第111話 あったかいクリスマス
いよいよ、クリスマスがやってきた。
クリスマスイブ、まりんぶるーで毎年恒例のクリスマスパーティをする。パパの誕生日でもあるから、パパの誕生日パーティもかねている。
私はパパに、お小遣いをはたいて手袋を買った。ママは手編みのセーターと、帽子をパパにプレゼントする。必ず、誕生日用とクリスマス用を編んであげているから、すごいなあって思う。
私にもみんながそれぞれプレゼントをくれる。お正月のお祝いよりもクリスマスのパーティのほうが、まりんぶるーでは盛り上がる。
私は、空君のマフラーをどうにか昨日、夜中の2時までかかって仕上げることができた。可愛い袋に入れて、赤いリボンを結んだ。クリスマスカードも袋に入れた。カードには、『大好きな空君へ メリークリスマス!マフラー、気に入ってくれたら嬉しいな』とだけ書いた。
ドキドキ。空君にプレゼントをあげるのに、こんなに緊張するのは初めてだ。子供の頃は、可愛いマスコット人形を作ってあげてみたり、手作りのクッキーをママと作ってあげてみたりした。それはただただ、楽しいだけだった。でも、今回は違う。
喜んでくれるかな。喜んでくれるよね。ああ、なんでこんなに緊張しちゃうのかなあ。
ドキドキしながら私は、ママと一緒にまりんぶるーに行った。今日は高校は午前授業。2学期最後の日だった。帰りも空君と一緒に帰ってきたけど、マフラーを編んでいることはいまだに内緒だ。
空君は、幽体離脱を最近していない。というのも、どうやら私が空君のマフラーを編んでいる間、相当な光が空君に届いちゃうらしく、私の光で癒され続けていて、わざわざ幽体離脱をしないでも、私を感じていられるかららしい。
なんで、そんなに私から光が届くのかは、空君なりに勝手に解釈しているようで、会うと空君は顔を赤くして、
「凪、最近、俺のことばっかり思ってる?」
なんて、照れながら聞いてくる。
「う、うん。ごめんね?」
隠し事をしていることもあって、ついつい謝ってみたりする。すると、
「い、いいんだ。俺、けっこう喜んでいるから」
と言って、空君はさらに照れくさそうに笑う。
可愛い!空君が照れ笑いするたび、私はそこに誰もいなかったら抱き着いている。でも、誰かがいると抱き着けないから、結局また、すごい光で包んじゃっているらしい。
まりんぶるーにママと、到着した。パパは仕事から直接来るらしい。碧は今日も塾。夕方塾が終わってからまりんぶるーに来ると言っていた。
私とママは、パーティの準備をするために、早めにやってきた。
まりんぶるーはすでに、準備にかかっていて、賑やかだった。そこには空君の姿もあり、私はあせってプレゼントをリビングに隠しに行った。
リビングにはおじいちゃんとおばあちゃんがいて、
「これ、空君へのプレゼントなの。内緒にしているから、どこかに隠しておいて」
とこそこそとそう言って、また慌ててリビングからお店に戻った。
「空君も、手伝いに来ていたの?」
「うん。母さんにうるさく言われたから」
そう言いながら空君は、テーブルを爽太パパと運んだり、椅子を並べ替えたりしている。
「凪ちゃん、ごめん。キッチンのほうを手伝って」
くるみママに言われ、私はキッチンの中に入った。空君は、爽太パパの指示に従い、今度はものを運び出した。
今日の空君のセーター、可愛い。トナカイの模様だ。あのセーターに、私の編んだマフラー似合いそうだ。
そんなことを思いつつ、空君をしばらく眺め、それからキッチンの手伝いを始めた。
そして、わいわいとパーティの準備は整っていき、6時を過ぎた頃、碧もやってきて、7時には早めに店を閉めた櫂さんと、早くに仕事を切り上げちゃったパパもやってきた。
「みんな集まったよね。じゃあ、パーティ始めるよ」
爽太パパがそう言って、グラスを持ち、みんなもグラスを持つと、
「メリークリスマス、そして聖、誕生日おめでとう!」
と爽太パパが元気に乾杯の音頭を取った。
「おめでとう~~~!」
みんながパパにおめでとうを言い、パパは、
「サンキュ~~!」
と、にこやかに答え、そしてみんなで乾杯した。
私はすぐ隣にいる空君と、
「メリークリスマス」
と小さ目の声で言ってから、グラスを鳴らした。
空君が嬉しそうにはにかみながら笑った。ああ、可愛い!
そして、二人で同時にサイダーを飲み、同時に見つめ合い、二人で照れあった。
なんだか、幸せだ。二人きりになれなくっても、空君をものすごく身近に感じていられる。
それから、お料理を食べだし、みんなの話が弾みだした頃、空君がそっと私に近づき、
「凪、あとでちょっと二人だけで抜けない?」
と小声で言ってきた。
「え?」
「う~~ん、そうだな。リビングにはばあちゃんがそろそろ戻っちゃうだろうから、やっぱり、外かな。寒いかもしれないけど、ちょこっとだけだから、抜け出られる?」
「う、うん。いいよ」
わあい。じゃあ、その時、プレゼントを渡せるかも。
あれ?それって、二人っきりになれるってことだよね?
わあ!嬉しい。
私は、だんだんとお酒が入ってきて陽気になってきたパパの目を盗み、空君とお店を出ることにした。
「空君、先に出てて。私、急いですぐに出るから」
そう言って、空君にお店の前で待っていてもらって、私は急いでリビングに行き、空君のプレゼントを持ち、そうっと、お店のドアを開け、外に出た。
空君はほんのちょっと離れたところに、寒そうに立っていた。あ、セーターのままだった。寒いだろうな。
「ごめんね」
「ううん」
空君はにっこりと笑って私を見た。私は大きな袋を隠すことができないから、すぐさま空君に、
「はい、メリークリスマス」
と言って、袋を手渡した。
「あ、プレゼント?」
「うん。きっと後で、クリスマスプレゼント交換会が、盛大に行われると思うんだけど」
「あ、店の中で?」
「うん。でも、空君へのプレゼントは、そっと二人でいる時に手渡したかったの」
そう言うと、空君は顔を赤くさせ、
「それ、俺も同じこと考えてた」
と言って、私の袋を左手で抱え、右手はジーンズのポケットの中に入れ、そこから小さな箱を取り出した。
「メリークリスマス、凪」
「私に?」
「うん」
うそ。嬉しい!!
「あ、すごい光が今、飛び出たよ」
空君が一瞬宙を見て、それからはにかんだように笑った。
「だって、嬉しくって。これ、開けてもいい?」
「あ、じゃあ、俺も袋開けるね」
二人で同時にプレゼントを開けてみた。小さな箱の中身は、可愛いネックレスだった。
「わあ!可愛い」
いったい、いつ、どこで買ったんだろう。
「マフラー、手編み?!」
空君が感嘆の声をあげた。
「うん。ちょっと網目が不ぞろいなの。ごめんね、下手くそで」
「ううん。すげえ、あったかそう。今、巻いてもいい?」
空君が照れながらそう聞いてきた。
「うん」
空君は、袋を足の間に挟み、くるくるっと両手でマフラーを巻いた。
「うわあ、空君、似合ってる。特にそのセーターにばっちり!可愛い!」
「ほんと?」
「うん!」
良かった~。似合ってて。
「…サンキュ、凪。すげえあったかい。あ、そうか。これ編んでいたから、俺に光がいっぱい届いていたのか」
「うん」
空君は嬉しそうに目を細め、それから、
「ネックレス、してあげる」
と言って、私からネックレスを受け取り、そっとつけてくれた。
首に少しだけ空君の指が触れた。
ドキン!
わあ。心臓が高鳴った。
「ありがとう。これ、可愛いね。どこで買ったの?」
私は照れながらそう空君に聞いた。
「ハワイで」
「え?」
「クリスマスプレゼントにいいなって思って。かなり前だったけど、買っちゃった」
「そうなんだ」
そんなに早くから、私のクリスマスプレゼント用意してくれていたんだ。嬉しい。
「…凪とクリスマス一緒に過ごせるの、かなり前からわくわくしてて。浮かれてたんだ。それ、わかった?」
そう言いながら、空君は鼻の頭を掻いた。
「浮かれてたの?私もだよ。空君とクリスマス過ごせるの、とっても楽しみだったの」
「……」
空君はまた、はにかんだ。それから、私にそっとキスをした。
ドキン。
なんだろう。今日はやけにドキドキしちゃう。外は寒いのに、顔は熱い。
「…来年も、再来年も、クリスマス、ずっと一緒に過ごしたいね」
空君がそっと囁いた。
「うん」
すぐ近くにある空君の顔。私はなぜか、それだけでもドキドキしてしまった。
「凪!空!これから、プレゼント交換会だぞ」
その時、パパがお店のドアを開け、そう大きな声で言ってきた。
ドッキーーン。キスしていたところ、見られていないよね。二人して、一瞬飛び上がるほどびっくりしてしまった。
「わかった。中に入る」
私たちは慌てて、お店の中に入った。
「あ、空、もしかしてもう凪のプレゼントもらったわけ?」
「…はい」
パパは空になっている袋と、空君の首に巻いているマフラーを見て、そう聞いた。
「これ、凪の手編み?」
「あ、はい」
「へ~~~~~。そうなんだ。へ~~~~」
ああ、パパったら、目がすわってる。かなり、酔っぱらってる?
「凪、パパにはないの?」
「あるよ。ちゃんとプレゼント買ってある。これから、あげるね」
「買ったの?編んだんじゃなくって?」
「ごめん。空君のマフラーだけで手一杯だった」
「ああ、そう。いいよ、いいよ」
あ、パパ、いじけちゃった。でもパパ、パパにはママが編んでいるから安心して。と心の中で言ってみた。
それから、プレゼント交換会が始まった。
「じゃあ、まず、誕生日である聖へ、プレゼント!」
爽太パパがそう言うと、みんながパパにプレゼントを渡した。私もパパにあげると、
「あ、すげえ、かっこいい手袋じゃん。これ、高かっただろ?」
とパパはすでに機嫌を直し、にこにこ顔で私に聞いてきた。
「お小遣い奮発したんだよ。夏のバイト代も使っちゃったんだから」
私がそう言うと、パパは嬉しそうに目を細め、
「サンキュ!凪」
と私を抱きしめた。
そのあと、ママがパパに、
「はい、クリスマスと、こっちは誕生日のプレゼント」
と言って、セーターと帽子をプレゼントした。
「わあお!今年のはなんだか、大人っぽいデザインだね」
「うん。きっと聖君に似合うと思う」
そうママが言うと、パパは今着ているカーディガンをさっさと脱いで、ママの編んだセーターを着込み、帽子もかぶり、
「どう?」
とママに聞いた。
「かっこいい」
ママ、目がハートになってる。
「まじで?まじでかっこいい?」
パパ、酔っぱらっているからか、しつこく聞き返してる。
「うん。すっごくかっこいい」
ママのあの言葉はお世辞じゃない。なにしろ、目がさっきからハートで、パパをうっとりと見つめちゃっているから。
「サンキュ!桃子ちゃん!」
うわ。思い切りママのことも抱きしめちゃってるよ。
「聖君、苦しいよ」
「ごめん!じゃあ、桃子ちゃんに、俺からも!」
パパはそう言って、ママに袋を渡した。
「なあに?」
ママは嬉しそうに袋の中身を出した。中には、可愛いあったかそうなマフラーが入っていた。
「桃子ちゃんに似合いそうな色でしょ?」
「うん。嬉しい!」
ママが今度はパパに抱き着いた。あの二人は、周りに人がいようがいまいが、二人だけの世界をしっかりと作ってくれるよなあ。
っていうか、今、気が付いた。くるみママと爽太パパ、春香さんと櫂さんも、プレゼント交換をし合っている。それも、嬉しそうに。
そうだった。ここの夫婦はみんな仲が良くって、ラブラブなんだった。おかまいなしに、のろけたり、見せつけてくれるから、私と空君も堂々とプレゼント交換をしてもよかったかもしれない。
でも、やっぱり二人きりの時間が持てて、私は嬉しい。
「あれ?碧は?」
いつの間にかいなくなっていたことに気が付いた。
「多分、リビングじゃない?ばあちゃんとじいちゃんにプレゼントあげたり、もらったりしているんじゃないかな」
パパがそう答えた。
「そうか」
私と空君も慌てて、リビングに行って、二人にプレゼントをあげた。たいしたものじゃない。でも、二人とも喜んでくれた。
二人からもプレゼントをもらった。可愛いあったかそうなひざ掛けだった。
「ありがとう!」
私と空君はお礼を言って、それからは碧、私、空君とリビングでまったりとくつろいだ。
碧は明日、塾が午前中に終わるから、昼に駅で黒谷さんと会って、プレゼントを渡すらしい。可愛いストラップと、髪留めを買ってあげたと言っていた。
買うのに恥ずかしい思いをしたようだけど、それでも、一人で雑貨屋さんに行って買ったらしい。真っ赤になりながら教えてくれた。
クリスマスって、恋人同士にとって最高のイベントだよね。千鶴も彼氏とおしゃれをして食事に行くと張り切っていたし、鉄もプレゼントを広香さんにあげると言っていた。
お店は遅くまで賑やかだった。でも、リビングはあったかい、まったりとした空気が流れていた。
私はソファに座り、例のごとく空君の肩にもたれかかっていた。空君からは、ほんわかあったかいオーラがやってきていた。
そして私からは、きっと相当な光が出ていただろう。それがリビング全体を包み込み、おばあちゃんも、おじいちゃんも、碧も、ゆったりとくつろいでいた。
「こんなふうに、可愛い孫やひ孫と一緒にいられるの、幸せね、圭介」
「幸せだね、瑞希…」
そう言いながら、二人は見つめ合った。そして優しい目で、私たちを見た。
大好きなおばあちゃんとおじいちゃんのリビング、今日もあったかくって幸せだった。




