・王妃(未)の狩り
すいません。他のお話がなかなか進まないので、今回は少し短いお話です。
『巨大で凶暴な野生の動物が、畑を荒らして困っています。なにとぞ、対処をお願い致します』
そんな文章の書かれた書類を王から手渡されて、咲良は首を傾げた。
「どうして、これが私のところに回って来るんですか?」
不思議そうに書類を見ている咲良に、王は苦笑いを浮かべて。
「おそらく、動物への対処法として、お前の世界の知恵を借りたいと言ったところだろう」
「え~? 私の世界での、私の知っている対処法なんて、柵を作るとか、大きな音を出すとか、猟友会の人にやっつけてもらうとか、そういったものですよ。こっちの世界と、あまり変わらない気がしますが……」
困ったように、咲良は眉間に皺を寄せた。
仮に、その動物を退治するにしても、まあ普段は大剣の使い手だが、普通の剣も使えるクァルテや、暗器の得意なモクレンは別として、クロラムフェニルヴァイトの攻撃手段である火炎弾は、どんなに威力を押さえても半径数百メートルの範囲を焦土にする威力だし、双子は面白がって規模の大きい魔法ばかり使うし、ユーレナの場合は、精霊達が張り切ってどうしても精霊術の威力が大きくなってしまうし、普段のサフィールは戦えないし。動物一体一体を倒していくには、どうにも適さない気がするのだ。
「その動物の住処もまとめて、この辺り一帯を壊滅状態にするんでしたら、うち向きかもしれませんけど……」
むむむと首を傾げた咲良に、王はくっと口元を上げて、「その方が楽なら、そうすればいい」とさらっと言った。
「いやいやいやいや! しませんから!」
つい漫才師のように手の甲でつっこむ動作をしながら、咲良は再び手元の書類に目をやった。
いったいどんな動物なのだろうと、書類をめくると、そこには参考までにとその動物の絵が描かれていた。
大きな丸い形に、短い四肢、産毛程度しか生えていない柔らかそうな体に、突き出た鼻。その動物は、まさに地球でいうところの――。
「……豚……」
咲良はぽつりと呟いた。
その色こそ、キリンのような黄色と茶色の斑模様だが、絵で見る限りはどう見ても豚だった。大きさは、よく目撃されるもので三メートルはあるらしい。
その時、咲良の目がきらりと光った……気がした。
「陛下! 私、この豚を直接食べてみ……じゃなくて、見に行ってきます!」
そう、すちゃっと敬礼のポーズをして――ちなみに、この国の形ではない――、早足で王の執務室を出て行った。
そんな咲良を、王は執務机に肘をついて、楽しそうに見つめていた。
「クァルテ! モクレン! ちょっと私と来てくれる?」
「ええ、良いわよ?」
「どちらまでもお供します」
城内で見つけたクァルテとモクレンに声をかければ、クァルテは首を傾げながら、モクレンは当然とばかりに、頷いた。
「クロラムさーん! カンディー地方まで乗っけてってー!」
そして、城の屋根の上で寝ていたクロラムフェニルヴァイトを呼べば、「俺はお前の乗り物か」と文句を言いながらも、身軽に屋根の上から下りてきた。
「いざ豚肉ゲットに行くわよ!」
事情を説明する前に、クァルテ、モクレン、クロラムフェニルヴァイトを引っ張って、咲良は嬉々として動物退治に向かった。
竜体となったクロラムフェニルヴァイトの背中で、咲良はしきりに「生姜焼き、生姜焼き~♪」と鼻歌を歌っていた。
やがて到着した現地で、クァルテによって倒され、モクレンの手で見事に捌かれ料理された、その動物は、咲良いわく地球のものに比べればちょっと硬かったけど、でもとても美味しく頂けたらしい。
その後、その動物の肉料理が、アセスフィア王国の特産品の一つとなり、その動物の捕獲が、(王命によって)兵の訓練の一環に加えられたため、問題は無事解決し、農村の人達からとても感謝されることになった。
何より、その肉料理を、懐かしみながら嬉しそうに食べる咲良に、王やみんながほっこりしていたとか。




