情がどんどん明るくなっていった。

 あれ?黒谷さんに避けられてるかどうかって、そんなに碧には重大なことだったのかな。


「そ、そういうのってさ。どうしたらいいの?母さん」

「何が?」

 質問の意味がわからず、ママがキョトンとした。


「だから、避けられ続けたら、俺、どうしたらいいの?」

「さあ?」

「さあって…。父さんはどうしてた?」

「聖君は…。ママの話す声が小さいと、ちゃんと近くに来て聞いてくれたり。聖君の方から、近くに来てくれたかな…」


「へ~~」

「ママが恥ずかしくて、一緒にいても話をするだけで精一杯だったり、近づかれるだけで、慌てたり、ちょっとパニくったりしてても、聖君、いつも、可愛いって言って、ムギュって抱きしめて来たり。手を繋いできたり、引っ付いて来たり…。聖君のほうからしてくれたからな~」


「パパのほうが積極的だったんだ」

「え?う、うん。積極的って言うか、素直に表現したり、行動しててくれてたって言うか。ママ、なかなか素直になれなかったり、恥ずかしがったりしていたから」


「ふ~~ん。じゃあ、凪から空に抱きついて、空が真っ赤になってかたまって、っていうパターンの男女が逆転した感じか~」

 碧はそう言ってから、

「あ、じゃあ、俺から父さんみたいに、積極的に行けばいいのかな」

と唐突に言いだした。


 ちょっと。なんで私と空君のことを例に出してくるの?

「え?誰に?もしや、文江ちゃんに?」

 ママが、私と空君のことはほっておいて、碧にそう顔を近づけ聞いている。


「え?うん」

 碧も素直に頷いたぞ。

「それ、文江ちゃんが好きってこと?碧。好きじゃなかったら、碧からモーション掛けたら、文江ちゃん、勘違いするって言うか、あとで傷ついちゃうよ?」


「…え?」

 一呼吸おいてから、碧は、顔を真っ赤にさせた。

「え?真っ赤だよ、碧。どうしたの?」

 私はその顔を覗き込み、そう聞いてみた。


「俺、あれ?好きなの?え?」

 うわ。自分でもわかってなかったんだ。

「でも俺、彼女とまだ、別れてもいないし」

 相当、慌ててる。寝っころがっていたのに、いきなり起きて正座しているし。


「それに、ついこの前まで他の子のことで悩んでいたのに、すぐにまた別の子、好きになったりする?」

 ちょっと顔が青ざめだしたぞ。


「するよ。聖君だって、最初、菜摘が好きで、血がつながっているのを知ってショック受けてたはずなのに、知らない間に、ママと付き合うようになって、その頃にはママのことも好きになっていたみたいだし…」

「あ、父さんも…。そんなに早く心変わりってあるんだ」


「だけど、聖君が言うには、菜摘に対しての気持ちと、ママに対しては違ったみたいだよ?」

「どう違ってたの?」

 私が気になり聞いてしまった。


「女の子が苦手で、菜摘ともなかなか話せなかったらしいんだけど、ママにはそういうの、はじめっからなかったみたい」

「…女として見られていないとかじゃないよね」

「凪~~~。自分の母親に向かってそれはひどい」


 あ。ママが落ち込んじゃった。

「ごめん!だから、女として見られていないとかじゃなくって、ママが特別だったんだよねって言いたかったの」

「……ママ、本当に女っぽくなかったし、マルチーズとか、ポメラニアンに似てるって言われてたけど」

「それだけ、可愛かったんでしょ?ママのこと。私、パパの気持ちわかるもん」

「え?わかるって?」


 ママと碧がちょっとびっくりして同時に聞いてきた。

「だ、だから。私も、空君のこと、男としてみていないわけじゃないんだ。でも、可愛い!ってなっちゃって、抱きついちゃうの。隣りにいて、話をしなくても平気だし、隣にいるだけでいいの。幸せなの。きっと、パパもそうだったんだろうなって、そう思ったから」


「…パパの血を継いだんだね、凪は…」

 ママにぽつりとそう言われてしまった。


「そっか。俺、そういうのはなかったかな」

「彼女に対して?」

「うん。隣りにいるだけで幸せとか、そういうのはないかな。可愛いなとは思ったりもしたけど…。でも、でもなあ」


「何よ、碧」

 私がそう聞くと、碧は頭を掻いた。そしてまた、ゴロンと横になった。

「よくわかんない」

「え~~~。じゃあ、文江ちゃんのことはどうするの?碧」

 ママが聞いた。


「…………。それもよくわかんない。でも…」

 碧はまた、顔を赤くした。

「黒谷先輩とは、もうちょっと仲良くなりたいかな…って、ちょっと思ってる」


「え?」

「俺、高校は先輩と同じところ行く予定だし。だから、まあ、今すぐにどうにかしなくてもいいかなって」

「そんなこと言ってて、碧が入ってくるころまでに黒谷さん、他に好きな人ができたらどうすんの?」

「え?」


 あ、碧の顔、青くなった。

「……」

「うそうそ。大丈夫だよ。受験勉強頑張って、うちの高校入ってね。あ、なんなら、天文学部入りなよ。空君もいるし、黒谷さんもいるよ」


「天文学?でも俺、バスケ続けようと思っていたんだけど。じゃなきゃ、軽音」

「じゃあさ、碧。なるべく黒谷さんをうちにつれて来たりするからね」

「え?」

「ね?」


「う、うん」

 あれ?また顔が赤くなった。面白いなあ。


「あ、凪、明日ママ、パパが仕事休みだから、検診に行ってくるけど、一緒に来る?」

「え?でも、バイト…」

「午前中で終わるよ。11時半には帰ってこれると思うよ?」

「じゃあ、行く!」


 わあ。嬉しい。エコーで赤ちゃん、見れるんだ。

「俺も行きたい」

「碧は塾でしょ?」

「ちぇ」


 ママに言われて、またふくれちゃった。でも、

「凪、今度はいつ、黒谷先輩うちに来る?」

とすぐに顔を赤くした。


「じゃ、またすぐにね」

「う、うん」

 黒谷さん、また呼んじゃおう。もう来ないって言ってたけど、どんどん呼んじゃおう。


 来週は空君いなくって寂しい思いをするかもって思っていたけど、ちょっとわくわくしてきちゃった。あ、他人事だからって、ワクワクしちゃ悪いかな。でも、恋をするって、なんだか人のことでもドキドキしちゃうよね。


 自分の恋もだけど、黒谷さんの恋も、うまくいくといいなあ。

 そして、碧も…。


 ママを見たら、ママは優しい目で碧を見ていた。そして、お腹を優しくさすった。

 

「ねえ、赤ちゃんの名前、どうする?」

 私が突然そう言うと、

「まだ、考えてないの。聖君はいろいろと考えているみたいなんだけど」

と、ママは優しく自分のお腹を見て答えた。


「どんな名前考えてるの?パパは」

「海にちなんだ名前をあれこれ。マリンとか、アクアとか」

「え~~。なんかそれって、俺は嫌かも」

 碧がそう言うと、

「じゃあ、何て名前がいいと思うの?碧は」

とママが聞いた。


「海にこだわらなくてもいいじゃん。凪、碧って、漢字一文字なんだから、次の子も漢字一文字でいいんじゃない?あ、こうなったら、海。榎本海」

 海に思い切り、こだわっている名前じゃないか。おい。


「うみ?かいって呼ばせないの?」

「だって、櫂さんと同じになっちゃうから」

「そうだよね」

 ママはそう言って、

「うみ…か~~」

と呟いた。


「女の子でも、男の子でも?」

 私が聞くと、碧は首をかしげた。

「まあ、別にうみにしないでもいいし。他には…。いつだっけ?2月だっけ?生まれるのは」

「うん。2月」

 ママがにっこり微笑みながら答えた。


「2月。じゃあ、冬だから…。その日に雪が降っていたら、雪っていうのもいいかも」

「雪ちゃん?可愛いね」

「うん、女の子ならその名前もいいな!」

 ママの言うことに私も碧も喜んだ。


「アルプスの少女ハイジの山羊みたいで可愛いよね、ユキちゃん」

 ママ。例えがとっても少女チック。

「男の子だったら?」

 碧が聞いてきた。


「雪君はおかしいか。じゃあ、せつって呼ばせる?」

「え~~。凪、変だよ」

「じゃあ、碧が考えなさいよね」

「もうこうなったら、陸とかどう?」


「海から陸?でも、パパがどう思うか。パパ、海好きだから」

「陸君、かっこいいけどね?」

 ママがそう言うと、碧は、

「だろ?ほらな!」

と、ドヤ顔を私にした。


「でも、パパが…」

「航海の航ってかいて、こうって読むか、わたるって読むのもいいかもよ」

「それなら、海のイメージかもね、碧」

 ママがまた碧の言うことに賛同した。


「雫とかも可愛いな。女の子でも男の子でも。雫ちゃん、雫君」

「れいんどろっぷすにちなんで?」

 私の言葉にママがそう聞いてきた。

「うん!」


「なんだよ。なんか、いっぱい候補が出てきたじゃん。マリンやアクアよりも、いいよね」

「それを言ったら、聖君、落ち込みそう」

「もっといろいろと考えちゃおうよ。なんか、楽しくなってきた」

「俺もだけど、最近、凪もお気楽になってきたね」


「そうかな。碧には負けるよ」

「ふ~~んだ。俺より凪だろ、お気楽人間」

「碧のほうだよ!」


「まあ、まあ。それより、名前」

 ママにそう言われ、私と碧はまた、考えだした。

 

 来年の2月には生まれてくるんだ。なんだか、不思議な感じがする。でも、すごく楽しみだ。

 赤ちゃん、元気に生まれて来てね!みんな、待ってるからね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ