表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/142

第105話 文化祭当日

 文化祭当日、晴れ。昼間は日差しが暑く感じられるほどだった。

 碧は11時頃やってきた。プラネタリウムは反響があり、列までできていた。碧は、その列に並び、11時半にようやく順番が回ってきて、教室の中に入ってきた。


「黒谷さん!碧、席に案内して」

 私がそう言うと、教室内の案内役の黒谷さんが顔を赤くして、碧を教室の隅に案内した。私は外で受付をしていて、プラネタリウムを操作したり電気を消したりしていたのは空君だった。


「黒谷さん、午前中最後の回だし、そこに椅子持ってきて碧と一緒に見てていいよ」

 空君が黒谷さんにそう言っているのが聞こえた。指差したのは碧の隣。

「え?でも」

 黒谷さんが真っ赤になって躊躇していたが、

「隣に来て。俺、一人で見てもつまんないし」

と碧がそう言って、黒谷さんを隣に座らせた。


 まあ、大胆だこと。碧って意外と積極的なんだなあ。それに、空君も随分としゃれたことを提案したものだ。

 黒谷さんは真っ赤な顔をして、碧の隣にちょこんと座っている。


 教室の電気を空君が消した。私はドアを廊下側から閉めた。教室の中からは、サチさんの案内する声が聞こえてきた。とっても上手だし、声が大きくて聞き取りやすい。さすが、もと演劇部だけある。それに、原稿を書いたのは空君だけど、その内容もとてもわかりやすく、興味深い説明となっていた。


 私は受付を一人でしていた。午後は、プラネタリウムの操作を鉄が。受け付けは久恵さん。席の案内役は千鶴。そして星の説明をするのは、ジャンケンで負けた広香さんだ。でも、広香さんは中学が放送部だったらしく、昼の放送をよくしていたようで、緊張するとは言っていたけど、多分大丈夫だろう。


 11時50分。午前中の回は終了。12時の回までに教室の中の人の入れ替えをする。そして、午後の担当の人たちがやってきて、私たち午前担当とバトンタッチをした。

「じゃ、頑張って、広香」

「わ~~。緊張する~」

 サチさんと交代した広香さんは、かなり緊張していた。


「碧、昼一緒に食べるだろ?」

 空君が聞いた。

「碧君って、榎本先輩の弟でしょ?お父さんによく似てるんだね」

 サチさんが顔を赤くしながら、そう碧に言った。


「あ、はい。よく言われます」

 碧は、愛想よくそう答えた。すると、サチさんは恥ずかしそうにしながら、

「ふうん」

と相槌を打った。


 あれ?なんか、碧のこと意識しているとか?

 

 でも、サチさんだけじゃない。空君と碧が並んで廊下を歩いていたら、女子生徒たちがなぜか、振り返ってみたりしている。

「ねえ、空君と一緒にいるの誰かな。かっこいいね」

「うん。空君と二人で歩いていると絵になる」


 うわあ。すでに碧、モテモテモード?ちょっと後ろから歩いている黒谷さんが、顔を青ざめさせてるよ。

「黒谷さん、榎本先輩の弟ってかっこいいと思わない?」

 サチさんがそう黒谷さんに小声で聞いた。黒谷さんは、ただ「うん」と頷くだけ。


 黒谷さん、今もしかして複雑な心境なのかな。碧ったら空君とばかりしゃべって、黒谷さんのことほっぽらかしているし。あ、そうか。

「空君!」

 私は空君の横に行くと、

「午後、お昼食べたら二人で回ろうね」

とそう言ってみた。


「うん。いいよ」

 あ、空君、照れながら笑った。可愛い。

「じゃあ、俺は…」

 碧がちょっとだけ後ろを向いた。


「先輩、俺、来年ここに入るんだし、案内してもらっていい?」

 碧がそう黒谷さんに言った。すると、黒谷さんは一気に顔を赤くさせ、何か言おうとしたが、

「うん。いいよ。案内する」

とサチさんが答えてしまった。


 あほ。碧のあほ。先輩って声かけちゃったから、サチさんが誤解したじゃないか。ちゃんと黒谷先輩って名指しで呼ばなきゃあ。


「あ、じゃあ、黒谷先輩も一緒に」

 碧はもう一回そう言って黒谷さんを見た。黒谷さんは静かに頷いただけだった。

 あ~~あ。サチさんのほうがノリノリだ。碧にさっそく声をかけ、あれこれ話し出した。


「部活は?何部に入る予定?」

「バスケしていたから、バスケ部。じゃなきゃ、軽音です」

「軽音多いんだよね。入ってもあんまり部活動できないかもよ」

「そうなんすか。バスケは?」


「バスケ、今顧問の先生が力入れてて、ちょっと練習厳しいらしいよ」

「ああ、それは構わないっす。なんか、去年あたりから強くなってきたって聞いたけど、顧問の先生が変わったとかですか?」

「うん、そう」


「へえ。そうなんだ」

 碧はサチさんとばかり話して、黒谷さんはその話の中に入っていくこともできないでいる。

「ねえ、碧君ってもてるでしょ。そのルックスで背もあって、それにバスケ部だなんて、絶対モテるよね?彼女もいるんじゃないの?」


「いえ。この間ふられたばかりなんで」

「え?碧君をふる女の子がいるの?びっくり!私だったらもったいなくって、ふれないなあ」

「あはは、そうっすか?でも、むずかしいっすよね。付き合うのって。なんかお互いのこと、よくわからないうちに別れることになっちゃいました」


「そうなんだ。気持ちのすれ違いとか?」

「はい。俺が部活に専念したり、のんびりと構えている間に、向こうのほうの気持ちが冷めたのかな。それに受験勉強が大変らしく、俺のことなんてどうでもよくなっちゃったみたいで」


「え~~。碧君のことがどうでもよくなるなんて、絶対にもったいない。きっと後でその子、後悔するよ」

「どうかな~。別れたほうが受験勉強専念できていいんじゃないかなって言ったら、ほっとした顔してたから。きっと、後悔していないんじゃないかな」


「そういうものなのかなあ」

「頭いい子なんです。親にも期待されてるらしくって。進学校に行って、大学も国立目指しているらしいし」

「へえ。大変だね、その子も」

「でも、本当に好きなら、受験終わるまで待ってみたり、高校別になっても付き合って行けたりしますよね」


「待つ気でいるの?碧君、その子のことまだ、諦められないとか?」 

 サチさんがそう聞くと、隣にいた黒谷さんの顔が思い切り青ざめたのがわかった。

「いえ。もうすっぱりと諦めました。俺は俺で、この高校入って青春しますんで」

「何それ。青春って」

 サチさんは笑った。ほんのちょっと黒谷さんも安心した顔つきに変わった。


「好きな子ともちゃんと付き合って、次こそは長く付き合いたいって思っているし。部活もまた頑張る気でいるし」

「好きな子?簡単にできるものなの?」

 サチさんがそう言うと、碧はちょっと黙り込んだ。


 でも、突然何を思ったのか、

「もういるんです、俺」

と言い出した。うわあ!何言ってんの?碧。それ、黒谷さんも聞いてるよ。


「え?でも、元カノと別れたばかりでしょ?」

「いえ。別れたのは9月だから」

「そのあと、もう好きな子できたってこと?あ、その子もこの高校受けるの?」

「……俺、多分、3年間ずっとちゃんと好きな子のことを思い続けていくんじゃないかなあ」

 答えになっていないって、碧。って、今もなんかすごいこと言ったよね?


「ちゃんと守っていきたいって、そう思ってるし」

「え?守る?」

「………。はい」

 碧はちょっと間を開けてから、まじめな顔をして頷いた。そしてちらっと黒谷さんを見た。

 黒谷さんは俯いている。何を考えているんだろう。まさか、自分のことだなんて思いもしないんだろうなあ。


「空君、碧、何考えてあんなこと言ったんだと思う?」

 碧たちと別れ、私と空君は二人だけで行動していた。いろんな教室を見て回ってから、私たちはテニス部がやっている模擬店にやってきて焼きそばを買い、外のベンチに座ってそれを食べていた。


 空君は焼きそばを食べ、お茶をゴクっと飲んでから、

「あれ、きっと黒谷さんに告白するんじゃないかな」

とそう言いだした。

「え?告白?」


「けっこう碧、真剣に黒谷さんのこと思っているよね。守ってあげたいって本気で思っているみたいだし。そう思っているからあんなふうに、本人がいる前で言っちゃったんじゃないかな」

「でも、黒谷さんは自分のことだって気づいていないよ」

「うん。だから、碧、ちゃんと告白する気でいるんじゃないかな」


「空君、なんでわかるの?」

「実は、メールで相談されてたんだ。このまま、高校に入るまでほっておいていいものかって」

「え?」

「俺が黒谷先輩のこと思っているって、絶対にわかってないよね?って聞かれたから、多分気づいていないと思うって返したんだ」


「うん。それで?」

「ちゃんと自分の気持ち言わないと、気づいてくれないよねって、碧、その時そんなメールよこしてきたんだよね」

「じゃあ…」


「うん。告白、するんじゃないの?」

「へ~~~。そうなんだ。碧ったら。へ~~~~」

「何?気になる?」

「ううん、やるじゃんって思ったの。ちゃんと自分から告白する気でいるなんてさ」


「…俺、凪に俺からコクったかな」

「好きだって言ってくれたよ。でも、それが恋なのかどうなのか、私にはわからないでいたけど」

「え?」

「だって、ドキドキしたりしないって言ってなかった?」

「ああ、そういえば言ってたかな。でも、今はドキドキしちゃうよ、俺」


 うわ。また可愛いこと言ってる!抱きつきたい。

 ぶわっ!!

 あ、光が思い切り出ちゃった。


「学校では抱きつくのは無しだよ、凪」

「うん」

 しっかりとばれちゃうんだよなあ。抱きつきたくなったの。空君、抱きついていないのに、顔真っ赤にさせてるし。可愛いなあ。


 それから学校をもう一回まわって、天文学部の教室に戻ると、碧もサチさんも黒谷さんもそこにいた。

「今、最後の回しているところです」

 サチさんがそう静かに言った。

「すごい反響でしたね」


 中の様子をうかがいながら、サチさんがまた小声でそう言った。

「うん。明日も多いかもね」

 私はそう言いながら、黙り込んで暗くなっている黒谷さんが気になってしまった。


「黒谷さん、まさかどこかで幽霊でも見えちゃった?」

 そう何気に聞いてみると、黒谷さんはちょっとびっくりしながら、

「いいえ。碧君がいるから大丈夫でした」

と答えた。


「あ、そっか。碧がずっと一緒にいたのか。じゃあ、大丈夫だね」

 そんな会話を聞き、サチさんが、

「なんで碧君が一緒だと大丈夫なの?碧君も霊を消しちゃえるの?」

と不思議そうに聞いてきた。


「俺?そんなのできないっす。ただ、俺には霊が寄ってこないらしいから」

 碧はそうひょうひょうとした顔でサチさんに答えた。

「へえ。そうなんだ。じゃあ、碧君がいてくれたら、この前みたいなことには絶対にならないんだね」

「この前?」


「うん。トイレに霊が出て、大変だったの」

「そんときって、まさか、黒谷先輩も一緒だった?」

 碧が真剣な顔をして黒谷さんに聞いた。

「うん」


 黒谷さんは小声で頷いた。

「大丈夫だった?」

「榎本先輩が成仏させちゃったから、大丈夫だったの」

「あ、そっか。凪がね」


 碧は一瞬私を見て、

「でも、俺がこの高校入ったら、黒谷先輩、安心していいよ。霊から守ってやるからさ」

と、黒谷さんを見ながらそう言って、にっこりと笑った。

「え?」

 黒谷さんはびっくりしている。


「あ。じゃあ、もしや」

 サチさんがぴんと来たようだ。碧の思い人に気が付いたんだろうか。さすが、女の勘だな。でも、サチさんはそれ以上何も言わず、なぜか黒谷さんを見て、にやりと笑った。


 まさか、また黒谷さんをいじめたりする気じゃないよね。うわ。碧が原因でそんなことになったら、黒谷さんがまた、大変な思いをすることになっちゃう。

「ねえ、碧君。バスケ部もいいけど、天文学部にも入らない?そんなに活動しないし。碧君が入ってくれたら、黒谷さんも安心すると思うんだ」


 あれ?

「ね?黒谷さん。夜の星の観察とか、碧君がいてくれたら、幽霊寄ってこなくなるし、いいよね?」

「う、うん」

 なんだろう。天文学部に入ってほしいのかな、サチさん。


「あ~~。空もいるし、入ってもいいかな~~」

 碧がわざとらしい感じでそう答えると、

「決まり!ね?榎本先輩もいいですよね?」

と元気よく私に聞いてきた。


「うん。私は別にかまわないけど」

「よかったね、黒谷さん。これで安心だね。碧君にしっかり守ってもらいなよ」

 あれれ?

 そう言った後、なぜかサチさんは碧の横に行き、背中をぽんと叩いて、

「頑張って、今度はしっかりね」

と囁いていた。


「え?あ、は、はい」

 碧、真っ赤だ。そうか。サチさん、ぴんと来て、応援する側になったんだな。黒谷さんをいじめようなんて、思っていなかったんだ。申し訳ない。


 サチさんはそのあとも、ニコニコ顔。それにもう、碧にべらべら話しかけることもしなくなり、ちょっと碧と黒谷さんからも離れたところにいる。


 碧は、それから黒谷さんに何か話しかけ、黒谷さんは赤くなりながら答えている。

 この二人、今後どうなっていくのかなあ。

 そして、私と空君は?


「ん?」

 空君のほうを見ると、それに気が付いた空君が可愛い顔をして私の顔を見た。

 わあ。なんでそんなに可愛い顔をするの?


 ぶわ~~~!

「わ。すごい光。びっくりした」

 黒谷さんに言われた。そうだった。黒谷さんにも見えるんだっけ。


「………」

 空君は赤くなって私を見た。それから照れくさそうに俯いた。

 ほわほわ。空君の周りはやっぱり、ほんわかしたあったかい空気がまとっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ