表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/142

第85話 まりんぶるーでも恋?

 12時をまわる前に、私は花お姉ちゃんと籐也さんに、

「リビングの方でゆっくりとしててください。パーティの準備ができたらお呼びします」

と言って、お店からリビングに行ってもらった。


「ママも、妊婦さんなんだから、一緒にリビングで休んで」

と、ママまで追いやった。

 籐也さんをリビングに行かせたのは、千鶴や黒谷さんがお店に来た後で、いきなり登場してもらって、驚かせるためだけど、ママと花お姉ちゃんは本当に、お店の手伝いをしていて疲れさせては体にさわるから、休んでもらったんだけどね。


 そして12時をまわり、

「こんにちは~~」

と、千鶴と黒谷さんがやってきた。


「こんにちは。お邪魔します。勝手に呼ばれてもいないのに来て申し訳ないけど」

 え?千鶴の後ろから、小河さんまで来ちゃった。

 そのあとすぐに、鉄も来た。まさか、可里奈さんまで来ていないよね?とドアの外を凝視てしまったが、鉄だけしかいなかった。


「なんのパーティなわけ?今日は」

 鉄がそう言いながら、お店に入ってきた。

「うちのママと、ママの友達が赤ちゃんができたパーティ…かな?」

 私がそう言うと、

「え~~?それに俺らも呼んだわけ?親戚でもないのに?」

と、鉄が嫌そうな顔をした。


「じゃあ、帰っていいよ。どうぞ、どうぞ。私は千鶴や黒谷さんを呼んでいるのに鉄だけ呼ばないのは申し訳ないかなあって、そう思ったから呼んだのに」

 そう口を尖らせながら鉄に言うと、

「帰るなんて言ってないっすよ。うまいもんも食えるんだし、関係ないけど勝手に盛り上がらせてもらいます」

と、鉄はそう言って、さっさと椅子に座ってしまった。


「本当は凪に久々に会えて嬉しいんでしょ?鉄。素直にそう言えば?」

 千鶴がとんでもないことを鉄に言った。

「え?い、いや」

 あ、鉄があわてまくっている。


「鉄!」

 そこにキッチンからすごい勢いで空君が飛んできて、

「凪のことはさっさと」

と言いかけた時に、空君の後方からパパが顔をだし、

「諦めな?小鉄。凪のそばに行くのも駄目だ。俺が許さないから。わかったな?小鉄」

と鉄に睨みをきかした。


「え?…俺、小鉄じゃなくて、鉄…」

「どっちでもいいだろ?」

 そう言うとパパはまた、後ろの席に戻って行った。そこには、爽太パパがいて、パパはまた爽太パパと笑いながら話を始めた。


「…凪のパパ、本当に娘を溺愛してるんだね。うちの父親があんなこと言ったら、ふざけんなって蹴りでもいれたいところだけど、凪パパだったら、嬉しいよね。溺愛されても」

 千鶴がそう言った後、後ろを振り返ってパパを見た。


「誰?あの人。凪ちゃんの本当のお父さん?」

 小河さんがそれを聞き、ちょっと顔をしかめて私に聞いてきた。

「え?はい。そうですけど」

「ずいぶんと若いね」


「でも、35歳ですよ」

「35歳でしょ?若いよ…。ああいう人が千鶴ちゃんの好み?」

「え?っていうか、凪パパは誰にでも人気があって、私のママですら、熱あげているから」

 千鶴はちょっと、顔を引きつらせて笑いながらそう言った。


 まさか、小河さんが来るとは。このあと、籐也さんまで登場するんだけどなあ。千鶴が籐也さんにきゃあきゃあ言い出したら、小河さん、もっと機嫌悪くなったりして。


「あの、空君、今日、碧君は?」

 黒谷さんが、ぼそっと空君に小声で聞いた。あ、黒谷さんの存在をすっかり忘れてた。

「塾なの。もうそろそろ来ると思う。今日のパーティ楽しみにしていたし」

 私がそう言うと、黒谷さんはぽっと顔を赤くさせ、恥ずかしがった。


「良かった。あ!深い意味はないんです。ただ、碧君がいると、霊を追っ払ってくれるから、すごく安心っていうか」

「ああ。だったら、聖さん、凪のお父さんも霊を寄せ付けないよ。だから今でも大丈夫。このお店にはまったく霊の気配感じないでしょ?」

 そう空君が黒谷さんに言うと、黒谷さんは振り返ってパパを見た。


「碧君に似てる。碧君も大人になったら、あんな感じになるのかな」

 黒谷さん、うっとりとしちゃってるけど…。


「いいな。じゃあ、榎本先輩の家にいたら、お父さんと碧君がいるから安心ですね。羨ましいです」

 黒谷さんはまだ顔を赤くしている。

「そうだね。俺より本当は、碧みたいなのと一緒にいたほうが、黒谷さんも安心だよね」

 空君がそう言うと、黒谷さんはさらに顔を赤くした。


 空君は、黒谷さんが碧のことを気にしているって知ってて、そういうことを言ったのかな。それとも、全く知らないで、言っているのかしら。


「ねえ、黒谷さん。黒谷さんって、テレビ観る?」

 私は唐突にそう黒谷さんに聞いた。黒谷さんも話がいきなり変わったので、一瞬びっくりしていた。

「え?テレビですか?あんまり観ません。たまに霊が見えるのでそれが嫌で」

 うそ。テレビ画面の中にも幽霊はいるの?


「じゃあ、ウィステリアっていうバンドは知らないか」

「知ってます!CDも持っています。特に、バラードが好きなんです」

 あれ?意外にもウィステリア好きなんだ!


「私もCD持ってる。いつかライブにも行きたいんだよね」

 千鶴が嬉しそうにそう言うと、小河さんが、

「へえ。じゃあ、静岡に来た時、一緒に見に行こうか?」

と、千鶴にそう言った。


 あ、なんだ。小河さんもけっこうウィステリア好きなんだ。

「小河さん、聞くの?そういう曲」

 千鶴がびっくりして聞いている。

「うん。けっこう好きだし、高校の頃、俺、軽音部で、ウィステリアのコピーしていたんだ」


「え~~~。すごいですね。何をしていたんですか?もしかしてボーカル?」

 私が聞くと、

「俺はベース。歌はそんなに得意じゃないから。でも、ウィステリアの曲、好きなんだよね」

と小河さんは、ちょっと遠くを見ながら答えた。


「嬉しい!全然知らなかった。趣味が合って嬉しい」

 千鶴が素直に喜んでいる。


 わあ。意外にもウィステリア好きっているもんなんだなあ。っていうか、それだけ人気があるってことか。それもそうか。今をときめく知る人ぞ知る、ビッグ・アーティストなんだもんなあ。


 じゃあ、ここにいるみんな、籐也さんが現れたら、めちゃくちゃ驚くかも。うわあ、楽しみ。

 あ、でも、鉄だけは興味なさそう。


 と、そこに、

「ただいまっ!!!あれ?籐也さんは?籐也さん!」

と叫びながら、碧が帰ってきてしまった。

 わあ!サプライズなのに、碧のバカ!


「籐也~~?何言ってるの?」

 千鶴が変な顔で碧を見た。黒谷さんは碧の登場に、顔を真っ赤にさせている。

「え?いない?」

「いないよ~。なんか、幻覚でも見たんじゃないの?」

 そう言って、千鶴が笑った。それもそうか。いきなり、籐也さんが伊豆のこんな外れのカフェに、やってくるとは思わないよね。


「さあ!お料理が全部できたから、みんなで運んで」

 そう春香さんが言うと、パパと爽太パパが立ち上がった。そして、テーブルを一か所に集め、椅子を壁際に並べ、テーブルの上にお料理を並べていった。


「今日は人も多いし、立食な?椅子に座るのは、妊婦さんとじいちゃんとばあちゃんだ。あ、空、リビングにいるみんなを呼んできて。パーティ、始まるからって」

「はい」

「俺!俺が呼びに行く。リビングにいるんだろ?」


 碧が空君をどけて、リビングに走って行ってしまった。

「なんか、張り切ってるね。碧君」

 千鶴がびっくりしている。


「そういえば、見ない顏だけど、千鶴ちゃんのもしや彼氏?」

 パパが小河さんの顔を見てそう聞いてきた。

「あ、そうなんです」

 千鶴は顔を赤くさせた。


「小河です。どうも、勝手に来ちゃってすみません。千鶴と休みが合ったもので、ついてきちゃいました」

「休みって?」

「バイト先の人なの」

 千鶴が恥ずかしそうにパパにそう言った。


「へえ。職場恋愛かあ。そういえば、れいんどろっぷすでも、くっついたカップルいたな。そういうのってなんかいいよね?」

 パパがそう言うと、ますます千鶴が赤くなった。でも、

「れいんどろっぷすってなんですか?」

と、赤くなりながらも千鶴はパパに聞いた。


「江の島にいる頃、母さんと父さんと、桃子ちゃんがやっていたカフェなんだ。そこで、俺も大学生の頃までバイトしていたし、俺の妹の杏樹も店を手伝ってて、バイトのやすってのと相思相愛になって結婚しちゃってさ」

「え?そうなんですか。なんだか素敵!」

 千鶴、目がハートになってない?パパを見て?それとも、自分と小河さんのことを思い浮かべたのかな。


「杏樹だけじゃない。れいんどろっぷすでは、いろんなカップルが誕生して、今、ここに泊まっているやつらも、その頃から付き合っているカップルだよ。あ、来た来た」

 パパがそう言って、碧がはしゃぎまくりながら、やってきた方向を見た。


 千鶴、小河さん、黒谷さん、鉄も同時にその方向を見て、そして、

「え?」

と、みんなが碧の後ろから来る人を見てかたまった。


 そして、次の瞬間、

「きゃ~~~~~~!うそ!嘘でしょう!籐也?!」

と千鶴が叫び、

「籐也だ!まじで、本物だ!」

と小河さんも叫んだ。


 黒谷さんはと言うと、口を両手で隠し、目をまん丸にしている。あ、言葉を失っているのかも。

 そして、籐也さんから碧に目線を移し、

「な、なんで?碧君。ここに籐也がいるの?」

と震えながら聞いた。


「やった!大成功」

 私は思わずそう言っていた。すると、空君までが、なんだか嬉しそうに、

「凪、やったね」

と私にハイタッチをしてきた。


「やったって?」

 千鶴がまだ、顔を赤くして興奮した様子で聞いてきた。

「サプライズだよ。驚かせようと思っていたんだ」

 私がそう千鶴と黒谷さんに言うと、

「サプライズなんてもんじゃないよ~~~」

と、千鶴は大騒ぎをして、黒谷さんはまだ、

「な、なんでここに?」

と、目をぱちくりとさせていた。


「籐也さんは、俺の父さんの友達なんです」

 碧が得意げにそう言った。

「で、籐也さんの奥さんの花さんは、母さんの親友」

 またも、得意げ。へへんってえばっている。


「え~~~~!!!凪パパの?!凪パパってすごい!」

 千鶴がまたびっくりして大声を出している。

「すげえな。こんなところで、籐也に会えちゃうなんて」

 小河さんも、まだ目を大きくしている。


「………う、嬉しい」

 あ。うそ!黒谷さん、泣き出しちゃった?

「え?なんで泣いてるんすか?先輩」

 碧が驚きながら、黒谷さんに聞いた。


「黒谷さんも、ウィステリアの大ファンなんだって」

 そう私が言うと、碧はちょっと嬉しそうに黒谷さんを見た。

「へえ、そうなんだ」


「あはは。俺も光栄だ。どうも、初めまして。ウィステリアの籐也です」

 籐也さんが、みんなにそう言うと、

「きゃ~~~。まだ信じられない」

と、千鶴はまた雄たけびをあげ、その隣で小河さんも頬を高揚させ、黒谷さんはまだ泣いていた。


 それから、パーティが始まった。千鶴、小河さん、黒谷さんはそわそわして、ずっと籐也さんのことを気にしていて、あまりお箸も進んでいなかった。

 が、一人がっついているやつがいた。鉄だ。


 碧も興奮していて、食べながらも籐也さんに話しかけていた。

「おいおい。碧。食うか話すかのどっちかにしろよ。それに、さっきから籐也に話しかけてて、籐也だっていい加減、うんざりするぞ」

 パパが碧に注意した。


「聖さん、そんなことないよ。なんか、会った頃の聖さんがここにいるみたいで、俺、けっこう今感激しているしさ」

 籐也さんは嬉しそうな顔をして、パパにそう言った。

「碧君、聖君の若い時にそっくりだもんね」

 花お姉ちゃんも碧を見ながらそう言った。


「で、碧君は彼女いないの?」

 わ!花お姉ちゃん、それは言っちゃいけない言葉。

「お、俺?」

 ほら。碧の顔がどんどん沈んでいく。


「あ。なんか、聞いちゃいけなかったかな」

「いえ。いいんす。彼女、俺より今、塾のほうが大事なんで。今日も誘ったんだけど、塾の補習を受けたいからって断られたし、籐也と会いたくないの?って聞いたら、ロックは聞かないってはっきり言われちゃったし」

 ああ、暗いぞ、碧。


「碧の彼女は、ウィステリア聞かないのか」

 パパがそう言うと、千鶴が、

「音楽の趣味は合っていたほうがいいと思うよ。私と小河さんみたいに」

と、大きな顔をして碧に言うと小河さんの腕に自分の腕を回した。

 あれ?いきなり、仲良しを見せつけだしたとか?


「そんなこと、俺もわかってます。もし、好きだったら一緒にCD聞いたり、ライブ行ったり、話をしてても盛り上がるだろうし、楽しいだろうなって俺も、そんなのわかってますよ」

 碧、突然切れた?


「ここにいるじゃん。すげえ俺のファン。なんか、碧とお似合いって感じだけど、名前なんていうの?」

 籐也さんが黒谷さんに名前を聞いた。


「え?!わ、わ、私は、く、く、黒谷、ふ、ふ、ふ」

 黒谷さん、がっちがっちだ。

「文江です」

 最後、声が聞こえなくなってた。


「籐也さん。その人、先輩だから。年、俺より一個上だよ。勝手にお似合いとか言ってるけど…」

「じゃあ、凪ちゃんと空君と一緒だね」

 花お姉ちゃんがにっこりと微笑みながら、私と空君を見た。空君はなぜか、照れくさそうに俯いた。


 黒谷さんは、碧のことを言われたからか、籐也さんから話しかけられたからか、真っ赤だ。

「そうか。一個くらいたいした年の差じゃないのか。でも、黒谷先輩って、そんなにウィステリアのファンなわけ?」

 碧は、多分、黒谷さんが自分に気があるとは気づいていないんだろうな。


「黒谷さん、CDも持ってて、よく曲も聞いてるんだって」

 そう教えたのは千鶴だ。

「へえ。じゃあ、今度、いろいろとウィステリアについて、語ろうよ、先輩」


 碧ってば、そんなことを言ったら、黒谷さんが、

「え?は、は、はい」

と、やっぱり顔を真っ赤にさせちゃったじゃない。


「なんだっけ?文江ちゃんだっけ?顏、真っ赤にさせているところとか、昔の花や、桃子ちゃんに通じるものがあるよね。ね?聖さん」

 籐也さんがそうパパに聞くと、

「ああ?うん。そうだな」

と、パパはわかっているんだか、わからないんだか、曖昧な返事をした。


 でも、その言葉を聞き逃さなかったのは、碧だ。

「え?母さんに?」

 ほら。マザコン碧のスイッチが入ったよ。


「私に似てるの?文江ちゃんが?」

 ママが話にほわわんと加わってきた。

「そうそう。聖さん見て、顔を赤くしていた桃子ちゃんに似てるよ。碧を見て、赤くなっているところなんかさ」

 そう言って籐也さんは笑った。


 あ~~~。黒谷さん、もう首から耳から真っ赤で、大変なことになってるよ~。

「……ふうん」

 そんな黒谷さんを碧は、じっと見て、

「まじで、ウィステリア好きなら、うちに非公開のライブのDVDあるけど、見に来る?」

と聞いた。


「え?」

「父さんの結婚式の2次会。超レアもの。まだ、ウィステリアがデビューして間もない頃のだけど」

「み、見に行ってもいいの?」

 黒谷さんの目が輝いた。


「…え、いいよね?父さん」

 その目を見て、碧はちょっと驚きながら視線を外していた。

「いいよ~~。どうぞ、どうぞ。いつでも来て」

「それなら、うちにもあるわよ」

 春香さんがそう言いながら、キッチンから出てきた。


「あ、それは駄目。見せたら」

 空君が春香さんを、またキッチンに追いやろうとして、春香さんの体を方向転換した。でも、

「なんで?」

と春香さんは、その場に食い留まろうと足を踏ん張っている。

「うちのには、俺と凪が映っているから」

 空君は春香さんの背中を押しながら、小声で言った。


 あ。もしや、あのキスシーンのことかな。それは見られたら恥ずかしいかも。

「え?何なに?子供の頃の2人?見たい」

 千鶴がその話に食いついてしまった。


「いや。凪の家でそのDVD見て。うちには来たら駄目。ほら、凪の家なら、碧や聖さんいるし、黒谷さんも怖くないでしょ?」

 空君はうまくそう言って、話を誤魔化した。

「……はい」

 黒谷さんはそう言われ、また真っ赤になった。


 碧は、そんな黒谷さんをまたじいっと見ている。

 なんか、碧も気になるのかな。


 これはもしや、新たな何かの始まり?でも、まだ碧、ふられたわけじゃないよね?彼女持ちだよね?

 どうなっちゃうんだろう。

 他人事ながら、ドキドキしてきてしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ