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第110話 クリスマスが近づくと

 12月、水原さんが空君に話しかけることが少なくなり、水原さん狙いの1年男子が、クリスマスに向けてかなりのアプローチをかけだした。

 鉄もクリスマスに向けて、頑張りだしたのか、広香さんに対してモーションをかけだした。

 クリスマスのイベントってすごいんだなあ。でも、わかる。クリスマスを好きな人と過ごしたいって思うよね。


 私は今年、空君と二人で過ごせるかな。

 …無理かな。きっとまりんぶるーでパーティをすることになるだろうし。でも、ちょっとだけでも二人きりになりたい。そして空君にプレゼントをあげたいなあ。


 あ、プレゼント、何にしよう。


「ママ、編み物を教えてもらってもいい?」

 リビングでのんびりと編み物をしているママにそう聞いた。

「マフラー?セーター?」

「マフラーかな。セーターなんて無理そうだから」

「いいよ」


 ママは2階に私を連れて行き、ママの部屋にあるチェストに入っている編み物の本を何冊か出した。

「どれがいい?空君にあげるんでしょ?」

「うん。あ、パパに見つかったら、拗ねるかな」

「大丈夫、聖君にはママが編んでいるから。っていっても、セーターだけどね?」


「碧にも編んでいるんでしょ?」

「うん。ところで、空君なんだけど、これなんか似合いそうだよ。ちょっと派手だけど、空君って可愛い色の服も着るもんね」

「うん。似合いそう」


「聖君はシックなものしか着ないし、碧も聖君の影響なのか、あんまり色が入っているものを着ないじゃない?こんな可愛いマフラー、編んでみたいんだよね、本当は」

「そういえば、パパ、いつもシックでシンプルだよね」

「高校生の頃からだよ。でも、似合っちゃうんだよね~~、それがまた」


 ママがうっとりとした目で宙を眺めた。

「じゃあ、この本借りるね」

 私はパパにうっとりとなっているママをほおっておいて、自分の部屋に行った。そして、編み物の本を出して、

「誰と毛糸買いにいこうかな~~」

と、ベッドの上に座ったまま悩みだした。


 まずは千鶴にメールしてみた。

>私、編み物なんてできないからパス!それに、土日バイトとデートがあるんだ。ごめんね。

とすぐに返事が来た。


 じゃあ、黒谷さんはどうかな。と思い、すぐにメールをした。

>碧君のマフラー、編みたいです!

 黒谷さんからもすぐに返事が来た。


>じゃあ、土曜日に毛糸買いにいかない?

>行きます!

 決まった。駅で待ち合わせをして、毛糸を買うことにした。ああ、わくわくだ。空君には内緒にしておこう。


 土曜日になった。わくわくしながら待ち合わせ場所に行くと、黒谷さんはまったく別の場所にいて、私を見つけると一目散に飛んできた。あ、顔真っ青。もしかして、いたのかな。


「榎本先輩、光出しながら来てくれてよかったです」

 私、光出しながら歩いていたのかな。空君のことを考えていたからかな。

「いたの?幽霊」

「はい。フラットホームを行ったり来たりしていたんですけど、私が見えているってわかったのか、こっちに向かって来てて、私、怖くて離れていたんです。どうやら改札口からは出てこれないみたいで」


「まだいるの?」

「いえ。榎本先輩の光で成仏しました。電車に乗ってきちゃったのかな。この駅では初めて見る幽霊でした」

「大変だね、黒谷さんも」

「…寄ってこられちゃうと怖いです。空君は寄ってこないって言ってましたけど、何が違うんでしょう、私と」


「さあ?なんだろう、私もわかんないけど、空君は怖がっていないからかな」

「榎本先輩も怖がっていないですよね」

「だって、見えないもん。それより、毛糸買いに行こう」


 駅のすぐ近くにある、ビルに入った。手芸屋さんの前で、私はママから借りた編み物の本をだし、

「ママが言うには、碧はこんなマフラーが好きそうだって」

と、渋めの毛糸で編んだマフラーが載っているページを見せた。


「あ、碧君に似合いそう」

「じゃあ、これを編む?編み方も簡単だって」

「はい」

 それから二人で手芸屋さんに入り、毛糸を買って、お茶をしようとカフェに入った。


「上手に編めるかな。私、不器用なんです」

 黒谷さんは頼んだココアを飲みながら、そう言った。ココアがなんとも似合っちゃう女の子だよなあ、黒谷さんって。私はミルクティを一口飲んでから、

「私もだよ。ママは器用なのに、私は不器用で、お裁縫も苦手だし、編み物も初めて挑戦するの」

と黒谷さんに言った。黒谷さんはちょっとホッとした顔になった。


「わからないことはママに聞こうね。でも、碧には編んでること、内緒にする?」

「はい。上手にできなかったら、あげられないし」

「碧なら、喜んで受け取ると思うけどなあ」

「碧君が?」


「うん。多分ね」

「空君は榎本先輩の手編みのマフラー、すっごく喜びそうですね」

「そ、そうかな」

 テヘ。なんだか照れちゃうな。


「黒谷さんは?碧のどこが好きなの?」

「どこって…。えっと」

 赤くなった。

「こんなこと言ったら、先輩にドン引きされられるかも」


「え?大丈夫だよ。どこが好きになったの?」

「一目ぼれだったんです」

「碧に?!」

「榎本先輩のお父さん、かっこいいなって思って」


 パパにまさか、一目ぼれ?

「そのあと、碧君に会って、なんか、心臓が一気にバクバクしちゃって。その日の夢にも出てきたし、ずっと忘れられなくなっちゃって」

「碧が夢に出たの?それとも、パパ?」


「碧君です。お父さんに似てるって、最初思いました。でも、お父さん見ても胸がときめくことはなかったですよ」

「碧にはときめいちゃったんだ」

「きゃ、恥ずかしいです」


 黒谷さんが、乙女に見える。すっごく可愛い。顔を赤くして両手で顔を隠しちゃった。こんなの見たら、碧、もっと惚れちゃうかもしれない。碧って、こういう仕草に弱そうだもん。


「碧君が笑うと、ドキドキするけど嬉しいんです。笑顔向けられただけでも、私、天にも昇りそうなくらい、ふわふわしちゃって」

「へ~~」

「は、恥ずかしいことを私、言ってますよね。これ、碧君には言わないでくださいね」


「うん。内緒にしておくけど、でも、教えて。碧、黒谷さんになんて告白したの?」

「え?」

 あ。もっと赤くなっちゃった。


「えっと、確か…」

 確か?

「あ、あんまりびっくりして、心臓も脳も一回止まったみたいで」

「え?」


「いえ。止まったみたいになっちゃって、記憶も曖昧なんですけど」

「うん」

 なんだか、本当に可愛いなあ。

「確か、先輩のこと好きだから、付き合ってくださいっていうようなことを、言われた気が」

「それで?なんて答えたの?」


「びっくりして、しばらく私、呆けていたんですけど」

「うん」

 なんだか、目に浮かぶなあ。

「返事は、俺が受験終わってからでも、卒業してからでもいいけど、それまで彼氏作らないでって言われちゃって」


 なるほど。

「そ、それで、私も、彼女作らないでって、慌てて言って…。ほ、他の人のこと好きになったらどうしようって不安になって、やっぱり今返事するって、慌ててOKして」

 面白いなあ、黒谷さんって。でも、慌ててそう言っているところが目に浮かぶ。


「碧君が、やったって小声で喜んで。私は、その…。信じられなくて、泣きそうになっちゃって」

「うん」

「でも、そこにママのお迎えの車が来たから、泣くわけにもいかなくて必死にこらえてたんです」

「へえ」

 可愛いなあ。


「車の中でも、寝たふりしました。それで、家に帰って部屋に入ってから、うるうるしちゃって。しばらく、本当に夢だったんじゃないかって、メール来るまで、そう思ってました」

「メール?碧から?」

「はい。OKしてくれて、嬉しかったっていうメール」


 碧ったら、やる~~。そんなメール送ったんだ。

「…本当はいまだに、信じられないでいるんですけど」

「何を?」

「付き合っていることも、告白されたことも。なんで、私なのかなって、ずっと疑問で」


「碧、いっつも黒谷さんといると嬉しそうだったし。そういうのを見てて、私もとっくに気が付いてたよ」

「何をですか?」

「碧が黒谷さんのこと好きだって」

「え?そ、そうなんですか?」


 黒谷さんは顔を真っ赤にさせ、俯いた。

「私のどこが良かったのかわかりません。暗いだけだし、可愛くもないし」

「可愛いって言ってたけどなあ、碧」

「ほ、本当ですか?」

 黒谷さん、目が飛び出るくらい驚いちゃってる。

「うん。本当」


「…。う、嬉しいです。でも、やっぱり信じられない」

 そうかな。最近の黒谷さんは、本当に可愛いって思うけどな。

「碧君ってモテますよね」

「うん。そうみたいだね」


「……」

「あ、心配?」

「はい。ちょっと。それに彼女もいたんですよね」

「別れたみたいだけど」

「はい。それは碧君から聞きました」


「大丈夫だよ。碧、かなり熱あげてるもん」

「え?」

「黒谷さんに、熱あげてるから、大丈夫だよ」

「……」

 わあ。首まで真っ赤だ、黒谷さん。


 両手で黒谷さんは頬を抑えた。そして、

「顔、あつ…」

と呟いて、俯いた。


 こりゃ、ここに碧がいたら大変だったな。仕草がママによく似てて、碧、ますます黒谷さんに惚れちゃうよ。

 あ、パパももしかして、こんな黒谷さんの可愛い仕草見たら大変かも。


「先輩は、空君のどこが好きなんですか?」

「え?私?えっと」

 いきなり質問が来るとは思わなかった。


「可愛いところとかかな」

「空君、可愛いですか?」

「うん。可愛い…」

「そうなんですね」


 黒谷さんは、ふうんって、相槌を打った。それから、ちょっと斜め上を見たかと思うと、

「空君のどこが可愛いのか、私にはよくわかりません」

と、私のほうに視線を向けてそう言った。


「あ、そう?」

 いいよ。いい。わからなくても。一緒になって可愛いって言われても、困っちゃうもん。


「私から見たら、空君のほうが私よりも年上みたいに思えます。落ち着いているし、クールだし」

「え?年上?」

「はい。大人っぽいですよね。背も高いし、あまりはしゃいでいることもないし、頼りになるし」

 え~~~~!大人で、クールで、頼りになるの?まったく私から見た空君と、違ってる。


「可愛いっていったら、碧君のほうかな。はしゃいでいる時の笑顔とか、ちょっと拗ねちゃうところとか、可愛いなって。でも、かっこいい。だけどやっぱり、まだ幼さが残っていて、そういうところは愛らしい」

 愛らしい?!私、碧に対してそんなこと思ったこともないよ。生意気な弟って、思うことは多いけど。


「でも、碧君、いざとなったら守ってくれそう。一緒にいると、安心できるんです」

「そうなんだ。でも、言ってたよ。黒谷さんのこと守っていきたいって」

「それ、私にも言ってくれました。すっごくすっごく嬉しかったです」

 そう言って、黒谷さんは恥ずかしそうに俯いた。


 そうか。碧がそう言った時にも、こんなふうに黒谷さんは照れたのかな。じゃあもう、碧は黒谷さんの可愛い仕草や言動、何回も見ているのかもね。


 私は、空君を頼りにしていると思う。でも、大人っぽいなとか、クールだなって感じたことはない。いつも、空君は可愛くて、一緒にいるとほんわか癒される。それは、子供の頃から変わっていない。


 話をしない時期には、空君の冷たさを感じた。そうか。あの時はさすがに、空君ってクールだって思っていたか。ううん。クールとか、そういうんじゃなくって、ただただ、空君に無視されてて、悲しかったな。


 あんなふうに、もう空君に離れて行ってほしくない。寂しい思いも、切ない思いもしたくない。ずっとそばにいてほしい。


 黒谷さんと別れて、家に帰った。そして毛糸を持って自分の部屋に入った。

 これから、空君のことを思いながらマフラーを編もう。ずっとそばにいられますようにって、そう思いながら。


 たとえ、遠距離恋愛になっても、心はずっとそばにいられますように。

 そう思いながら、さっそく私はベッドに座って、空君のマフラーを編みだした。時々ママに来てもらって、教えてもらいながら。


 ドキドキわくわく。空君、マフラーあげたらどんな表情するかな。喜んでくれる?びっくりするかな。

 空君、このマフラー使ってくれるかな。


 夕方、空君から電話が鳴った。

「凪?まりんぶるーに来ないの?」

 あ!そうだった。土曜の夕方はおばあちゃんに会いに行こうって、約束していたんだ。

「今から行くね」


 自転車に乗って、急いで私はまりんぶるーに行った。空君はすでにリビングでおばあちゃんに、星の話を聞かせていた。

「ごめん、空君」


「ううん」

 空君はにっこりと笑った。わあ、可愛い笑顔だ。

「部屋でぼ~っとしてた?凪」

「え?う、うん」


 編み物していたことは言えない。内緒だもん。

「もしかして」

 私が空君の隣に座ると、空君は耳元でこそっと、

「俺のこと考えてた?」

とはにかみながら聞いてきた。


「え?なんで?あ、そうか。光」

「うん。ずうっと俺、光に包まれてた」

 そうか。空君のこと思いながら、編み物していたもんなあ。


「うん。そうなの。ぼ~~っとしながら空君のこと思ってて、時間も忘れてたの」

「あらあら。本当に仲いいのね、お二人は」

 おばあちゃんがくすくすと笑った。


 空君は、真っ赤になって照れた。そして、話をそらすためか鼻の頭をかきながら、

「じいちゃんは?」

とおばあちゃんに聞いた。

「クロと散歩。空君の話も聞きたいって言ってたから、きっとすぐに戻ってくるわよ」

「クロの散歩、じいちゃんの係りになってる?」


「そうね。いい運動になるって、圭介も喜んで行ってるわ」

「ばあちゃんは?どう?足の調子」

「大丈夫。杖をつくことになりそうだけど、大丈夫よ、空君」

 

「杖?」

 私が聞くと、おばあちゃんは優しく笑った。

「冬の寒さに痛んじゃうの。それに最近、歩きにくくなって」

「そうなの?大丈夫?さすってあげようか?」


 私がそう聞くと、

「お願いできる?凪ちゃん」

とおばあちゃんは足を投げ出した。


 私はおばあちゃんのことを思いながら、おばあちゃんの足をさすった。

「あったかいわねえ、凪ちゃんは」

 おばあちゃんは、そう言ってまた優しく微笑んだ。


「うん。今、凪の光にばあちゃん、包まれてるよ。ほわわんってしない?」

「するわ。とっても穏やかな気持ちになる。凪ちゃん、光が出ているの?」

「その光が凪マジックの正体なんだよ」

「そう」


 おばあちゃんはまた、優しく微笑んだ。

「おばあちゃんだって、優しいオーラ出ているよ。私、一緒にいると癒されるもん」

「このリビングがもう、癒しの場所だよね?凪」

 私の言葉に空君もそう言った。

「うん」


 そこにおじいちゃんが帰ってきた。

「あれ?瑞希、足痛むの?」

「ううん。大丈夫よ。でも、凪ちゃんがさすってくれるって言うから、甘えちゃったの」

「そっか。凪マジックで瑞希の足もよくなっちゃうかもな?」


 おじいちゃんはそう言うと、定位置に座り、それから空君と星の話を始めた。なぜか最近、おじいちゃんまでが、星に詳しい。空君と話をするために勉強したのかもしれない。


 そして、リビングにはいつもの、ゆったりとしたあったかい空気が流れ、私も空君もほわわんとした空間に、癒されていた。



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